美しくデザイン性ある安心空間を路上生活者にも:米国のホームレス支援団体が官・民の協力を得て実現しつつある超意欲的な取り組み

 あなたがもし住んでいる家を追われることとなり、頼れる人もいなかったら、どこへ向かえばよいのか?

やむなくそんな状態に陥ってしまった人たちの受け皿となるべく、各支援団体が努力しているわけだが、資金難や偏見などの難題が尽きないのも事実。米国で画期的なプロジェクトが進行しているというニュースが入ってきたので紹介したい。


米テネシー州メンフィス ー この街でホームレス状態になったなら、最初に訪れる場所はおそらく「ホスピタリティ・ハブ」だろう。ダウンタウンの一角、ノースセカンドストリートとジェファーソンアベニューの角に建つ、低層のれんが造りの建物だ。

ここではケースワーカーやボランティアの人たちがチームとなって、路上生活者それぞれに適した情報、カウンセリング、住宅サービスなどとつなぐ支援を行っている。ここを訪れることが「路上脱出の一歩になる」とスタッフらは自負している。

しかし支援サービスをより拡大していきたいとなったとき、一つの大きな課題が浮上した。「利用者全員が座れるるだけの十分なスペースがありませんでした」とケルシー・ジョンソン代表は言う。
しかし最近になって、彼らは敷地拡大の大きなチャンスを手にした。現在の事務所から 5ブロック離れたところにある車検場跡地に移れることになったのだ。

「ホームレス関連施設をGoogle 検索してみて下さい。すすんで入ってみたいと思えないものも多いですよね」とジョンソン。「せっかく優れたサービスを提供するのですから、見た目も魅力的なものにしたかったんです」

2007年の設立から10年超、メンフィスを代表するホームレス支援団体に

そこでホスピタリティ・ハブは、地元のアーティストや建築家、建築業者らと手を組むことにした。本部を移転するだけでなく、女性向けシェルターを開設、建物の周りには公共の広場を整備することにした。広場には一般的な設備を備えるだけでなく、路上生活者も“歓迎” のスペースとし、スタッフによるアウトリーチ活動をできるようにする計画だ。

設計が目指すかたちについて、当プロジェクトの提携企業 A2H の建築家ブラッド・シュミーディッケはこう語る。「ここを訪れる人たちが、快適かつ安心・安全を感じられる場にしたい。コミュニティの一員であると感じられ、温かく迎えられていると感じられるような空間です」

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完成予想図 (A2Hより提供)

2007年の設立から順調に活動の幅を広げてきたホスピタリティ・ハブにとって、この意欲的なプロジェクトはさらに大きな一歩となる。かつてはこの地域の路上生活者向けサービスといえば「ダウンタウン教会連合」が取り仕切っていたが、現在ではホスピタリティ・ハブがより知られた存在になっており*、路上アウトリーチ、20種以上の支援サービス*、州発行の身分証明書や出生証明書の取得サポートなどを実施している。

*メンフィスでホームレス状態に陥る人の96パーセントがこの施設を訪れており、昨年の新規利用者は1600人近くに達した(ホスピタリティ・ハブの試算)。

自治体の協力を仰ぎ資金と敷地を確保

ホスピタリティ・ハブが事業拡大に向けた資金集めに取り組み始めたのは3年ほど前のこと。資金や新たな敷地を確保すべく市や郡の自治体との連携をすすめ、その結果、空き地となっていた市所有の車両車検場を改修して使ってよしとする「官民パートナーシップ」が締結された。さらに、建物の周りに広がっている空き地(約900平方メートル)も公共の広場に生まれ変わらせることとなった。

ホームレス関連施設や路上生活者というのは偏見を持って見られることも多いが、開発チームとしてはこの広場をさまざまな目的で使えるスペースにしていきたい考えだ。「ここは路上生活者を引きつけると同時に、地域の住民や企業にとっても有益な場所としていきたい」とジョンソンは言う。

昨今のアメリカの都市では、ホームレス状態であることが “違法” とされる流れが起きている*。そんな中にあって、この広場には“路上生活者のため”の設備を設ける。「公共スペースの多くが、横になりたい、眠りたい、電話の充電をしたい、トイレを使いたい、そんな人たちを受け入れない場所となっています。最後の“頼みの綱” と公園や図書館に行っても、温かく迎えてもらえないのが現状です」シュミーディッケは言う。

*公共の場でテントを張る、寝る、ぶらつく、金銭を乞う、車中で生活することなどが法律で禁じられるようになっている。(参照『No Safe Place – The Criminalization of Homelessness in U.S. Cities』)

設計にはホームレス当事者たちの意見も反映

広場の設計にあたっては、ホスピタリティ・ハブの利用者やスタッフ(かつてホームレス状態だった人たちもいる)の意見もふんだんに取り入れた。まずは睡眠・食事ができる安全な場所など生活の質を保つ上で重要なもの。次に、携帯電話の充電スポットや買い物をしなくても使えるトイレなど日々の生活に必要なもの。

最終的な設計には、焚火コーナーやグリル、テーブル、パラソル付きベンチ、さらにはステージや庭園、フードトラック、ドッグラン、ポップアップストア*を出店できるスペースまで取り入れられた。訪れる人たちがそれぞれの過ごし方ができる、独特な公共スペースを目指している。


*期間限定で出店する形態の店。

「ベンチを置くにしても、焚火コーナーのまわりに置けば会話を楽しむ場所になる。広場の真ん中にある噴水近くに置けば、また違った感じになる。私たちはそのどちらをも提供したいのです」シュミーディッケは言う。

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https://www.hospitalityhub.org/momentum/ より

さらに開発チームは、広場のまわりに壁や柵を立てることなくプライバシーを確保できないかと考えた。そこで名案を思いついたのが、制作会社「ヤングブラッド・スタジオ」のアーティスト、タイラー・フレンチ。長さ2.5メートルのコンクリート管を使い、寝転べるスペースとカラフルなアート壁を融合させようというのだ。コンクリート壁(厚さ15センチ)が温度を調整してくれるので、日中は涼しく、夜間は暖かい。道路に面した側の壁にはカラフルな円形のアートが描かれ、芸術作品としての機能を果たす。

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完成予想図 (A2Hより提供)

携帯電話の充電機器や公共ロッカーなど、これまでに提供してきて人気があった設備も引き続き利用できるようにする。また、多くの利用者が “即金” を必要としていることから、洗車場を設け、そこで働くと賃金を得られるようにもする。

オープンな環境ではあるが、本部の建物と外部の間にははっきりと境界線を設け、安全性を確保する。女性用シェルター(32床)は入居者が安心して生活できるよう上階に設け、エレベーターでアクセスする。屋上からは階下の広場を見渡せる。

「屋上からは眺めも良く、階下の様子がよく分かりますし、中に入れば安心・安全に過ごせて、コミュニティーに属している感覚がある」とシュミーディッケは言う。

最近になって、ミシガン州の民間財団「クレッジ財団」から助成金14万ドル(約1500万円)を受け取り、全設計を遂行できることとなった*。2019年内に建設に着手し、2020年末までのオープンを目指している。

*https://kresge.org/grant/hospitality-hub-memphis

プロジェクトが実現すれば、ケースマネジャーが本部前の広場でアウトリーチ活動を行えるようになる。「なぜ路上生活に至ったのかを尋ね、家のある生活に戻れるよう手助けしていきます。まずはシェルターへ、そして移行住宅や長期的に暮らせる家へとつないでいきます」とジョンソン。

広場があれば路上生活者同士のコミュニティを維持しつつ、地域住民やさまざまなアクティビティ、食や芸術にも触れられる、というのがフレンチの構想だ。

「生活必需品以上のものを提供しようとするホスピタリティ・ハブの活動は非常にすばらしい。物理的なニーズを満たす、相談に乗るのは当然のことで、路上生活者たちも“美しいもの” に囲まれ、安心して生活できるべきなのです」

By Emily Nonko
当記事は非営利のニュースメディア『Next City』の記事を元に翻訳・編集しています。

Hospitality Hub公式サイト
  https://www.hospitalityhub.org

A2H のサイトでも当プロジェクトの進捗状況が紹介されている
Hospitality Hub First Phase Moving Forward








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