必要不可欠な働き手になれるホームレスの人々ー社会的企業Beamのクラファンプロジェクト

 医療従事者や教育関係者、物流や飲食産業に従事する人など、私たちの生活に必要不可欠な仕事を担う人を「エッセンシャルワーカー」と呼び、多くの人が外出を自粛するコロナ禍では、社会を支える彼らの活躍ぶりに注目が集まった。英国では、2019年度で全労働人口の33%にあたる1,060万人がエッセンシャルワーカーだ(統計局)。

英国では最初のロックダウン以降、100人近くの半分ホームレス状態にあった人々が、クラウドファンディングキャンペーンをきっかけに、エッセンシャルワーカーとして活躍している。社会的企業「Beam」が立ち上げたクラウドファンディング「Fund a Future(未来への投資、の意)」により、2020年3月以降だけですでに122人が仕事に就き、うち88人がエッセンシャルワーカーとして働いている。


「コロナ禍に、これだけの人たちに重要な役割を担ってもらえ、こちらが勇気づけられます」Beamの創業者アレックス・ステファニーは言う。「コロナ禍の大打撃を受けた人たちに希望と安定した生活を手にしてもらえ、とても嬉しいです」

2017年に設立されたBeamは、クラウドファンディングを利用して、ホームレス状態にある人たちがフルタイムの仕事に就けるよう支援するをミッションとしている。支援対象者となるのは、ホームレス支援団体からの紹介でこのサービスにつながった人たち。

フルタイムの仕事に就ける状態にあるかどうかをケースワーカーが確認した後、キャリアプランを作成し、キャンペーンを立ち上げて寄付を募る。寄付をする人は、彼ら・彼女らが仕事を得るために必要なスキルを身に付ける費用を支援するのだ。寄付したお金がどのように使われたかについては、定期的に報告を受け取る。

支援を受け、鉄道エンジニアと医療アシスタントに

サウスイースト・ロンドンに暮らすガズ・フィッツジェラルドは、2019年からBeamのプログラムを利用している。 パートナーと別れたことで住まいを失い、友人たちの家を転々としながら、なんとか路上生活を免れている状態だった。それが、Beamの支援のおかげで 5月には個室の賃貸物件が見つかり、クリスマスになる頃にはクラウドファンディングで540人の支援者から6,050ポンド(約90万円)の支援を受けられたので、職業訓練を受けて、鉄道関係のエンジニアとして正社員で働けることとなった。

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エッセンシャルワーカーとして働くガズ・フィッツジェラルド/Beam提供

「今は自活でき、貯金までできています。仕事に就けて、安定した収入のおかげで地域活動にも関われて、本当にありがたいです」とフィッツジェラルドは言う。

「娘は私をとても尊敬してくれていますし、私も娘を誇りに思っています。お父さんっ子で、友達みんなに 『パパはクリスマスの日も働いているのよ!』ってふれまわってます」

「エッセンシャルワーカーとして働く私を娘が誇りに思ってくれている、それがまた力になります。 毎朝目を覚まし、自分は世の中のためになることをしている、社会を動かしていると実感できるのは、とても気分が良いものです」

Gaz started work as a railway engineer

Beamの支援を受けて、医療サービスの仕事に就いた人もいる。

2人の子どもとホームレス状態にあったジョランティト・イヴォノヴァは、ハマースミス・アンド・フラム・ロンドン自治区議会からBeamに紹介された。キャンペーンによって2,893ポンド(約43万円)の寄付が集まり、今はウエスト・ロンドンで国民保険サービス(NHS)の医療アシスタントとして働いている。

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エッセンシャルワーカーとして働くジョランティト・イヴォノヴァ/Beam提供

「子どもたちに働く姿を見せることができて、とても嬉しいです」と話す。「子どもたちには、私が困難を乗り越えていく姿を見て、本気になればなんだってできるのだと知ってほしいです」

Jolantyte started work as a healthcare assistant

クラウドファンディングのキャンペーンが成功した後も、Beamは住環境が不安定な人々の支援を続け、コロナ禍でさらに広まった経済格差を埋めていきたい考えだ。

「私たちは、能力ややる気のある人たちを国民保険サービス関連や介護施設、スーパーマーケットや倉庫など人手が不足する場所で雇用できるよう、雇用主を支援しています」とステファニーは語る。「ホームレス経験がある人たちでも社会に重要な貢献ができることを示し、彼らに対する見方を変えていきたいと考えています」

By Josh Sandiford
Courtesy of INSP.ngo / The Big Issue UK bigissue.com @BigIssue


【オンライン編集部追記】

創業者のステファニーは地下鉄の駅で見かけた路上生活者の助けになればと、コーヒーや靴下を買ってプレゼントしていた。しかし、男の状況は改善されるどころか、さらに悪化していった。本当の変化をもたらすには何をすべきか考え、自立できるようスキルをつけられるチャンスを与えることだとの思いに至る。もちろんお金がかかる。国や自治体に任せきりにするのではなく、一般の人々がその支援に関わるクラウドファンディングならそれが実現できるかもと、Beamの事業を思いついた。これまでに220人がBeamの支援を受け、ホームレス状態から脱出できている。

Beamの支援実績
https://beam.org/campaigns/funded

Beam創業者 アレックス・ステファニーのTEDトーク

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https://www.bigissue.jp/backnumber/396/








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