菅義偉政権は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会の実現を目指す)」を宣言した。これを受けて12月に「グリーン成長戦略」を策定し、50年には二酸化炭素排出量を実質ゼロにするという。
「実質」というのは、排出量自体をゼロにするのではなく、それを吸収して、差し引きゼロにするという意味だ。
CO2排出量の多い石炭火力
原発で相殺を企てる大手電力
CO2の排出量が最も多い部門は発電部門だ。環境省が公表している19年度の速報値によれば、発電部門の排出量は全体の39.1%である(製油所などを含む)。産業部門は第3次産業を含めて31.1%、運輸部門18%、家庭4.8%となっている。なお、電気は2次エネルギーと言われ、各部門で使われるので、部門別に按分したデータもある。
発電部門では、排出量が多いのは火力発電で、排出単位で言えば石炭が最大だ。経済産業省は、石炭火力を優先して使い続ける「ベースロード電源」と位置付けている。燃料費が安いというのがその理由だ。これまで大手電力9社(旧一般電気事業者)は石炭が出すCO2を原発で相殺する経営方針をとってきたが、経産省も追認して、その2つをベースロード電源と位置付けていたのだ。
しかし、今この見直しが迫られている。対応の一つが、効率の悪い石炭火力の廃止だ。20年7月、経産相は「100基程度の石炭火力を廃止する」方針を打ち出した。電力会社は一基あたりの効率を高めて対抗しようとしている。もっとも、問題は、電力の自由化の中で、火力発電所の新設計画が50基近くもあることだ。その中止を求める声が高まり、いくつかは白紙となったが、今なお建設中のものがある。新設すれば数十年は使うことになるだろうから、実質ゼロ政策にはマイナスの効果しかない。さらに踏み込んだ見直しが必要だ。
太陽光発電、26年間で1200倍に
再エネで全需要を賄える
政府のグリーン成長戦略では再エネを最大限導入するとしているが、すべての電力需要を「100%再エネで賄うことは困難と考えることが現実的」と、CO2の回収(CCS ※)が前提の火力や水素利用、原発の活用などを続けようとしている。内訳は、原子力+火力+CCSで30~40%、水素・アンモニア発電10%。再エネは50〜60%と極めて消極的だ。
※ 発電所や工場などで発生するCO2を大気放散前に回収し、地中深くの石炭層や帯水層などに直接圧入。安定的に長期間貯留する技術のこと。
グリーン成長戦略では化石燃料消費を電力に置き換えてCO2を削減するので、電力需要が30〜50%増えるとしている。火力に対するCCSは実用化の見通しが立っていない。CCSが期待する成果を上げられない場合には原子力の割合がいっそう増える。
2050年には既存の原子力発電所の廃炉が進んでいるので、成長戦略では大量の新規建設を見込んでいることになる。しかし再稼働は進まず19年度はわずか6%だ。福島原発事故後は原発のコストが非常に高くなっているうえ、世論の反対を考えると非現実的な計画だ。
他方、太陽光発電設備は1990年の3.2万kWから2016年には3900万kWへと1200倍に増加した。風力発電設備は340万kWへ増えたが、本格的な増加はこれからだろう。この他にも小水力、バイオマス、地熱などの発電システムも増加している。政府の及び腰に対して、自然エネルギー財団や環境エネルギー政策研究所などは、再エネの潜在的な能力を引き出し、省エネを大きく進めることで、「エネルギー需要を100%賄うことは十分可能だ」としている。
現在、第6次エネルギー基本計画の見直しが進行中だ。これに対する意見募集が行われている。再エネ100%を求めよう。
(伴 英幸)
(2021年3月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 402号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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