販売者が自分の過去を「講談」で表現/BIG ISSUE LIVE #5「ビッグイシュー講談会+」

 ビッグイシューでは、講談師・四代目 玉田玉秀斎(たまだ ぎょくしゅうさい)さんによる公演「ビッグイシュー講談会」を毎月開催している。2019年1月から始まったこの公演シリーズでは、ビッグイシュー創刊から今に至る物語や、実在の販売者の人生を玉田さんが講談に仕立て上げ上演している。


2019年7月には、講談に魅了されたビッグイシュー販売者が「ビッグイシュー講談部」を結成。玉田玉秀斎さんの指導のもと研鑽を積み、メンバーは「玉玉亭」の亭号と、それぞれの名前をいただいて高座に上がっている。

2021年7月26日に行われたオンラインイベント<BIG ISSUE LIVE #5「ビッグイシュー講談会+」>では、「講談部」結成2周年を記念し、講談師・四代目 玉田玉秀斎さんと、ビッグイシュー講談部の玉玉亭壱秀(たまたまてい いっしゅう)こと吉富さんが登壇。

玉秀斎さんが「ビッグイシュー講談会」を始めるに至った経緯や、販売体験、販売者との関わりを通じて感じたことなどを中心にお話を伺った。
聞き手・司会:松岡理絵(ビッグイシュー日本編集部)

BIG ISSUE LIVE01
(写真中央)玉田玉秀斎さん、(写真右)玉玉亭壱秀さん、(写真左)松岡理絵(ビッグイシュー日本編集部)

この記事は、2021年7月26日にYouTubeで開催されたイベント<BIG ISSUE LIVE #5「ビッグイシュー講談会+」>を再構成したものです。
主催:ビッグイシュー日本

当事者に綿密に取材を重ね、語られる玉秀斎さんの「ビッグイシュー講談会」

――「ビッグイシュー講談会」とはどんな会でしょうか?

玉秀斎さん:
そもそもは僕が「日本でビッグイシューがなぜできたのか?最初になぜイギリスでビッグイシューが生まれたのか?」というお話をしたかった、というのがスタートです。

講談というのは物語なので、主人公が必要です。講談師は日本で現在90人から100人ほどいて、通常は秀吉や家康など歴史上の人物を題材にした講談をやりますが、「ビッグイシュー講談会」では、僕が事前にビッグイシューの販売者さんに取材させていただき、その話を元に僕が講談化して語っています。

とはいえ、とても聞きにくいことをインタビューして物語を作りますので、嫌な思いをされるんじゃないかという懸念もありました。でもそこを聞かないと作れない。申し訳ないと思いながら、販売者さんが勇気を出してお話ししてくださった、この信頼を裏切らないように、という思いでやっています。

講談は話芸という性格上、「講談師、見てきたような嘘を言い」と昔から言われているように、多少の脚色はあります。しかし講談は、昔は「講釈」と言われ、「講義解釈」、つまり、難しいものをわかりやすく物語としてお伝えするという目的もあるのです。この講談会では、物語を聞いていただくと、「なぜホームレスという状態が生まれてしまうのか」が、わかるように描きます。

BIG ISSUE LIVE02
玉秀斎さんは張り扇を叩き、実演で講談の特徴を表現してくださった。

「講談を楽しんで、良いことをしよう」

――「ビッグイシュー講談会」は具体的にどのようなきっかけで始まったんですか?

玉秀斎さん:
 「なぜホームレスという状態が生まれてしまうのか?」という疑問の答えにつながるお話を、もし当事者の方から聞ける機会があるならば、それをいつか僕が講談にしてお伝えしたい、ということはずっと考えていました。

2018年に阪神百貨店で「ポートランドフェア」という、アメリカのオレゴン州ポートランドについて紹介するイベントの司会をしました。その中で当地のクラフトビールの醸造会社「Ex Novo」を紹介したんですが、このビール会社はNPOとして運営されていると知りました。

「Drink Beer. Do Good.」という標語を掲げていて、かっこいいな、と。ビールを飲むと、利益は社会のために使われる。「私たちのビールを飲んで、良く生きよう」って。僕の中で、今まで抱いてきたNPOのイメージが変わりましたね。社会貢献は身を削ぎながら人に尽くす、なにもかも善良な人でなければいけないという、そういうイメージが強くて「自分にはそこまでできないかな」と、思っていたんです。

でも「そうか、講談を聞いていただいて、世の中のためになる」―「Watch KODAN. Do Good.」 ―「講談を楽しんで、良いことをしよう」、こんなこともできるんじゃないかなと。

その後しばらくして、2018年の10月、講談会に来られたお客様たちと交流をする、懇親会が珍しく行われることになりました。その日はお客様として、(今日の司会の)ビッグイシュー日本編集部の松岡さんがお越しいただいていて、とても驚いたんです。僕はビッグイシューのことは少しだけ知っていました。初対面の松岡さんに、さっきの「Watch KODAN. Do Good.」 の話をして、「こんなことってできるんですかね?」って聞いたら、松岡さんが「できるんじゃないですかね」って言ってくださったんです。

それから準備をして、「ビッグイシュー講談会」がその3ヶ月後にスタートしました。こんな感じで、ふとしたきっかけで始まったことが一番続いたり、一番結果が出たりするんですよね。

BIG ISSUE LIVE03
玉秀斎さんと弟子の玉山さんは、播秀さんとともに実際の売り場に立ち、販売体験をした。(コロナ禍になる前の様子)

講談に魅了された、販売者メンバーによる「講談部」が結成

――玉秀斎さんは企画書まで作って、打ち合わせのため編集部にもよく足を運んでくださいました。

玉秀斎さん: 
僕には「ビッグイシュー講談会」に販売者さんを招待したい、という思いもありました。今は生の芸能に触れられる機会が少なくなりましたが、演者からすると、講談を見て元気になってほしい、幸せな気分を味わってほしい、そういう気持ちでいつも舞台に立たせてもらってますから。

毎回 お越しになりたい販売者の皆さん全員を招待して講談を見ていただきました。私も月例の「販売者サロン(※注2)」のぼうへ参加させていただいて、何人かの販売者の方から声をかけていただくことがありました。その中から講談部を作りたいというお話があって、とても嬉しかったです。そこまで踏み込んで来てくださる方がいらっしゃったことが嬉しかったんです。

※注2:
ビッグイシューの東京・大阪事務所でそれぞれ月1回、販売者・関係者・ボランティアの方の交流の場として行われていた「月例サロン」。

――ビッグイシュー基金では販売者さんの文化活動を応援する事業として、3人以上メンバーが集まれば部活動として支援しています。

玉秀斎さん: 
最初「講談部」結成の時は4人の方が集まってくださいましたね。「講談部」が正式にスタートしたのが2019年7月。そこから毎月2回から3回のお稽古を続けました。その後、「講談部」のメンバーも本番の高座を迎えることになりました。

BIG ISSUE LIVE04
玉秀斎さんと販売者の皆さんの稽古の様子。(2019年8月)

思い知らされた、当たり前ではない日常

玉秀斎さん: 
この頃はちょうど、僕の中で考え方が大きく変わる時期でした。ホームレス状態にある方たちと、こんなに頻繁にお会いすることが今までなかったので。今でも忘れられないのが、最初のお稽古の時です。お稽古が終わって部員の皆さんに原稿をお渡しして、「またお家でお稽古しておいてくださいね」って、他の場所で講談を教えた後に言うような気持ちで言ってしまったんです。そう言ったあとに、 「この中にはそもそも家が無い方がいらっしゃる」、そこにハッと気付いたわけです。

当たり前のように言っていることが、実は当たり前ではなかった。そのことを思い知らされました。僕はすぐに皆さんに謝り、「夜は暗いので、無理なさらないでください」と言いました。すると販売者のお一人が、「玉秀斎さん、大阪の夜は輝いてますよ」と、おっしゃったんです。その言葉に衝撃を受けました。僕は教える立場ですが、この講談部の活動を通じてずっと学び続けている感じはあります。

――「ビッグイシュー講談会」に、参加して、メンバーに変化はありますか。

玉秀斎さん: 
「ビッグイシュー講談会」では、私の前に販売者の方に舞台に上がっていただいて、講談を披露していただいています。お稽古はしっかりとやります。部員の皆さんには講談を作っていただきますが、普通の「ものがたり」とは作り方が違いますし、難しいですから、それを修正して本番に向けて稽古をします。

壱秀さん、播秀さん、お二人ともとても上手くなってるんです。物語の作り方もうまくなっているし、講談のリズムとか、目線の配り方とか、できるようになってきてるんです。ご自身の人生を、ご自身の言葉で語っていただくのもそう遠くないなと思います。

BIG ISSUE LIVE05
壱秀さんが、恒例のビッグイシュー誌面紹介を披露。

客観的に人生を見つめ直したら、悩みがちっぽけなものに思えた

――壱秀さんも最近は、どんな表情にしようかとか、表現方法を考えて講談をされていて、非常に楽しんでいらっしゃると、そばで見ていてもわかります。


玉秀斎さん:
壱秀さんは、取材を受ける前と後では変わったことはありますか?講談を聞いて人生の捉え方が変わりましたか?

壱秀さん:
この2年間、「ビッグイシュー出張講義」で体験談を語ったり、自分の人生を玉秀斎さんに取材してもらったりしてわかったことは、自分の過去を振り返ってみることは、ホームレス状態を経験した人にとっては大事だということ。取材で話したあと、家にいるときや仕事の時も一人で色々と考えます。すると、ちっぽけなことに悩んでたんだなと、そういうことがわかりました。今まで「これは話したくないな」と思ってきたことも、「自分で思ったほど隠すようなことでもなかったんだな」と思いましたね。

玉秀斎さん:
販売者さんは、私のことを信頼して話してくださっていると感じますし、その信頼に応えようとこちらも考え、その方の状況を想像します。販売者さんは、当初話したくないと思っていたことも、次第に乗り越え、話していただいたことによって、私自身も講談師として乗り越えられた壁がありました。壱秀さんがご自身で客観的に振り返ることができたということを聞いて、私も嬉しいです。講談の可能性を感じます。

BIG ISSUE LIVE06
2019年12月、中之島公会堂にて、自作のクリスマス講談を披露する播秀さん。

誰も素敵な言葉を持っていて、その言葉でストーリーを語ることができる

販売者の皆さんは、素敵な言葉をお持ちです。だからきっと講談が上手くなる要素があるのだと思います。言葉を持っていないと講談はできないのです。
2019年12月には、ビッグイシューの「クリスマスパーティー」があり、200人ぐらいの方が大阪の中之島公会堂にお越しくださいました。この日は、4人の販売者の皆さんが、自身の言葉でクリスマスの講談を作って、本当に素晴らしいお話を語っていただきました。

――玉秀斎さんは、これまで5人の販売者さんの人生を講談にしてくださいましたが、どのような感想を持たれましたか?
ある方は介護離職でホームレス状態に、ある方は社会状況の変化でホームレス状態になった。やはり個人個人、事情は違うんだと感じます。ホームレス状態になった原因が、自己責任だったかどうかという議論だけで、世の中が画一的に問題を片付けていこうとしている。でもそれは違うと感じています。

――それは講談会に来てくださったお客様も、その思いとともに講談を聞いて、持ち帰ってくださっていると感じます。
玉秀斎さん:
今後「ビッグイシュー講談会」と講談部がどうなっていくのか、すごく楽しみです。


次回の「ビッグイシュー講談会」は8月27日(金)に行われる予定です。
大阪淀屋橋「周 amane」にて、夜7時開始。壱秀さんは新作の講談一つと誌面紹介の講談。
播秀さんも新作の講談を披露されます。
https://www.bigissue.jp/event/479/

過去のビッグイシュー講談会の様子はこちらから。

※新型コロナウイルス感染症拡大の状況によっては中止・延期することもあります。

・Youtube 当日の配信アーカイブはこちら

**

玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい/講談師)

1976年、大阪市平野区生まれ。大阪市立大学法学部を卒業後、司法浪人を経て、新聞広告を見て講談の門を叩く。2001年に旭堂小南陵(現・四代目 旭堂南陵)に入門。旭堂南陽の名で講談師となる。
幕末の京都で活躍した神道家・玉田永教の流れを汲む玉田家の、その「四代目 玉田玉秀斎」を2016年襲名。現在では、スマホを使った『即興ググる講談』や音楽コラボ『ジャズ講談』、またホームレスの方々への取材を元になぜホームレスになったのかを描く『ビッグイシュー講談』などを手掛ける。

講談師 四代目 玉田玉秀斎 Official Web Site
四代目 玉田玉秀斎 (@nanyouk) ‐ Twitter
**

玉玉亭壱秀(たまたまてい・いっしゅう/ビッグイシュー販売者)

奈良県・生駒駅2階中央改札口前で雑誌『ビッグイシュー日本版』を販売する現役の販売者。2019年7月にビッグイシュー講談部の結成と同時に「玉玉亭壱秀」を襲名し、これまで約2年間、自らのホームレス経験などを講談にして、『ビッグイシュー講談会』やYouTube「ビッグイシュー・チャンネル」などで発信を続けている。
**
記事作成協力:Y.T

あわせて読みたい