ウクライナから近隣国に避難した人々は200万人を超えるとみられている(2022年3月10日時点)。すでに約20万人超の避難民を受け入れているハンガリーの状況について、ブダペストのストリートペーパー『Fedél Nélkül』から支援現場のレポートが届いた。ライターは公共サービス大学の学生、ボルディザール・ジェーリだ。
ボルディザール・ジェーリ(以下、ジェーリ):
私はほぼ毎朝ニュースをチェックするのを日課にしているのですが、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日の朝はたまたまニュースを見ずに学校に向かいました。どうしてみんな授業に来ないんだろう、先生も遅れてると思っていたところ、皆が顔をこわばらせて教室に入ってきました。「ロシア軍がウクライナに侵攻しました。すでに8人の犠牲者が出ています」スペイン語の先生がそう言った瞬間を、この先もずっと忘れないでしょう。
ブダペスト東駅の周辺には、週末にかけてウクライナのナンバープレートをつけた車が殺到しました。そのナンバーから、キエフ、ハリコフ、オデッサと戦闘が起きている地域からやってきたことがわかりました。大勢の避難民が流れてくるだろう、ソーシャルメディアや国境方面から聞こえてくるうわさはすべて現実のことになりました。そしてハンガリーでは、自分たちが暮らす街を破壊された人たちをあたたかく迎え入れるため、すぐにみんなの協力が始まりました。
鉄道の主要駅の前に公共バスを駐車し、避難民が暖を取れるようにしました。国境付近には支援団体がテントを設営し、避難民に食料や毛布の支給をはじめ、いろんな支援を提供しています。
ハンガリーのウクライナ国境近くの町ヴァサロスナメニの支援センターにて、2022年3月5〜6日撮影。Photos by Gábor Csanádi
最初の数日は、タクシーなどがボランティアで避難民を首都や近くの街に送迎しました。週末、私は慈善団体カリタスからの支援物資をウクライナ西部のザカルパート州に運ぶのを手伝いました。国境のウクライナ側では、先が見えないくらい車の長い列ができていました。寒い中、エンジンを停止させて待つ間に凍ってしまった車もたくさんありました。ガソリンが底をつきそうになり、お店やATMの前には長い列ができました。
避難民の目には生気がなく、子どもたちは見てるこちらがつらくなるくらい素直でした。何日もかけて国境を越えてくる人たち、特にキエフからブダペストまでの長距離を混み合った電車で立ったまま移動してきた人たちには、とにかく支援が必要です。
ハンガリーのウクライナ国境近くの町ヴァサロスナメニの支援センターにて、2022年3月5〜6日撮影。Photos by Gábor Csanádi
政府による人道的協議会も設立されましたが、社会的弱者の支援に何十年もの経験があるNGOの活動と比べると、まだまだスピード感が足りません。「ブダペスト・バイク・マフィア」や「シェルターハウス・ファンデーション」はホームレス支援で何年もの実績があるので、食料の収集や避難民への支給をとてもスムーズに調整しています。
ハンガリーのウクライナ国境近くの町ヴァサロスナメニの支援センターにて、2022年3月5〜6日撮影。Photos by Gábor Csanádi
ホームレス支援団体が寄付集めと食料・物資の配布で活躍
上記の「ブダペスト・バイク・マフィア」の一員として避難民支援に取り組んでいるゾルタン・フサールは言う。「木曜日の朝、ニュースでロシア軍のウクライナ侵攻を知り、すぐに募金集めに取りかかりました。土曜日には大々的となり、たった4時間で数千人から多額の寄付が集まりました。私たちは、まだ大きな支援団体が国境沿いにキャンプを設営できていない段階で、一般市民が提供してくれる交通手段や食料などをうまくまわすことを目指しました。大々的な仕組みがまわりだすまでは、市民が提供してくれる寄付品なども私たちのような有志の活動でようやくまわるのです。食料の収集と配布が私たちの得意分野ですからね」
ハンガリーのウクライナ国境近くの町ヴァサロスナメニの支援センターにて、2022年3月5〜6日撮影。Photos by Gábor Csanádi
自治体、大学、民間企業の迅速なアクション
ジェーリ:自治体が担っているのは寄付金のとりまとめ(ナジカニジャ市)、寄贈された物品の収集・仕分け(ペーチ市)、アパートの空き部屋の提供などです。例えば、ブダペスト12区では50室を、10区ではバラトン湖周辺の60室を、ソルノク市は一挙に200室を提供しました。ミシュコルツ市では、地域の公共交通機関の月間フリーパスを避難民に支給しています。
大学も提供できる部屋数を随時アナウンスしています。デブレツェン大学が250部屋、モホリーナジ芸術大学は100部屋を提供しました。私は公共サービス大学で寮生活を送っているのですが、今朝キエフからの避難民28人がやって来ました。彼らが快適に過ごせるよう、できるかぎりのことをしたいと思っています。
民間企業もアクションを起こしています。宿泊予約サイトszallas.hu では民泊施設のリストをまとめ、通常の宿泊代なしで利用できるようにしています。児童保護団体はバラトン湖にある建物を提供してくれました。豚肉加工業者コメタは、成人の避難民を工場労働者としてすぐに雇用できると発表しました。
ストリートペーパー編集長が語るホームレス支援と避難民支援の違い
ホームレス支援の経験が豊富なストリートペーパー『Fedél Nélkül』の編集長ロベルト・ケペは言う。「避難民支援とホームレス支援は同じような活動と思われるかもしれません。でも実際はもっと複雑で、支援団体の担当者たちが直面する問題は大きく異なります。避難してきた人たちはウクライナ語やロシア語を話しますが、私たちはハンガリー語と、まず言葉の問題があります。それに、ホームレスの人たちと違って避難所やシェルターでの生活経験がありませんからね」
ハンガリーのウクライナ国境近くの町ヴァサロスナメニの支援センターにて、2022年3月5〜6日撮影。Photos by Gábor Csanádi
長期化しても、中央ヨーロッパとして支援を続ける
ジェーリ:このようにNGOや草の根団体が協業し、迅速な対応を取ってくれているあいだに、大きな支援団体が国境に移動し、避難民の受け入れ体制を整えていったのです。
しかし戦闘はすぐには終わりそうにありません。ロシア兵が大都市を包囲する今、ウクライナ市民はさらなる苦難を被り、戦争は長期化し、さらに多くの避難民が押し寄せるだろうと軍事アナリストたちは言っています。
戦争が長期化することになり、ニュース報道が戦況を時々刻々と伝えなくなったとしても、支援のモチベーションを維持することが重要です。協力体制を取るのは緊急時だからではなく、中央ヨーロッパの根幹なのだということを世界に示していきます。
ハンガリーのウクライナ国境近くの町ヴァサロスナメニの支援センターにて、2022年3月5〜6日撮影。Photos by Gábor Csanádi
現場では慈善団体が活躍。政府にも有効策を期待したい
ハンガリー国内での対応について、ケペ編集長はこうも語った。「私たちは数千人もの市民が国境に駆けつけ、食料や衣服の支給、あたたかい言葉がけをしていることを本当に誇らしく思います。現場では、大小含め数十の慈善団体が活動しています。自治体、大学、野営地、ホテル、そして多くの市民が宿泊場所を提供しています。寄付や交通手段の支援がさまざまな方法で進められ、国全体が強い結束を見せています。それだけに、中央政府や各政党のこれまでどおりの対応が何とも残念です。実効性のない宣言ばかりして、効率的な活動、現実的な対話がなされていません。今はとにかく戦争の恐怖が一日でも早く終わることを心から望んでいます」
By Boldizsár Győri
Translated by Bernadett Berkes
Courtesy of Fedél Nélkül / International Network of Street Papers
ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。