ウクライナ避難民に対し市民は柔軟な支援体制を見せるも、「お役所仕事」がネックとなっている英国の現状

 ロシアによるウクライナ侵攻以来、遠く離れた日本にも避難民が少しずつ到着している。その数、400人強。(2022年4月5日現在)2020年度に難民認定したのは47人のみ(難民認定率0.5%)と、難民の受け入れに慣れていない国としては前例のない数だ。

ウクライナの近隣国では何十万、何百万もの避難民を受け入れているが、受け入れはどのように進められているのか。『ビッグイシュー・ノース』(英マンチェスター拠点)から、英国北東部ヨークシャーの慈善団体の支援活動レポートが届いた。(原文は2022年3月31日掲載)


迷路のように入り組んだキースリーの住宅街を、カーナビを頼りに次々と車やトラックが走り抜け、かつてカトリック教会だった建物へと向かう。こんな光景が、すでに1カ月以上続いている。広大な敷地にあるこのビクトリア様式の石造りの建物は、聖職者の不足が原因で用途を広げることとなり、格安の賃貸料で地元の慈善団体に提供されることになったのだ。そして「グッド・シェパード・センター(Good Shepherd Centre)」と改称し、キースリーにやって来る移民の支援拠点となっていった。

そして、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まってからは、その支援対象をはるか彼方まで広げ、ウクライナからポーランドに入国している数百万人の避難民を支援している。センターには、支援物資を満杯に積みこんだ車両が次々と到着する。戦争が始まった最初の数日はポツポツだった車の数はすぐに大きな流れとなり、北はヨークシャー・デールズ、東はエア渓谷沿いの町や村、西はランカシャーの町からと多方面からやって来る。

持ち込まれるのは冬物衣類、靴、毛布、羽毛布団、簡易ベッド、テント、寝袋などなど。屋根裏やガレージで埃をかぶっていたもの、というわけでもないようだ。というのも、その多くが買ったときのパッケージそのままで、寄付した人たちの善意が見て取れる。医薬品や洗面用具、チョコレート、ペットグッズなど小物をいっぱい詰め込んだ袋もたくさん届く。

「その量に圧倒されました」と語るのは、センター代表でポーランド出身のドロタ・プラタ。「特に最初の週はものすごい勢いで、支援物資を届ける車両が長い列をなし、駐車スペースを見つけるのもやっとという感じでした。センターのガーデンエリアが壊れないかと心配したくらいです」。先週までに40トン以上の支援物資をポーランドに届けたグッド・シェパード・センターは、英国で最も勢いのある人道支援活動のひとつとなっている。これまでにも世界各地の紛争地域からの避難民の受け入れ・支援を行っていたセンターのスタッフたちは、ロシア軍がウクライナに侵攻したその日に“活動の枠を広げるべき”と判断し、あらためて自分たちを奮い立たせたという。

移民支援を受けてきた者たちが、今度は精力的にウクライナ支援に取り組む

ウクライナ避難民を支援するには信仰やバックグラウンドにかかわらず力を結集させる、グッド・シェパード・センターの取り組みはその典型的な例となっている。

もちろん最初の原動力となったのは、キースリーのウクライナ人コミュニティだった。英国には第2次大戦後、2万1千人もの人々がウクライナから「難民」として英国にやって来たため、多数のウクライナ人コミュニティが存在する。彼らの大半は、英国北部の工場地域で職にありついた。キースリーに暮らすウクライナ出身者も3桁に及ぶ。英国ウクライナ協会も、ブラッドフォード、ベリー、ドンカスター、ハリファックス、ハダーズフィールド、リーズ、マンチェスター、ロッチデール、ストックポートに支部がある。

そしてすぐに、グッド・シェパード・センターの人道援助活動は、この20年の間にキースリーに生活拠点を築いた東欧からの移民など、他のコミュニティの協力を取り込んでいった。2009年の設立以来、センターではおよそ30カ国からの移民定住サポートを行ってきた。近年は中東やアフリカからの難民が中心だった。そして、支援を受けてきた側の彼らが、今度はボランティアとしてウクライナ支援に手を貸してくれており、なかには1日14時間働く者もいる。

地元有力者たちの寛大なサポート

いち早く寄付品をセンターに運び込んだのが、地元の女性実業家ロレイン・コウチと娘のレアンだ。数日もすると建物内が支援物資であふれそうになっている様を目にした彼女たちは、すぐに1マイルと離れていないところにある自社の広大な倉庫スペースの提供を申し出た。現在、すべての支援物資はここに運ばれ、仕分け、箱詰め、荷台に載せ、トレーラートラックへと積み込んでいる。

廃棄物リサイクル企業レオ・グループの経営者で、親がウクライナ人のダニ―・サウリーも、ニック・ライシュチュク(キースリーのウクライナ人コミュニティの代表メンバーで、サウリ―の長年の知り合い)からの支援要請に快く応じてくれた。「電話で相談すると、ダニーは何のためらいもなく『トラックは何台いるんだ?』と聞いてきました。でも、お金は出せないと伝えると、『大丈夫。何台でも費用はこちらで負担する』と言ってくれたんです」とライシュチュクが振り返る。

先週、倉庫で寄付品の分類をしていたのは、キースリーのウクライナ女性協会の代表イレネ・シハンコだ。彼女の父親は第二次大戦後にウクライナ西部の街リヴィウから英国に移り住み、母親はベラルーシ人の孤児だったという。英国にある63のウクライナ人協会のZoom会議に参加した彼女は、全員が地元の人たちの寛大さに心を揺さぶられていた、と涙ながらに話す。

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集まった支援物資のごく一部とキースリーのウクライナ女性協会のイレネ・シハンコ代表/ Photo by Roger Ratcliffe

キースリーのロータリークラブ会員のクリス・ボーンは、寄付された洗面用品の仕分けに忙しい。シャンプー、シャワージェル、石けん、歯磨き粉、包帯、医薬品をそれぞれの箱に分けていく。箱には番号と内容物をポーランド語と英語で明記する必要がある。「人道支援といえども、税関申告が必要なんです。お役所仕事となると膨大な作業が発生します」と言う。

ある時には40人以上が倉庫で作業している。これまでに、およそ6千もの大きな箱をいっぱいにし、ポーランド南部のオポーレ市(ウクライナ国境から車で約1時間)にある流通センターへと運んだ。プラタと助手のエベリネ・ヤンコフスカは2人ともポーランド人ということもあって、ポーランド側の受け入れ体制構築もスムーズだった。最も支援を必要としている人たちに物資が行き渡るよう管理し、医薬品はオポーレからウクライナ国内へ送られている。

英国の避難民受け入れ体制の現状

どんどん集まる支援物資を整理して4台目のトラックを準備する一方で、今後キースリーにやって来るであろうウクライナ避難民の受け入れ準備も進めている。

しかし、英国への入国は容易ではない。ウクライナ避難民への門戸を開こうとしない英政府には厳しい目が向けられている。EU諸国がビザ(査証)免除に踏み切る中、英外務省はいまだにビザ取得を要件としているのだ。ポーランドでビザ申請をサポートしている英国のボランティアたちも、避難者に対する質問が理不尽だとこぼす。ある報道によると、テディベアのぬいぐるみと洋服が入ったリュックだけを手にした3歳児にも軍隊の経験や犯罪歴を問い、成人でも住宅ローン関連の書類がないとビザ申請を進められなかったという。戦地から慌てて逃げ出した中で、持っているはずもない。

英政府によるビザ申請には2つの方式がある。ひとつは、英国内に近親者がいるウクライナ人のための「ウクライナ・ファミリー(Ukraine Family)」制度。先週半ばの時点で3万3,500件の申請があり、そのうち申請許可が下りたのは半分以下だった。もうひとつは「ホームズ・フォー・ウクライナ(Homes for Ukraine)」と呼ばれる制度で、英国内の個人や組織が避難民のスポンサーとなって住居を提供するものだが、この記事の執筆時点では、この方式で発行されたビザは1件もなく、慈善団体は申請方法が「複雑すぎる」と警告している*1。

*1 その後の最新の数字(3月末時点)は、「Ukraine Family」制度では2万2,800件、「Homes for Ukraine」制度では2700件の申請が下りている。
参照:UK opens more welcome hubs for Ukrainian refugees

キースリーのウクライナ人コミュニティとしては避難民を迎え入れる準備ができているのに、「ビザ申請に関するあきれるほどのお役所主義により、避難民たちに面倒な手続きがのしかかってしまっている」とライシュチュクは言う。「地元のブラッドフォード議会も、この問題に対処できる体制を構築できていません。避難民を受け入れるのに犯罪歴チェックが必須になっているなんて、人身売買にかかわる悪徳な人たちでないかを確かめるのと同じやり方じゃないですか。戦禍を必死の思いで逃れてきた人たちにはむごすぎます」

グッド・シェパード・センターでも、プラタがウクライナ語を話せるようになっておこうと、ライシュチュクから指導を受け始めた。それにセンターには、シリアやエリトリアなどからの避難民受け入れで培ってきた技能や知見がある。「ウクライナからの避難民支援にも役立てていけるはず」とプラタは意気込んでいる。

グッド・シェパード・センター
https://www.thegoodshepherdcentre.org.uk

By Roger Ratcliffe








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