初めて、甲状腺がんで東電を提訴。10年間、手術や転移、差別に怯えてきた若者たち

 福島原発事故で被曝したことにより甲状腺がんになったとして、6人が損害賠償を求めて東京電力を訴えた。福島原発事故による被曝が原因での訴訟は全国でも例がなく、画期的なことである。
2022年1月27日、東京地裁に提訴した男女6人は、事故当時6~16歳。その中の2人は片方の甲状腺の摘出手術を受けて現在に至る。4人は再発して2度の手術で甲状腺をすべて摘出した。うち1人は4度も手術を繰り返し、肺への転移も見つかっている。


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1月27日、提訴に向かう弁護団ら  写真提供:片岡遼平さん

事故当時の子ども6人
うち4人が再発、全摘出

 弁護団には河合弘之弁護士、海渡雄一弁護士といった数々の原発訴訟にかかわってきたベテラン弁護士らに、弁護団長として井戸謙一弁護士が加わっている。井戸弁護士は裁判官時代の2006年に北陸電力・志賀原発(石川県)の裁判で運転を差し止める判決を下したことで知られる。

 提訴後の記者会見で発言した原告の女性(27歳)は以下のように述べた。「甲状腺がんがわかった時、医者からは被曝とは関係がないと言われ強い違和感を持った。やりたかった仕事につくことができたが、術後は風邪をひきやすく、すぐに疲れるなど体調がすぐれず、辞めざるをえなかった。震災当時に差別があったことから、がんが知られると差別を受けるのではないかと恐怖に怯え、この10年間、口を閉ざしてきた」。しかし、同じような状況の子どもたちが300人近くもいる。「この子どもたちのために、状況を少しでも変えたい」と提訴に踏み切った。

 また、ある原告の母親は、息子は事故当時高校1年生、被曝をできるだけ避けるように気をつけていたが、県の調査で甲状腺がんと診断された。経過観察していたが、がんが年々大きくなっていったため手術をした。残る傷跡が痛々しい。「被曝との因果関係をはっきりさせ、この問題に決着をつけたい」と訴えた。

若年層37万人中、手術222人
なお被曝との因果関係認めず

 福島県は事故当時18歳以下の若者と翌11年に生まれた乳児、約37万人に対して11年から甲状腺調査を実施している。甲状腺のエコー検査で、結節や嚢胞が見られた場合に、細胞診による2次検査が行われる。全県が対象のこの調査は、1回に2年かかる。甲状腺評価検討部会が公表した資料によれば、先行調査を含めて4回目までの検査結果が確定し、5回目の評価の途中である。これまでに、266人の甲状腺に悪性腫瘍もしくはその疑いがあるとの結果。この男女比は、102人対164人。そのうち手術実施数は222人で、1人の良性結節を除きすべてが甲状腺がんだった。

 若年層の甲状腺がんは、一般には年あたり100万人に1~2人なのに対して、福島は37万人に対して222人だから、非常に多い。しかし、同評価検討部会は被曝との因果関係を認めておらず、「将来まで発症しない、あるいは死に結びつかない甲状腺がんを過剰に診断している結果だ」というのである。
 しかし、手術の結果、どれも手術すべきがんだったことから、過剰診断とは言えない。今回提訴した人の中にも再発して2度の手術を受けたり、4度の手術に加え転移が見られる人がいることからも否定できる。井戸弁護士は記者会見で過剰診断説を強く批判した。

 弁護団は「提訴には非常に勇気が必要だったと思う。手術した人たちは、生涯、甲状腺ホルモンを飲用しなければならず、人生そのものを奪われたともいえる。裁判に勝利するだけでなく、安心して生活が続けられる医療保障制度を作りたい」と抱負を語った。
(伴 英幸)

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(2022年3月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 426号より)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/