新たな住まい方、“コウハウジング”。企業の利益最大化ではなく、長く住むことを目的にした住宅開発

住宅を持つことのハードルが高くなり、住宅費に苦しむ人が増えている昨今、共同出資で空間やリソースを確保する“コミュニティ暮らし”への関心が高まっている。住宅危機が深刻化しているオーストラリアで、新たな住まい方の一つとして注目されるのが「コウハウジング」、いわば集合住宅コミュニティーだ。タスマニア州にあるコウハウジングを『ビッグイシュー・オーストラリア』が訪ねた。

「コウハウジング・コ―プ」-3ヘクタールの敷地に独立式のアパートが12戸

人類の歴史の大半において、人々は何らかのかたちで“共同の暮らし”を営んできた。別々の世帯に分かれて住み、物や責任を共有しなくなったのは、長い歴史で見れば、かなり最近のことだ。タスマニア州サウス・ホバートに建つ「コウハウジング・コ―プ」に22年前から暮らすリンダ・シーボーンは、「ここに入居して、人生が変わった」と断言する。ウェリントン山のふもとに位置する3ヘクタールの敷地には、共有のコモンハウスを取り囲むように、こじんまりとした独立式のアパートが12戸(それぞれに2〜5ベッドルームがある)建ち並ぶ。「各アパートにも台所があるのですが、コモンハウスでみんなで食事することもできるんです」とシーボーン。「コモンハウスには、大きな台所とダイニングルーム、そして洗濯室、仕事スペース、ゲスト用の部屋もあるんです」

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シーボーンは「コウハウジング・コ―プ」建設プロジェクトを主導した1人で、最初の入居者でもあった。安定して暮らせる住まいとコミュニティを探していたし、住環境を自分でコントロールしたいという強い思いがあった。

「私はシングルマザーで、娘は当時13歳でした。ここに入居するまでは、民間の賃貸住宅に暮らしていましたが、家賃も高くて、常に不安がありました。なかには、本当にひどい物件もありました……」

デンマーク発祥のコウハウジングとは

「コウハウジング」は、1960年代のデンマークで始まった住宅設計や開発のひとつのあり方だ。“集落”という考えにもとづいて開発し、コモンハウスを取り囲むように小さな個人宅が建ち並ぶのがよくあるパターンだ。サウス・ホバートの「コウハウジング・コ―プ」もまさに、この原則にのっとって建てられた。「駐車場は敷地外にあるので、歩行者にやさしく、子どもがいても安心です。“偶然の出来事(happenstance)”がそのコンセプトにあり、住人が日々の生活のなかで自然に顔を合わし、やりとりし、コミュニティ感が促進されるよう設計されています」とシーボーンが説明する。

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コミュニティ感と同じくらい重視しているのが、価格の手頃さだ。「コウハウジング・コ―プ」は低所得者向け住宅なので、公営住宅の対象者でなければ入居できない。「住まいに関して多大なストレスを抱えてきました。一時はホームレス状態でした。ここでは、そんな経験をしたのは私だけではありません」とシーボーン。

「コウハウジング(cohousing)」や「コーポ(cooperative)」はどちらも住宅モデルをあらわす用語だが、その意味するところは違う。前者は集落タイプの住宅設計を、後者は敷地内の建物の維持管理を住居人たちが担うビジネスのしくみを指す。シーボーンが暮らす「コウハウジング・コ―プ」は、その名のとおり、そのどちらの意味も込められている。90年代に利用できた政府の資金提供制度と、やる気に満ちた人々のニーズがうまくマッチしたからこそ、プロジェクトの創設から、土地の確保、住宅の建設までこぎつけられた。とはいえ一進一退の日々で、約7年の年月がかかったという。当時は、こんな住宅モデルが珍しかったせいもあるだろう。

「でも、その努力のかいがありました」と、安堵感と高揚感を感じていた当時を振り返るシーボーン。「大人も子どもも楽しそうで、キャンプ場にいるようでした。こんな場をつくりだせたことに、みんなで驚いていました」。20年近く経った今も、この住まいに対する喜びはまったく変わらない。

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「大きな裏庭から坂を下ると小川があって、ウェリントン山公園やハイキングコースにつながっているんです。もっと多くの人に、こんな場所で暮らしてもらいたいです」

独創性と価格の手頃さを組み合わせた住宅開発の必要性

こんな場所に暮らしたい人が増えているのは明らかだ。新しい住宅のあり方を研究しているウェスタンシドニー大学の准教授ルイーズ・クラブトリー・ヘイズも、国民のあいだで、より経済的に無理なく、持続可能に暮らせる方法を見いだしたいとの関心が高まっていると話す。「第一に、住居価格が高騰し、多くの人々が不安定な住環境に追いやられている現状があります。それに、自分たちの暮らしやライフスタイルが環境に与える影響――エネルギー消費、水の使い方など――を懸念する声も高まっています。そして、コミュニティーに暮らしたい人たちが増えています。すべてを共有するコミューン(生活共同体)ではなく、自分だけのスペースもありながらコミュニティ感を得られるものを求める人たちです」

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問題は、クラブトリー・ヘイズも指摘するように、オーストラリアの住宅制度がもはや正常に機能していないことにある。私有住宅、民間賃貸住宅、公営住宅の3つに固定化され、設計や所有のあり方に独創性や価格の手頃さを組み合わせる余地がほとんどない。「現状のままでは、民間の賃貸市場が、多くの人にとって、住宅の長期的な選択肢でなくなっています。間違った方向に突き進んでしまっています」と話す。「そのため、コーポやコミュニティ土地信託制度といった他のやり方で、住宅設計や管理に住民の声を反映させられないかと考える人が増えているのです」

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しかし、やらなければならないことが山ほどある。まずは、政府、開発業者、金融機関、そして、どこでどんなふうに暮らしていきたいかを模索している一般の人々に、住宅のさまざまな可能性について理解を広げなければならない。「いろんな住宅モデルを一般的なものにするには、どうすればいいのでしょう?」とクラブトリー・ヘイズは問う。「まずは制度的なところからと、提案書を持って銀行や地方議会に出向いても、『いい話のようですが、それは一体何なのですか?』と、いちから説明をしないといけないのが現状です。住宅制度として、もっといろんな取り組みができうることを広めていく必要があります」

住民の声を反映させる「コーポ」ならではの日常

住民の声を大いに反映させるコーポ形式には多くの利点がある、とクラブトリー・ヘイズは言う。「利益を最大化させることが狙いではなく、そこにできるだけ長く住むために建てるので、よりよい結果を生みやすいのです。自分たちで維持費を負担したくないようなものは、そもそもつくらないのですから」

コウハウジングに基づく設計とコーポのしくみを兼ね備えた住宅に暮らすことには、住宅そのもの以上に、生活費と持続可能性の面でもメリットがある、とリンダ・シーボーンは断言する。「みんなで一緒にする食事には、1人5ドルを集め、交代で料理するので、とてもお手頃です。食材もまとめ買いするので、安くつきますしね。洗濯機から芝刈り機まで、いろんなものを共有で所有しているので、個人で買う必要がありません」

安定した住環境があればこそ、人生の選択肢が増える

「コウハウジング・コ―プ」で暮らしながら娘を育てたシーボーン。娘が手を離れてからは、フルタイムの仕事を始め、大学院の課程を2つ修了した。この安定した住環境がなければ、低賃金の仕事にとらわれていただろうと話す。「再び学問の道に進んだという話は、ここでは珍しくありません。でも、住宅事情に苦しんでいたら、また学問したいなんて到底思えませんよね」

それに、こうした住宅の運営を通じて、補助金申請書の作成から、運営管理まで、コミュニティ内の相談役など、さまざまな仕事スキルが身につく。シーボーン自身がその好例で、彼女は今や、オーストラリアのコーポ全国組織であるビジネスカウンシル・コウオペラティブ・ミューチュアル(Business Council of Co-operatives and Mutuals)のシニア政策官を務めている。「自分たちの活動を通して、キャリアを築いてきました」と笑う。「万人向けではないにせよ、こんな住まい方もあるということを多くの人に知ってほしいです。自分たちで住まい方をコントロールできる、それがコーポの素晴らしいところです」

コウハウジング・コ―プ公式サイト
http://www.cohousing.coop

By Sophie Quick
Courtesy of The Big Issue Australia / International Network of Street Papers

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