バイオソリッドで「永遠の化学物質」PFASが農場に入り込むおそれ

料理が焦げつかないフライパン、汚れにくい衣服やカーペット、泡消火剤……さまざまな用途に使われてきた「永遠の化学物質」は、その便利さゆえに危険を広めてきた。

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焦げつかないフライパンに潜む危険性。

PFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物など5千種もの有機フッ素化合物の総称)は自然界で分解されるまで数千年かかることから、別名「永遠の化学物質」とも呼ばれている。1940年代から幅広い日用品に使用されるようになって以来、水や土壌を汚染してきた。さらには、人間の体内に入ると、タンパク質と結合して臓器に蓄積し、発がんリスクを高めるなどの健康被害があるといわれている。目下、米国の大手メーカーなどに対し、訴訟が起こされている。

人間の体内に取り込まれる経路としては「飲料水」が注目されてきたが、昨今は、バイオソリッド(下水汚泥)経由で農作物が汚染される新たなリスクが浮上している。環境汚染研究の世界的リーダーで、ニューカッスル大学(オーストラリア)名誉教授のラヴィ・ナイドゥが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。

食べ物に入り込み、「濃縮」されていく懸念

バイオソリッドは、雨水や下水の処理後に発生する土状の物質で、下水をバクテリアによって処理し、少なくとも3年間乾燥させてつくられる。土壌を肥沃にする栄養物として多くの国々で利用されている。しかし、そのバイオソリッドから、低レベルながらPFASが検出されているのだ。農作物に蓄積されたPFASを人間が体内に取り込む可能性があり、オーストラリア当局は近く予防措置として、バイオソリッドの使用を制限する見込みだ。

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バイオソリッドは堆肥のひとつで、人間の排せつ物を処理してつくられる。/Shutterstock

オーストラリアでは、バイオソリッドのほとんどが農場の肥料として使用されている。牛や羊の糞尿で作った堆肥と同じように使用でき、とても有益な物質だ。農場にまかれたバイオソリッドは、土壌構造を維持し、炭素が大気中に放出されるのを防ぎ、植物に栄養分や微量金属を供給するため、やせた土壌で作物を育てるには欠かせない肥料である。

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バイオソリッドは肥料として非常に役に立つ。

それゆえに、そこから「永遠の化学物質」が見つかったのは、とても残念である。オーストラリアで最初にバイオソリッドからPFASが検出されたのは2000年代初頭のこと。PFASの混じった生活排水や産業廃水が下水処理施設に流れ込み、PFASが除去されないままバイオソリッドになっているのだ。PFASが水や肥料を通して農作物に、そして人間の体内へと入り、排せつ物処理システムを経て、再び肥料に戻る。この循環が繰り返されることで、PFASがさらに「濃縮」されていく可能性を当局は懸念している。

ごく微量であっても問題視されるのは、食物連鎖において蓄積されるから。たとえば、収穫したトウモロコシに含まれるPFASは微量かもしれないが、そのトウモロコシを豚に与え続けると、豚は時間の経過とともに高レベルのPFASにさらされることになる。もちろん、人間の体内にも蓄積される。微量でもPFASが含まれる食べ物を口にし続ければ、それがどんどん蓄積され、健康リスクが高まる。そのため、オーストラリアだけでなく、世界各国で禁止措置が検討されている。

バイオソリッドの使用禁止は現実的ではない

であれば、農場でのバイオソリッドの使用を直ちに禁止すべき、と思うかもしれない。ただ、その余波を考えると、そう簡単にいく話ではない。

農業の持続可能性を高めるバイオソリッドが禁止されれば、中小規模の農家は、天然ガスなどの化石燃料から合成される、より高価な肥料を購入しなければならない。地球環境への負荷が高まり、その費用負担は昨今の物価高騰に追い討ちをかけ、食料生産コストをいっそう上昇させるだろう。また、水道当局は、PFASを除去する方法が確立されるまで、この貴重な資源を貯蔵しておく必要があり、高額な貯蔵コストがかかる。

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Shutterstock

これらの点を踏まえ、現実的な解決策を考えなければならない。政府は、すべてのバイオソリッドをPFASに汚染された廃棄物とみなすのではなく、PFASの害を最小限に抑える策を講じるべきだろう。

PFASの無害化は可能か?

筆者の答えは「イエス」だ。
ひとつは、PFASを化学的に閉じ込め、植物が吸収できないようにすれば、他にも広がらない。農地の土壌に微量に含まれる有害な重金属カドミウムに用いられている技術を応用すれば、比較的安価にこの問題を解決できる。

別の選択肢は、「バイオ炭」に変える方法だ。バイオソリッドを無酸素状態で超高温で熱すると、PFASは化学変化を起こし、無害化される。あとに残るバイオ炭は養分に富み、肥料として使える。土壌に炭素を貯留できるため、気候変動対策にもなる。

現在、水道当局が対策を調査・研究しているが、それ以外にも多方面の機関が連携した国レベルのアプローチが求められる。

私たちにできること

これは一般消費者に起因する問題ではないものの、自分で自分の身を守っていく姿勢が大切だ。
多くの調理器具メーカーはPFASを使用しなくなっているが、すべてではない。「PFAS不使用」の表示があるものか、ステンレス・鉄・アルミニウム製の調理器具を選ぶべきだ。PFASを含む製品に適切な表示が徹底されているわけではないため、気づかないうちにPFASを口にしたり、皮膚に塗ったりしているかもしれない。

「永遠の化学物質」というパンドラの箱が開いてしまった以上、私たちの生活環境からPFASを完全に排除することは難しい。科学、政策、消費者の選択を通して、できるかぎり体内に取り込まないようにする取り組みが必要だ。

著者
Ravi Naidu

Laureate Professor, University of Newcastle


※本記事は『The Conversation』掲載記事(2023年2月14日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation

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