飲料水源から危険レベルのPFASが検出されたとのニュースを受け、英国では水道水やペットボトルの水の安全性に関する不安が広がっている。飲料水に含まれる有害化学物質の濃度を大幅に下げる方法について、英バーミンガム大学環境化学部教授スチュアート・ハラッドが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。
PFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物など5千種もの有機フッ素化合物の総称)は、フライパン、化粧品、繊維、食品包装材、泡消火薬剤など、多くの日用品に使われている合成化学物質だ。同一分子内に水を嫌う性質と水を好む性質の両方を備えるという化学物質としては珍しい構造を持ち、分解しにくい特性があることから「永遠の化学物質」とも呼ばれている。この特性のおかげで便利な製品が生まれる一方、いったん流出すると、ほぼ分解されないまま環境中に残る。皮膚にも浸透し、飲料水、大気、食品、ヒトの母乳からも見つかっている。安全性に対する懸念が高まる中、飲料水のPFAS濃度に制限を設ける国や地域が増えている。
英国・中国の水道水・ペットボトルでの調査結果
そこで筆者らは、英国ウェストミッドランズの水道水(41サンプル)と中国・深センの水道水(14サンプル)を採取し、主要10種類のPFAS物質の濃度を測定した。ボトル入りの水(112サンプル。内訳はペットボトル88、ガラス瓶24)でも同じ測定を行った。対象としたのは、英国と中国の実店舗またはオンラインで購入した87種類の商品(製造国は15カ国に及ぶ)だ。
測定対象としたPFAS物質は、飲料水への含有が規制されているものの他、これまでに室内空気や埃から検出されたことがあるものを含めた。ペットボトル/ガラス瓶、および炭酸あり/なしで比較したところ、いずれの場合もPFAS濃度に有意な差は見られなかった。ただし中国の商品で比較すると、精製水よりもナチュラルミネラルウォーターの方がPFAS濃度が有意に高かった。
結果として極めて重要な点は、すべてのサンプルでPFASが検出されたが、米国環境保護庁(USEPA)が定める最大濃度を超えたのは、深センの水道水サンプルのみであったことだ。 同じ地域の水道水とボトル入りの水を比較すると、ボトル入りの方がPFAS濃度が低かった。この結果はスペインをはじめとする諸外国の調査結果とも一致する。
ある程度安心感を与えてくれる結果と言えるだろうが、今回の調査は英国・中国の2カ国の一部地域で実施したに過ぎず、国全体について言い切れるものではない。また、検出されたPFAS物質のうちの2種について、USEPAは濃度値「ゼロ」を目標値としているため、決して気を緩めてはならない。
煮沸や浄水ポットの濃度低下効果
さらに、水道水を煮沸した場合と活性炭フィルター付き浄水ポットを用いた場合の効果についても調べた。やかんで沸騰した場合、10種類のPFAS物質すべてで濃度低下が確認できたが、その度合いは物質ごとに異なり、揮発性が高い、規制対象外のPFAS物質では61~86%減少したが、USEPAが濃度規制値を定めている3つのPFAS物質やPFOAでは11~14%の減少にとどまった。 活性炭フィルター付き浄水ポットを用いた場合は、10種類すべてのPFAS物質で81~96%の濃度低下が確認できた。浄水ポットでろ過した水を沸騰させると、濃度はさらに下がった。
この結果を踏まえると、浄水ポットを使うとPFAS濃度を大幅に下げられることが分かる。 沸騰することでも濃度を下げられるが、浄水ポットほどではない。2024年にカナダ・モントリオールで実施された研究でも、水道蛇口にフィルターを取り付けることで、水道水に含まれる75種類のPFAS物質の濃度低下が確認されており、私たちの研究はそれをさらに裏付けるものとなった。
PFAS物質への暴露が、人間と野生生物の健康に脅威をもたらすことがわかっている。まだ解明されていないことも数多くあるが、2つの地域での飲み水を調べた今回の研究が、その小さな一歩になることを願う。
著者
Stuart Harrad
Professor of Environmental Chemistry, University of Birmingham
※本記事は『The Conversation』掲載記事(2024年10月30日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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