新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類感染症」となり、日本では「コロナ禍は収束した」と考える人も多いが、世界には新型コロナウイルス感染症で保護者を亡くした「新型コロナ遺児」が大勢いて、緊急支援を必要としている。
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コロナ遺児が直面している現実的課題
インドネシアで新型コロナウイルスの第二波が猛威を振るっていたさなか、ラナ(8歳、仮名)の両親はコロナに感染し、二人とも回復することなく、2021年6月に立て続けに命を落とした。それから2年が経った今、ラナは西ジャワ県にある自宅で暮らしながら、学校に通い続けている。衣料品工場で長時間働きながら家族を支えている姉(23歳)には、ときに心が折れそうなほどの責任がのしかかっている。「両親を亡くしてから、私が一家の大黒柱となりました。たやすい任務ではありません。妹を一人ぼっちにしなければならないときは、とても不安です」とメールで取材に応じてくれた。
英医学誌ランセットの2022年度調査によると、新型コロナウイルスで一人以上の親か養育者を亡くした子どもは1200万人以上に上り*1、保護者を失ったことで、その多くが貧困や悲しみに苦しんでいるとみられている。「親を失うと、どうしたって家計は苦しくなります。最も大きな影響を被るのは、そもそも貧しい人たちです」と、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの臨床心理学者で、新型コロナ遺児グローバル研究グループの一員でもあるロレイン・シェル教授は言う。
*1 参照:COVID-19 Orphanhood(Imperial College London)
インドネシアをはじめとする大きな打撃を受けた国々では、新型コロナ遺児向けの支援を実施してきたが、最近になって一時的な緊急支援は次々と打ち切られ、このままでは遺児たちの存在が見過ごされてしまわないかと研究者や子どもの慈善団体は懸念している。「私たちはコロナ禍を切り抜け、ニューノーマルな生活に戻りました。でも、親を亡くした子どもたちは、そういうわけにはいきません」と話すのは、コロナ死亡者数データを用いたコロナ遺児数の推定にかかわったオックスフォード大学准教授のコンピュータ科学者セス・フラックスマンだ。
2023年5月、WHOは3年間に及んだ世界的なコロナ緊急事態の宣言終了を発表した。コロナ死亡者数の広範なリアルタイムデータは更新されなくなり、研究者による新型コロナ遺児の算定も難しくなった。遺児の数が正確にカウントされなくなれば支援サービスも削減されてしまうと、フラックスマン准教授とともに働くインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者ジュリエット・アンウィンは指摘する。
コロナ禍収束にともない打ち切られる支援
新型コロナウイルス感染症は、2019年末の出現以来、世界全体で690万人以上の命を奪ったというのに、親を亡くした子どもたちへの心のケアや経済支援が足りていないというのが慈善団体や研究者の見方だ。遺児たちは、心の問題に苦しめられる、学校を辞めざるをえなくなる、薬物依存症や性的搾取に陥るリスクも高い、とシェル教授。
死亡者数の多い貧しい国々では(ペルーやブラジルなど)、遺児たちの世話をする者たちに経済支援を行っている。大打撃を受けたコロンビアでも、同様の法案が議会で提案された。
インドネシアの新型コロナ遺児は、インドに次いで世界で2番目に多く、約34万1千人と推定されている*2。当局や国際援助団体セーブ・ザ・チルドレンが現金支給やカウンセリングを提供していたが、それも2022年で打ち切られた。「長い目で見ると、まったく支援が足りません」と、ラナの姉もこぼした。
*2 新型コロナ遺児(国別)https://imperialcollegelondon.github.io/orphanhood_trends/
遺児のケア責任が親戚に降りかかるケースもよくあるが、彼らに心の準備ができていないと指摘するのは、セーブ・ザ・チルドレンの広報担当デウィ・スリ・スマナウだ。「子どもたちは……両親を亡くした子どもはとりわけ、深い悲しみを味わっています。死に際に立ち会えなかったことに、申し訳なさや腹立ちを覚える子たちもいます。そして、そうした子どもたちの面倒を見ることになった親戚の人たちの存在を忘れてはなりません。貧しい暮らしをしていた人たちはなおさらです」
「コロナ世代」の子どもたちに長期的支援を
世界的に新型コロナ遺児の多くは、貧困率の高い国々で発生している。南アジアと東南アジアでおよそ270万人の子どもが、アフリカ諸国で219万人の子どもが、少なくとも一人の親を亡くしたとされている*3 。
*3 新型コロナ遺児(地域別)https://imperialcollegelondon.github.io/orphanhood_trends/
先進国でも、政策立案者たちがコロナ以外に重点を置き始めている今、コロナ遺児たちは先行きが見えづらい状況にある。「新型コロナ遺児世代を見失ってしまわないようにしなくては」と、遺児支援団体ウィンストンズ・ウィッシュのサービス責任者レティツィア・ペルナは話す。政府の支援が足りなければ、慈善団体がその隙間を埋めることになり、そのニーズは高まり続けるだろうと見ている。
いくばくかの現金支給、カウンセラーの定期訪問、仲間の集まりに参加するといったことでも、遺児の生活に大きな違いをもたらせる、とシェル教授は言う。
200万人以上の遺児が発生したインドでは、地方自治体、国連の子ども支援機関、メンタルヘルスの問題に取り組む団体「マインド・パイパー」が提携し、国内最大の人口を抱えるウッタル・プラデーシュ州などで現金給付とカウンセリングを展開している。プログラムを率いたユニセフの社会政策スペシャリスト、ピウシュ・アントニーは、「子どもや親戚が心の傷や悲しみをのりこえるのをサポートしています。継続的に経済支援をおこなうことで、学校中退、児童労働、児童婚を防ぐことになる」と述べる。1万人の子ども(遺児500人を含む)支援を目指した動きは12月に終了したが、州政府は子どもが18歳になるまで支援を続ける考えを示している。
両親を亡くして支援を受けているある少女は、大学でエンジニアリングを勉強するというあきらめかけていた夢を実現させているという。「決して親の代わりになることはできません」と前置きしてから、アントニーは言った。「こうして介入することで、少なくともこの世代の子どもたちに、長期的なトラウマの影響が出ないようにしたいと考えています」
By Lin Taylor
This article first appeared on Context, powered by the Thomson Reuters Foundation.
Courtesy of the International Network of Street Papers.
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