有限会社ビッグイシューでは、ホームレス問題や貧困問題、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、企業や大学などから依頼を受け、講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は、大阪経済大学。同大学の客員教授である梶山 寿子さんが毎年ゲスト講師を招いた特別授業を行っており、今年は大阪発のソーシャルビジネスとしてビッグイシュー日本にお声がけをいただきました。ビッグイシュー大阪事務所長・吉田と、明石駅で『ビッグイシュー日本版』を販売するMさんがお話させていただきました。
ホームレス問題の背景とビッグイシューの取り組み
はじめに吉田より、ホームレス問題の背景とビッグイシューが大事にしている考え方について解説していきました。
「ホームレス」という言葉に「汚い」「仕事もせずに怠けている」というネガティブなイメージを持っている方も多いのですが、“ホームレス”という言葉は「家がない」という「状態」を表すにすぎません。ホームレス状態に至るまでには、失業、病気、被災、介護離職など人によってさまざまな事情や背景があるのです。
いったん住所を失うと、「ホームレスだから」という理由で、再就職や住まいを持つハードルがとてつもなく高くなってしまいます。その問題を解決するべく、ホームレスの人たちがその日からでもできる仕事を提供しようと始まったのがビッグイシューです。
イギリスではじまったこの事業は、ホームレスの人に路上で雑誌を販売してもらい、1冊売れると代金の半分ほどが販売者の収入になるというビジネスで、住所や連絡先、保証人がなくても最速その日からでも始められます。
仕事や人間関係、住まいなどを徐々に失う過程のなかで、ホームレス状態になってしまった人たちは自己肯定感を失っていることがほとんどです。そこで、ビッグイシューでは自信を取り戻してもらうために、「セルフヘルプ」という考えを大切にしています。
『ビッグイシュー日本版』の販売を通して販売者には自分で販売時間や仕入れの冊数を決めて、個人書店の「店長」のように働いてもらっています。
他人から強制されるのではなく、自分で選択できる環境を持つことや、「楽しむ」ということも大切です。そのため、雑誌の販売の仕事の機会だけでなく、フットサルや講談などのサークル活動を通じたコミュニティづくりも行っています。
大阪経済大を卒業し、就職するもギャンブル依存症が原因でホームレス状態に
続いて、兵庫県宝塚市出身の52歳の販売者、Mさんの半生を語るコーナー。
Mさんの父親は、Mさんが5歳の時に交通事故で他界。以来、母親との2人きりの生活ながら、ごくごく普通の、問題のない少年時代を過ごしたそう。高校卒業後は一年浪人したあと、なんと今回の訪問先である大阪経済大学へ進学。4年間アルバイトをして自分で学費を稼いで、「普通に」楽しく過ごした…と振り返ります。
大学を卒業してからは、段ボールメーカーに営業職として入社。しかし営業ノルマが厳しく、4年でリサイクルの会社に転職。一人で黙々とできる仕事を…と、検品作業員として入社したものの、会社の都合で再びノルマの厳しい営業職となってしまい、結局1年で退職を選びました。ちょうどその頃、人生の大きな転機が…。Mさんは幼馴染みに誘われてスロットにハマりつつあったのです。
「初めてやってみた時に、ビギナーズラックっていうんでしょうか。そこ4万円ほど勝ってしまって。それでハマって、消費者金融で100万円近く借金をしてしまいました。」
スロットにハマっていた感覚について、Mさんは「やめられないという感じでした。勝った時の印象が頭に残ってて、負けても『次、取り返そう』と思ってしまって、ズブズブと。そのうち消費者金融から督促状が家に届くようになって親にも知られて、怒られて『もうええわ』と家を出ることになったんです。」とギャンブル依存症の体験を語りました。
こうして地元を離れることになったMさんでしたが、当時は派遣業界が大盛況の時代。特に困ることもなく、愛知県で寮・食事つきの派遣社員として働き始めます。しかし、せっかく稼いだお金をスロットに注ぎ込んではお金が尽きて転職…という状態を繰り返していたそう。しばらくして起こったリーマンショックを機に、あっという間に次の仕事が見つからなくなり、全財産が数百円になってしまったそう。あてもなく歩き回るうちに、いつの間にかホームレスの人たちが寝泊まりするエリアにたどり着き、公衆トイレの水と炊き出しで過ごすようになりました。
しばらくそうして過ごすうちに地域の支援団体への相談につながり、大阪のホームレス支援施設に入所。介護の仕事などを斡旋してもらいましたが、再び収入を得られるようになったのですが、足を引っ張ったのはまたしてもギャンブルでした。
ギャンブル依存症とは、自分で自分を制御できない、ギャンブルに脳が乗っ取られてしまう病気なのです。
そうして再び仕事と住まいとお金を失い、路上生活に戻ったMさんでしたが、以前小耳にはさんだ話を思い出し、ビッグイシューの事務所を訪ね、販売者としてビッグイシューの仕事を始めることになったのです。
販売を始めて良かったこととしては、「お客さんたちには、“ホームレス“だから恵んでやるという態度ではなく、仕事として接してもらえていることが嬉しいです。前職のように押し付けられるノルマもなく、自分でどう働くかを決められるのもストレスが少ないですし。」と笑顔で話してくれました。
そんなMさんはビッグイシューの販売の仕事で得たお金をコツコツ貯め、現在はアパートを借りて生活をしています。
後輩たちへのメッセージ
後輩である学生さんたちへのメッセージとして、「人生を歩んでいく中で、いろいろ壁にぶつかったりすると思うんですけども、悩んだときはいろんな人に相談したり助けを求めたりください。僕みたいに自分1人で悩んでしまうと、本当にあんまりいい結果って出ないと思うんです。 SOSを出してください。それとギャンブルはしないでください(苦笑)」と、念押ししてくれました。
学生さんからのQ&A
Q:暮らしぶりはどんな感じですか。
A(Mさん):“僕が今住んでるアパートは家賃3万円ぐらいです。光熱費が1万弱ぐらい。 食費などが1日1000円から2000円ぐらいです。 日曜日は休んでいて、月~土まで、朝は10時から夜は19時くらいまで働いて、それで収支的には結構今ギリギリといったところです。ビッグイシュー販売歴は9年ほどですが、収支がトントンということもあって、ギャンブルは止められています。”
Q:ホームレスの方々を支援する社会的企業は他にどんなものがありますか。
A(吉田):“大阪にはNPO法人Homedoorという団体が、「HUBchari」といって放置自転車を回収して修理し、シェアサイクルとして自転車を貸し出す事業をやっているところもあります。ほかに、ホームレスの人たちに一時的な住まいを提供する施設での支援などもあります。
ビッグイシューはホームレス状態の人たちにとっての解決策のひとつです。いろんな選択肢があるほうがよいと思うので、ビッグイシューの事務所に相談に来られた方に、その人の希望ややりたいことに合わせて、別の団体につないだりすることもよくありますよ。”
*NPO法人Homedoor
https://www.homedoor.org/
学生のみなさんのアンケートより
講義の後のアンケートでは、同じ大学のOBの方からということもあり、いつもよりギャンブル依存症の恐ろしさを感じたとみられる回答が多数ありました。
「ギャンブルやりません!」といった決意表明はもちろん、「Mさんのお話を伺って、人生は大きく変わってしまうと感じました。ギャンブルについては友人がドハマりしてるので、警告しておこうと思います」といった、周囲の友人を気遣う回答も見られました。
客員教授である梶山 寿子さんからのメッセージ
社会課題をビジネスで解決しようとする手法があること、そんなソーシャルビジネスに真摯に取り組む社会起業家の活躍を知ってもらいたいと、この講義を行っています。
私自身、30年前からドメスティックバイオレンスや子どもの虐待の啓発活動に取り組むなど、ジャーナリストとして、日米でさまざまな社会課題を取材してきました。ソーシャルビジネスに早くから着目したのも、社会課題の解決に役立つと思ったからです。
先駆者の皆さんのお話を聞くたびに、私も勇気と元気をもらいます。社会を良き方向に変えようとするポジティブなエネルギーを、次世代を担う学生たちに受け取ってもらいたいと願っています。
「ビッグイシュー日本」は大阪発の取り組みであり、雑誌の存在を知っている学生もいるため、身近に感じるのではないかと考えてお願いしました。
今回の授業を通して、格差社会の厳しい現実や、ギャンブル依存の深刻さ、空き家問題など、さまざまな気づきがあったと思います。販売者の方の実体験を直接伺えたことも大きかったと思います。
「ビッグイシュー日本」さんとの出会いを、現代社会の諸問題に目を向けるきっかけにしてほしい。そんな希望を込めて、「ホームレスの方々の支援につながるソーシャルビジネスを考えてみよう」というグループワークを行っています。どんなアイデアが飛び出すか、私も楽しみです。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
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