ある高校への出張講義にあわせ、生徒のみなさんから事前に質問を多くいただいていました。
当日は時間内に回答しきれなかったため、この記事でQ&Aを紹介します。
Q1:ビッグイシューを売っている時に邪魔されることはありますか。
ビッグイシューは2024年9月に創刊20周年を迎え、販売開始当初よりはずいぶん多くの方にその意義や活動を知っていただけるようになりましたが、それでも時々、残念ながら直接的/間接的に「邪魔」「移動しろ」等の苦情を寄せられることがあります。
ただもちろん、排除されることだけでなく、応援いただくことも多々あります。
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Q2:ビッグイシューを売っていてよかったことは何ですか。
販売者によってその思いは様々ですが、
「お客さんとのやりとりがうれしい」
「お客さんに気にかけてもらえることがあってうれしい」
「お金を貯めてアパートに入れた」
「自分のペースで働けるのがいい」
などの声をよく聞きます。よかったらお近くの販売者にも尋ねてみてください。
Q3:ビッグイシューの販売を始めるにあたって、不安はありませんでしたか。
こちらも販売者によって様々ですが、一番の不安は「売れるのか」ということだと思います。
そのため、初めて販売をすることになった方には、最初の10冊は無料でプレゼントし、路上で販売してもらいます。それを売りきれば、5000円の収入になりますので、販売を続ける場合はそのお金を元手に、自分が売れると思う数を仕入れてもらう形を取っています。また、自分の決断に納得してもらえるよう、いくつかの候補の中から販売場所を選んでもらい、販売曜日や販売時間などは自分で決めてもらってます。
Q4:販売で苦労することは何ですか。
こちらも人によって異なりますが、気候の厳しさ、特に近年の暑さは深刻です。ビッグイシュー日本やビッグイシュー基金が販売者や当事者を守るために、情報提供や気候の厳しさを緩和するグッズの配布などを行っています。
Q5:売れるように工夫していることは何ですか。
これも人それぞれですが、例として販売者のSさんとKさんの回答を紹介します。
お客さん一人ひとり違うので、会話を楽しみにしてくれている方か、そうでない方かなども考えながら仕事していますね。あとは雑誌の間に手紙を挟んでいまして、自分の日常の一コマを書いていますね。よくも悪くも、僕らがどんな生活をしているかがわかると言ってもらえることもありますね。 (Sさん)
ビッグイシューの仕事は、常連のお客さまに支えられています。そのため、一人ひとりのお客さまに失礼のないように、また来ていただけるように、「不快感を与えない」ということには気をつけています。長い付き合いをさせていただくつもりで、受け答えを丁寧に、また、髭はきちんと剃るなど清潔感にも気を配っています。(Kさん)
Q6:一番印象に残っているお客さんはどのような人ですか。
これも人により異なりますが、ビッグイシューの販売をコツコツ続ける中で知り合ったお客さんに「うちでアルバイトしてみたら?」と誘われて、スーパーでの片付けの仕事を紹介していただいた販売者もいます。
一方で、「あなたがたみたいな人たちは、私たちが優越感を持つために存在してるのよ」と言われ傷ついたという販売者もいました。願わくば一人ひとりが様々な背景や事情を持っていることが理解され、苦境にある人も大切にされる、みんなでおだやかな気持ちで過ごせる社会がいいですよね。
Q7:ホームレスになって一番大変だったことは何ですか。
これも人それぞれですが、例として販売者・Uさんの声を紹介します。
とにかくお金がないんです。お金がないと生きにくい。あとは人間関係をどう作るか。ホームレスになるまでは、人間関係要らないと思って親や友達とも縁を切った。でも生きていくにあたり、ほんとに人間関係って必要なんです。人間関係を作るのは大変だし、大事だと思いました。
ビッグイシューの活動を通して、ホームレス状態の人たちの困りごとを、自分のできる範囲でサポートしてくださるボランティアの方も多くいます。
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Q8:ビッグイシューの販売者は、お金を貯めて住める家が見つかるまでの間、どこで生活しているのですか。
ホームレスになると生活の基盤となる「家」がなくなるため、皆さんと同じような「生活」を送ることは困難です。宿泊場所としては、下記のような場所で過ごす人が多いようです。
- ドヤ(簡易宿泊所)…日雇い街などにある格安の宿泊場所
- ネットカフェ
- 人通りのある路上や公園
Q9:なぜ、日本でビッグイシュー(の販売システム)を設けようと思ったのですか。
約30年前、バブルがはじけた後の大阪は日本で一番路上生活の方が多いエリアでした。その頃に現・ビッグイシュー日本版の編集長水越洋子が、働きたくても住所もない、保証人もいない、身分証明書もなく雇用されにくいホームレスの人たちがすぐにできる仕事を提供できる仕組み(ビッグイシュー)がイギリスにあると知り、日本でもやってみたいと思ったのがきっかけです。
Q10:ホームレスを減らすためにはどうすればよいですか。
一度失敗すると再チャレンジしづらい世の中ですが、失敗や再チャレンジに寛容な社会になることが大切だと思います。
なおホームレス問題は様々な社会問題が複雑に絡み合った問題のため、何か一つこれをやれば解決する!という特効薬はなく、世界中が取り組み続けている難問です。
すでにホームレスになった人たちには、「ハウジングファースト」という取り組みが有効だと言われています。
参考:ハウジングファースト関連記事一覧
また、ホームレスにならないようにするための予防策も重要です。
ビッグイシュー基金では、依存症問題や住宅政策など、ホームレス問題の原因の調査や政策提言も行っています。
Q11:雑誌を作るときにどんな工夫をしていますか。
『ビッグイシュー日本版』の編集方針は以下です。
- 「生きていくのに本当に必要なもの」を研ぎ澄まして
- 「販売者の目線」という切り口
- 読後に希望が持てる誌面に
詳しくは「コンセプトと編集方針」をご覧ください。
Q12:雑誌が売れなかったらどうなりますか。
最新号として販売できなかった雑誌でも、次の号が出ても販売し続けることができますので、バックナンバーとして販売されます。
そのため、「今しか旬ではない」という内容ではなく、いつ読んでも古びない内容を心がけて編集しています。
Q13:ホームレスの人たちの自立を目指すのはいいことですが、もし販売者がいなくなると会社の経営はどうなるのですか。
ビッグイシューと販売者の関係は、出版者と書店の関係にあります。書店がなければ出版社が困るように、私たちも立ち行かなくなるでしょう。ですが「ホームレスや貧困問題の解決」をミッションとしているため、活動が成功すればするほど販売者が減り、経営が苦しくなるというジレンマがあります。そこで、販売希望の方がいる間、会社の経営を支え、路上での販売の仕事を作り続けることができるよう定期購読や販売者応援3ヶ月通信販売といった仕組みをつくりました。また、より多くの方に知っていただくために、図書館購読や委託販売などもあります。
Q14:会社の利益はあるのですか。税金はどうしているのですか。
創刊20年以上となりますが、数年を除いてはほぼ赤字です。ご寄付などにも支えられてきました。
黒字になった年は、利益に応じた税金を適切に払っています。
第21期の決算公告はこちらです。
https://www.bigissue.jp/2024/06/29559/
Q15:ビッグイシューで働いている社員・職員は、元ホームレスだったのですか。
現在ビッグイシューで働く社員・職員にホームレス経験のある人はいません。
創刊当初は、ベテラン販売者にスタッフをお願いしたこともありますが、その時はビッグイシューの販売のスキルと、サポートのスキルは異なっていたこともあり、うまくいきませんでした。
現在、大阪事務所で定期購読や通信販売の発送作業は販売者にお願いしています。
▼参考記事
Q16:ホームレスの人が実家に帰ることができない理由は何ですか。
実家暮らしができる可能性はないのですか。
天涯孤独になっていたり、虐待や貧困、勘当などで家を頼れない場合もあれば、折り合いが悪いなどで「頼りたくない」という場合もあります。戻れる環境にある方は、ビッグイシュー事務所に相談に来られる前に戻っていることが多いと思います。「実家に帰る」ことができる人の方がむしろ少ないのではないでしょうか。珍しいケースですが、「お正月だけ実家に戻る」という方もいます。
いずれにしても、本人の希望をお伺いして、つなげられる支援があればご紹介したうえで、ビッグイシューの仕事を紹介しています。
Q17:ホームレスだと嘘をついて(ビッグイシュー販売者になりたいと)来た人がいた場合、どうやって対処するのですか。
ビッグイシューは免許証などの本人確認書類も不要ですし、保証人や住所・電話番号も不要ですので、ホームレス状態など困窮者でない方が紛れていたとしても、本人の希望さえあればビッグイシューの販売者にはなれます。ただ、短期間で高収入を得られる仕事というわけではないので、嘘をついてまでやりたいという人はとても少ないと思います。
Q18:何年くらい働いたら自立できますか。
自立の定義や、どのくらい販売し、どのくらい節約できるか、「家がない」以外の問題をどのくらい抱えているかにもよりますので一概には言えませんが、早い方では1年以内にアパートに入居される方もいます。
なお、東京・大阪の販売者は下記の方のようにビッグイシュー基金が運営する「ステップハウス」のプログラムを経てビッグイシューを卒業することが多いです。
▼参考記事
Q19:ビッグイシュー販売の仕事をやめてしまうホームレスの方もいますか。
はい、います。病気や高齢で続けられなくなる方もいれば、もう少し収入が得られる仕事を探したいという方もいらっしゃいます。相談して辞める方もいれば、ある日突然来られなくなる方もいます。
Q20:私たち高校生に協力できることはありますか。
もちろんです。貧困や格差について、ホームレス状態を生み出す社会について知っていただくこと、ビッグイシューについて家族や友人などの周囲の人に話していただくこと、SNS等で言及すること、地域の図書館に『ビッグイシュー日本版』の取り扱いがなければリクエストをいただくこと、余裕があれば雑誌を購入いただくことなどです。東京・大阪では、フットサル会なども開催していますので、ボランティアとしてもお気軽にご参加ください。