ロシアのウクライナ侵攻4年目–戦時下で明らかになった原発のぜい弱性

くすぶり続けていたロシアとウクライナ間の紛争が全面戦争に突入して4年目となった。ロシアは一方的に占領した地域(ウクライナの国土のおよそ15%)の併合を宣言している。

※この記事は『ビッグイシュー日本版』500号(2025年4月1日発売)からの転載です。

ロシア、今も続く原発占拠
核兵器使用条件も引き下げ

激しい戦闘のなかであまりに多くの命が失われた。国連によれば、2025年1月時点のウクライナ民間人死亡者は少なくとも1万2605人、負傷者も2万9178人に上る。多くの子どもたちも犠牲となった。戦災を逃れた難民は国内外で1000万人を超える。両軍の死傷者数は未公表だが合わせて100万人超と推計されている。ロシアは国際法上許されない侵略戦争を行い、あまりにも大きな悲劇を引き起こしている。

ロシアは昨年、核兵器の使用要件を定めた政策文書を改定し、大幅に核兵器の使用条件を引き下げた。2023年には包括的核実験禁止条約の批准を撤回しており、核実験を実施する懸念もある。もともと批准していない米国は第一次トランプ政権下で核実験を検討した経緯があり、第二次トランプ政権下でも検討する懸念がある。昨年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞し、国際的に核廃絶に向けた市民社会の努力の一方で、核をめぐる緊張が高まっていることは悲しく、恐ろしい。

この戦争では、周知のとおり原発が標的になった。ロシア軍は開戦直後、廃止措置中のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を一時占拠した。欧州最大の原発であるザポリージャ原発は開戦後まもなく占拠され、今もロシア軍の支配下にある。占拠時の交戦では稼働中だった原発施設の一部が損傷するなど、きわめて危険な状況となった。幸い占拠は免れたが、ロシア軍はウクライナ第二の規模を持つ南ウクライナ原発に向けても侵攻した。ウクライナは当時、電力供給の約6割を原発に頼っており、原発占拠は電力危機に直結した。

ドローン攻撃や弾道ミサイル
日本の原発も攻撃対象リストに

ロシア・ウクライナともに相手方が原発を攻撃していると非難し合っている。実際、占領が長期化するザポリージャ原発周辺では頻繁に戦闘が行われ、昨年は原発の冷却塔で爆発物を搭載したドローン攻撃による火災が発生した。今年に入っても原発の訓練センターなどへのドローン攻撃が報告されている。2023年6月には、ザポリージャ原発も冷却水として取水していた巨大なカホフカダムが決壊し、甚大な被害を引き起こした。すでに原子炉は停止しており冷却水の必要量はかなり減っていたが、危険なことに変わりない。ザポリージャ原発以外の原発でもたびたび弾道ミサイルが原発上空を飛び、中には原発近くに落ちるものもある。なお、昨年8月から始まったウクライナのロシア・クルスク州への逆侵攻ではロシア側は近くにあるクルスク原発への攻撃を懸念して塹壕を掘っている。

国際条約はダムや原発などへの攻撃を禁じているが、今回の戦争では稼働中の原発が戦略目標とされた。国際原子力機関(IAEA)は原発周辺に交戦禁止区域を設定すべきと勧告している。確かに戦時下の原発を守るには必要なことだ。でも、誰がその交戦禁止区域を守るのだろうか。

ロシア・ウクライナ戦争は戦時下における原発のぜい弱性を白日の下にさらした。原発は戦争で攻撃対象にならないという暗黙の前提はもはや成立しない。それは東アジアに生きる私たちも例外ではない。報道によればロシア軍の機密文書に茨城県東海村の原子力施設が攻撃対象リストに載っていたという。北朝鮮も日本の原子力施設を攻撃対象だと言っている。交戦によって原発事故の危険が高まるだけではない。交戦時に地震や津波などで原発事故が起きた時、その事故への対処はまず不可能だ。私たちの生存権を守るためにも原発はなくさなければならない。(松久保 肇)

まつくぼ・はじめ
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。
金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など https://cnic.jp/