世界銀行とアジア開発銀行が原発融資解禁へ/原発推進国が強く働きかけ

国際開発金融機関(MDB:Multilateral Development Bank)は途上国の貧困削減や持続的な経済・社会的発展を金融や技術などで支援することを目的に、各国の出資で設立された金融機関だ。世界銀行(以下、世銀)やアジア開発銀行(ADB)、欧州復興開発銀行(EBRD)などが代表的なMDBとされる。日本は世銀に関しては第2位、ADBに関しては米国とならんで最大の出資国だ。

70年原発融資しなかった世銀
米国政府が解禁圧力!?

世銀は1959年のイタリア・ガリリアーノ原発への融資以来70年近く原発への融資を行っていない。2013年にはエネルギー分野の方針として安全性と核不拡散の問題から「原子力発電への融資を行わず、その評価・開発に向けた具体的な技術支援も提供しない」と文書で明記していた。ところが、世界銀行の理事会は6月10日、原発プロジェクトへの融資禁止措置の解除を決定した。

ADBも同様に、原発に対しては核拡散リスク、廃棄物管理、安全性、極めて高い投資コストなどの観点から、融資対象外とすることを明記していた。ところが、8月に入って、原発を融資対象とする制度変更を10月に理事会にかける方針が示された。

23年にドバイで開催されたCOP28で日米英などが発表した原発設備容量3倍宣言は、MDBに対して、途上国における原子力発電導入プロジェクトへの融資解禁を強く求めていた。報道によれば、米国政府は世銀に対して融資を解禁するよう圧力をかけていたという。

小型モジュール炉はコスト高
放射性廃棄物の問題解決は困難

ADBが8月21日に開いた意見聴取会に筆者も参加したが、ADB事務局が説明する解禁理由は、主に ①小型モジュール炉(SMR)など新しい技術が開発されている ②電源を選択するのは融資先政府である、というものだった。聴取会への参加者からは、さまざまな観点からこの改正が問題であるとの意見が出た。

筆者はルール変更するのであれば、最低限、これまで原発融資を禁じてきた理由の解消が必要だが、SMRの燃料に使われるHALEU(20%未満濃縮ウラン)燃料は確かにIAEAの高濃縮ウラン(HEU)の基準である20%を下回っているが核兵器転用懸念が指摘されていること、SMRのコストは非常に高いこと、ADB融資対象国の多くは地震・火山国であり放射性廃棄物処分の問題解決は困難であること等、課題は何ら解消されていないと指摘した。ADB事務局からは指摘された点があることは理解している、などのコメントがあったものの、内容のある回答はなかった。
同じように原発への融資を禁止しているアフリカ開発銀行(AfDB)は違う道を歩んでいる。同行のケビン・カリウキ副総裁はインタビューで「もし融資を解禁したとしても、アフリカでは原発は出力が大きすぎること、コスト超過のリスクが高すぎることから、融資対象にはならない」と答えている。ADBが融資対象とする国も多くは小国で条件も同じだ。

MDBは融資において環境や社会に配慮することを定めたルール(セーフガード)を持っている。だが原発計画は多くの場合、秘密裏に進められる。建設においても、核防護の観点から公開されない事項がある。そのような状況でセーフガードは守られるのか。他にもこれまで原発を融資対象としてこなかった世銀などに融資を審査する能力はあるのか、世銀やADBの融資枠に対して原発のコストは大きすぎ、他の案件が支援できなくなるのではないかなど、懸念は尽きない。

ADBのコンサルテーション会合では参加した原発事故被害者団体連絡会の大河原さきさんが「私たち被害者が強いられた苦悩を同じアジアの同胞に味わわせたくはありません」と訴えていた。まさにその通りだ。
現在、64の団体が「世銀・ADBの核融資にNO —これまでの原発融資禁止方針を変えないで」と題した署名キャンペーンを行っている。ぜひ署名にご協力いただきたい。(松久保肇)

署名キャンペーン https://chng.it/zbN2j6fDWw

まつくぼ・はじめ
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。
金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など https://cnic.jp/

以上、2025年10月1日発売の『ビッグイシュー日本版』512号「原発ウォッチ・第222回」より転載

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