「原発停止で国富流出」は“印象論”。35基を再稼働しても輸入資源量削減は限定的

2025年12月3日、東京新聞の朝刊1面に「再稼働説得材料に『化石燃料輸入額26兆円』」「政府、原発の恩恵『誇張』」と題して、原子力資料情報室の試算を紹介してくれた。今回はこの試算を紹介したい。

火力と原子力、燃料はほぼ輸入
発電にかかる燃料費はいくら?

政府・産業界は「原発停止で国富が流出している」と主張する。たとえば、東京電力福島第一原発事故後の2013年に経済産業省が作成した資料には「原発停止に伴う燃料費は、2012年度において2010年度比3.1兆円の増」という記述があった。一方、24年の経産省資料は「自国産エネルギーが乏しい我が国は、高付加価値品で稼ぐ外貨(23年で約28兆円)を化石燃料で費消(約26兆円)しており、国富が流出」「多大な燃料費削減効果を有する原子力発電所の再稼働が欠かせない」と説明する。
13年には原発の停止による燃料費増加額という根拠を示しているが(検証すると過大評価が明らか)、24年の説明は、じつは原発再稼働で26兆円の燃料輸入費がかなり大幅に削減できるかのような“印象論”でしかない。経産省の姿勢変化を感じる。

では、日本の発電にかかる燃料費はいくらなのか。貿易統計から品目ごとの輸入量と輸入金額はわかるので、この輸入金額を輸入量で割れば燃料種別の単価が導き出せる。一方、経産省は毎月、火力発電で一体いくら燃料を受け入れ、消費したのかを燃料種別に発表している(電力調査統計)。
日本の燃料はほぼすべて輸入のため、発電所で受け入れた量を見れば、それが当該年度に輸入した量とおおむね一致する。これに燃料価格をかければ、発電所用に輸入した燃料のおおよその金額が導き出せる。

この10年で増加した再エネ発電
防いだ1.8兆円の国富流出

この手順で16年度から24年度までの推移をまとめた(下図)。すると、火力発電所の燃料費が輸入に占める比率は4分の1程度でしかないことがわかる。一方で輸入額は大きく変動している。大きくは20年度の新型コロナウイルスによる輸入量減と資源価格の低下、21年度の経済活動再開と資源価格の上昇、22年度のロシア・ウクライナ戦争の開戦による資源価格の高騰、加えて激しい円安(16年~21年平均1ドル=109.5円、22年~24年平均1ドル=141.1円)が背景にある。

では、原発が1基再稼働したら燃料費削減効果はどれぐらい期待できるのだろうか。発電能力100万kWの原発が1年運転(設備利用率7~8割)すると、発電電力量は58億kWh~67億kWh。原発が発電した分、比較的単価の高いLNG(液化天然ガス)や原油を焚き減らした場合、820億円~950億円程度が削減できる。一方、ウラン燃料も輸入品だ。貿易統計からウラン燃料集合体の単価がわかるので、これを適用すると燃料費は40億円程度だ。差し引きでだいたい900億円が削減効果になる。
政府の計画では40年に電力供給の20%を原発で賄うという。この目標には35基前後の原発が必要だ。再稼働した原発は14基。20基追加で再稼働したとして、1.8兆円が原発による削減額になる。大きな額だが、燃料輸入額比では1割足らずだ。ちなみに10年度から23年度の間に再エネの発電電力量は約1200億kWh増加した。同様に火力を焚き減らしてきたと考えると、24年度は1.8兆円ほど国富流出を防いだ計算だ。

日本の燃料輸入額のうち最大のものは原油、使い道は自動車燃料(約5割)と石油化学製品(約2~3割)だ。国富流出をいうのであれば、自動車の電動化を推進すべきだが、自動車産業に遠慮してか経産省はおよび腰だ。(松久保肇)


まつくぼ・はじめ
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。
金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。著書にブックレット『原子力の終活ー産業としての終焉』(地平社)、共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など https://cnic.jp/


2026年1月1日発売の『ビッグイシュー日本版』518号「原発ウォッチ!第225回」からの転載です。

『ビッグイシュー日本版』の購入

『ビッグイシュー日本版』は、全国の路上で販売者からお買い求めいただけます。お近くに販売者がいない場合は、委託販売・定期購読・通信販売でのご購入もご検討ください。