血圧が高いと早死の傾向があるのはよく知られているが、ドイツではお金があるかどうかが平均寿命を左右する。困窮層の人々は慢性疾患に苦しむ可能性が高く、医療機関も利用しづらく、若くで命を落としやすい。
ドイツ各都市の地域保健センターをつなぐ統括組織「ポリクリニック・シンジケート(Polyclinic Syndicate)」では、この「病気を長期化させるシステム」は、予防よりも利益を優先する新自由主義的な医療システムの結果だととらえている。健康とは、純粋に個人的な問題ではなく社会状況の産物であり、貧困、不安定な雇用、家賃の高騰、差別、環境汚染はすべて、人々の身体と精神に大きなダメージを与えているとの認識だ。

ドイツ連邦政治教育センターの2024年度報告書によると、貧困層の女性は富裕層の女性より平均で4.4年早く亡くなっている。男性の場合、その差は8.6歳だ。日常生活において、健康と福祉の優先度を上げることの重要性は明らかだ。そこでポリクリニック・シンジケートでは、地域保健センターを設立することで、この課題に取り組んでいる。
東ドイツ時代のポリクリニック・モデルに基づくこれらの施設では、あらゆる分野の外来診療が一拠点で連携して行われる。そのため、患者は症状によって病院を移動する必要がなく、医師側にとっても、機器の共有など、より協力しやすい環境となっている。「東ドイツ時代のポリクリニック・モデルにあった問題を踏まえ、私たちの地域保健センターでは、理学療法士、ケースワーカー、心理学者、看護師も配置しています」とホームページには書かれている。「健康的なライフスタイルは、健全なシステムに宿る」が、ポリクリニック・シンジケートの中心的な考えだ。
目的とするのは、病気の根源と闘うことだ。医師による診断や処方だけでなく、より良い生活水準、公正な労働環境、社会的セーフティネット、そして差別との闘い。これは「あらゆる政策における健康(Health in all Policies)」と呼ばれるアプローチで、住宅、環境、仕事、教育などの分野における政治的決定が健康に及ぼす影響を体系的に分析する。
ベルリンから他都市へ拡大中
このモデルの先駆けとなったのは、ベルリンだ。ビール醸造所の跡地に設立した地域保健センターでは、500平方メートルの敷地内に、総合医、小児科医、心のケア担当者を配置し、家族、健康、ケア、社会サービスの相談センターもある。入口に併設したカフェは、近隣住民や患者たちの憩いの場となってる。同様のセンターを13拠点つくっていく計画だ。
ドイツ南西部でも同様のプロジェクトが動いている。フライブルク総合病院や、テュービンゲン南部では、新興住宅地マリブの「New Start: Solidarity in living and housing(新しいスタート:生活と住宅における連帯)」という共同プロジェクトに基づいて、連帯地域医療センター(SGZ)のプロジェクトが進められている。急発展しつつあるこの地域には、特に社会サポートから取りこぼされかねない人々に寄り添った医療システムの必要性が最初から明らかだった。 「私たちは利益を追求しているのではなく、人々の生活の質を大切にした医療システムをつくりたいのです」と関係者たちはいう。
立地場所を市の南部にしたのは偶然ではない。市の報告書によると、この地域には社会的に恵まれない人々が多く暮らし、人口も急増している。「外来診療の利用可否が、保険の加入状況、居住地、社会的背景、個人の経済状況に大いに左右される状況がある」。民営化や経済的視点によって公共サービスが損なわれ、スタッフ不足、過酷な労働環境、数カ月に及ぶ診療待ち時間が発生する状況となっている。

健康の再考:住民が“自分の健康の専門家”になる
SGZが目指すのは、地元住民たちが“自身の健康の専門家”になれるようにすること。住民たちに意見を求めたところ、特に重要となるのは「ストレスへの対処」と「体を動かす機会づくり」の二つの側面であることが分かった。
そこで2025年3月より、近所をウォーキングで巡る「Health in the Neighborhood」プログラムなどを試験的に実施している。従来の取り組みや関係者とも緊密に協力していく構えだ。その一環として実施している「健康についてのお話し会(Health in Conversation)」プログラムでは、医師、教育者、その他の専門家に相談しやすい仕組みを提供する。専門知識のある保健師が個別訪問し、アドバイスを行い、必要に応じて支援サービスにつなぐ。そうすることで、個人の問題を地域で取り組む問題にする。

大方の運営資金は、補助金、団体や個人からの寄付金で賄われているのが現状だが、目指すのは、欠陥システムの穴をふさぐのに特定のボランティアに依存するのではなく、人々がお互いにつながることで変化への推進力を生み出すことにある。
ポリクリニック・シンジケートの構想は地域レベルにとどまらない。国家、ひいてはヨーロッパにおける医療システムのあり方を根本から変えていきたいとの思いがある。ドイツ政府が導入した「ヘルス・キオスク」などの取り組みでは不十分だと関係者はいう。「ヘルス・キオスクは医療を提供せず、長期的な治療になっていない」と、ベルリン保健センターの関係者がTAZ紙とのインタビューで語っている。
一方のポリクリニック・シンジケートでは、予防と治療の真の融合を呼びかけている。彼らの基本方針を記した「ビジョン2045」によると、「多様性は人を健康にするが、排除は人を病気にする」というモットーのもと、スムーズな一次医療を提供する拠点として、今後20 年で地域保健センターを全国レベルで設立していく考えだ。
ポリクリニック・シンジケート【公式】
https://www.poliklinik-syndikat.org/
By Florian Stegmaier
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of Trott-war / INSP.ngo
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