ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などに講義をさせていただくことがあります。
普段は出張講義の形が多いのですが、今回は関西学院大学人間福祉学部社会起業学科の川中ゼミの皆さんが、ビッグイシュー日本の大阪事務所に訪問。実際に販売者が出入りする現場の空気を感じながらの授業となりました。

川中先生の専門は社会デザイン研究。市民社会から展開される社会イノベーション実践に関心を寄せながら、若者の影響力を高める社会参画やシティズンシップ教育について、具体的な実践に即して研究しています。
ゼミでもゲストから話を「聞いて終わり」にするのではなく、社会課題への理解を進めたうえで、受け取った内容を自分たちの言葉で捉え直すこと、同世代にどう伝えられるかを考えることに2回の授業にわたって取り組みました。
「ホームレス」は、その人を決めつける言葉ではない
1回目の授業では、ビッグイシュー日本のスタッフ・吉田が、ホームレス状態に至る背景について講義しました。
▼講義内容ダイジェスト
講義後のアンケートには、「『知る』ことで自分自身の偏見に気づけるとわかったので、まずは『何してるんだろう』と思ったことに対して調べて知ること」から始めたいという声がありました。また、「偏見のフィルターが存在していることを認識することを意識したい」と書いた学生もいました。
ホームレス問題を知ることは、誰かを支援するためだけの学びではありません。自分がどのような見方で人や社会を見ているのかを問い直す機会にもなるのです。

住まいを失うまでの、いくつもの分岐点
この日は、西宮北口でビッグイシューを販売している近藤さんが自身の経験を語りました。

近藤さんは、かつてコピー機で有名な企業で働いていました。はじめは問題なく働いていたのですが、会社の経営状況が変わるにつれ、現場の空気も変化。作業時間をストップウォッチで測られ、ミスがあれば厳しく叱責される。職場で仲良くしていたパートの人たちとも、仕事上の理由から社員とは距離を置くよう求められるようになったといいます。
そうした変化の中で、近藤さんは会社を辞め、離婚も経験。日払い・週払いの派遣でしのぐ生活が重なりました。すぐに収入が必要な状況では、正社員の仕事に採用されても、最初の給料日まで生活がもたないことがあります。日払いの仕事はその場をしのぐ助けになりますが、仕事がない日が続けば、家賃を払うことも難しくなっていきます。
やがて近藤さんは住まいを失ってしまいます。住所や携帯電話がない状態では、再び仕事を探すことも簡単ではありません。そんな時に思い出したのが、以前街で見かけたことのあったビッグイシューでした。
ビッグイシューは、ホームレス状態にある人が路上で雑誌を販売し、その売り上げの一部を収入にできる仕組み。住所や保証人がなくても始められる仕事として、近藤さんにとって社会とつながり直す入口の一つになりました。
近藤さんの話にあったのは、ひとつの大きな出来事だけではありません。働く環境の変化、生活費の不足、家賃、連絡手段、家族や周囲に助けを求めにくい関係。いくつもの分岐点の積み重なりとしての、住まいの喪失でした。
ゼミ生たちが考えた、若者にとってのビッグイシューの価値
この授業を受けた学生の皆さんは、次の授業に向けた課題として、「若者にとってビッグイシューにはどのような価値があるのか」を考え、オンラインで開催された2回目の授業で3つのグループに分かれて発表。

それぞれのグループに内容に共通していたのは、ビッグイシューを「ホームレスの人たちを応援する事業」としてだけではない視点で捉えることです。
販売者の人生の一端を知ることは、若者自身が自分の働き方や生き方を考えるきっかけにもなるのではないか。「失敗してはいけない」「一度レールを外れたら戻りにくい」「SNSで見る他の人はキラキラ成功しているのに、自分は…」という不安を抱えがちな若い世代にとって、「つまずいても、そこからまた始められる」というメッセージを受け取れるのではないか。そうしたビッグイシューへのまなざしが学生の皆さんの発表から感じられました。
近藤さんの話したことは、苦労をすべて乗り越え、順調な人生を取り戻したという話ではありません。近藤さんは今、販売者として誇りとこだわりを持って仕事をしています。
「販売するときには、悲壮感を出すのではなく、楽しくやりたい。ポジティブに生きたい」と語っていたことについて、授業後のアンケートには、「近藤さんがおっしゃっていた『好きなことをする人生がよい』という言葉が一番印象に残りました。これからの進路を決めるうえでの大きなヒントになりました」という感想も。
昨今の大学生は、早い段階から就職活動を意識し、将来の選択を迫られています。
「生活が安定する道を目指さないと」「乗り遅れないように」「できるだけ早くから準備を」という風潮の中で、学生の皆さんにとってのビッグイシューは、「社会問題を知る雑誌」としてだけではなく、「自分の人生を考える雑誌」としての可能性があったようです。
将来への漠然とした不安を抱える若者にとって、人生にはいくつもの分岐点があり、うまくいかない時期があっても、それで終わりではないと考える材料になる。
ビッグイシューが目指す「何度でも挑戦できる社会」というメッセージを、学生たちは若者自身の人生を考える言葉として受け止めていました。
自分たち世代の社会を、どうしていくか
授業後のアンケートには、次のような感想もありました。
「自分の行動がまわりまわって自分の大切な人にもやってくるということを、もっと社会に広めると、多くの人たちが平和について考え、少しでも自分たちの行動を改めることになり、結果的に貧困を減らせるのではと思った。少しでもこのことを周りの人に話すことから始めたい」
貧困問題を自分たちがどのような社会で生きたいのかにつなげて考え、伝えること。学生たちの発表とアンケートには、その視点が表れていました。
社会課題を学び、自分の行動につなげる
川中先生は、2006年から授業にビッグイシューを招いてくださっています。
以前、その理由について、川中先生は次のように話していました。
「授業後には『いろんな理由があって、その人の今の状況がある。そういう風に考えないといけないなと思った』といった共感的理解に進む感想や、社会構造に問題意識が向けられた感想が出てきて嬉しかったですね。やはりホームレス状態を経験された人の話を直接聴くのは、とてもインパクトがあるようです」
また、授業の後、実際にビッグイシューを買いに行く学生たちもいるといいます。
「少しでも自分にできる行動を起こして、社会を変えていこうとする学生の姿勢を見ると、出張授業をしていただいてよかったと思います。また、そうした学生の柔軟性から私が自らの襟を正すこともあります」
今回の授業でも、学生たちはホームレス問題について知るだけではなく、そこから自分たちに何ができるのか、若者にどう伝えられるのかを考えました。
社会課題を知ること。自分の見方を問い直すこと。自分にできる行動を考えること。
ビッグイシューの大阪事務所で始まった2回にわたる授業は、学生たちが社会との関わり方を考える機会となりました。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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