「表現する喜び、安心できる居場所、そして車輪を――」。英国外からポーツマス市内へ移住してきた若い人たちを対象に、ローラースケートとダンスを組み合わせたワークショップ「Skates4Mates」が始まった。主宰者である振付師・パフォーマー・エッセイストのジェニファー・アイアンズが、その体験をレポートする。
※この記事は2025-10-01 発売の『ビッグイシュー日本版』512号からの転載です。
非人間的なものとは正反対のこと――人々を歓迎、移動の自由認めよう
「私の名前はジョンです。スケーターです」
これは、「Skates4Mates」のワークショップで参加者の一人が自己紹介をした時の言葉だ。“移民・難民”でも、“ナントカ人”でもない。ただローラースケートがやりたくて来た人、私たちの仲間。
「Skates4Mates」を開くことになった、そもそものきっかけは、2016年に英国がEU離脱を国民投票で決めた瞬間だった。あの時から、社会の中で何かが変わった。もしあなたが私のように移民だったら、それを嫌でも肌身で感じたはず。街の空気、ニュースの見出し、バスの中で耳にするつぶやき……。難民申請中の人だったら、なおさら、これまで受けてきたトラウマや恐怖、そしてこれから片づけなければいけない山積みの申請書類に、心が押しつぶされそうな思いをしたに違いない。
テリーザ・メイ(元首相)がつくり出し、ボリス・ジョンソン(同じく元首相)がごまかしながら放置した“外国人に対する敵意満々の環境”は、国境管理だけの問題ではなかった。むしろ、日常生活で蔓延する排外的な感情が正当化されてしまったのだ。
カナダのユーコン準州で生まれ育った私は、ずっと「カナダは英国よりも移民にフレンドリーだろう」と信じていた。なぜなら、ポイント制の新しい移民制度が約束されていたから。
そこで試しに、オンライン上で回答できる「移民テスト」を受けて、自分がカナダに移住できるかどうかを調べてみた。44歳の女性で、ダンスの学位を持ち、貯金はあまりない。気になる結果は? 残念ながら落選。私はれっきとしたカナダ人なのにね!(笑)
この不条理な移住プロセスを見て、ふと疑問に思ったことがある。いったい、どんな人が移住先で求められているのか? ビザを取得するには、何をクリアしなければならないのか? 要するに、カナダに移住する一番手っ取り早い方法は、宝くじに当たって金持ちになるか、一流の学者や学生か、スポーツ選手になるしかないらしい。そう、今流行りの“資本主義的な生産性の証明”を求めている。そしてたいがい、そうなれるかどうかは、人生の運(または不運)に左右されがち。
難民申請の手続きは、あきらめるまでわざと疲弊させて、貧しい人にお金をかけさせる通過儀礼。これが非人間的なものじゃなくて、何だろう?
仮に運よく申請が通ったら、生まれてから身についたアイデンティティを押し殺して社会に溶け込み、住まわせてくれる“感謝の気持ち”をもつことを強要される。“良い仲間の一人になりましょう”ってね。
白人で、英語のネイティブスピーカーである“良い国”出身の人間として、私は断言する。“良くない国”から来た他の人たちが、どれだけの苦労をしなければならないのか、正直に言って想像もつかない……。だから私は、非人間的なものとは正反対のことをやろうと考えた。よそからやって来た人々を歓迎し、移動の自由を認め、彼らのアイデンティティを守ることだ。
最初、スケート靴履くだけで90分、やがて高難度のダンスもマスター
私の唯一の強みは、ダンスができること。そしてローラースケートを使えば、もっと楽しくなるはず。「行動しなきゃ」と思った私は、すぐさま知り合いの詩人・人権活動家で、移民の人たちがアートや文学で自己表現する創作集団「432 Nomads」の創設者、マジッド・ダナに電話した。そこで私は提案。「移民の若い人たちと一緒に、ローラーディスコ(ローラースケートとディスコを組み合わせ、スケート靴で滑りながらダンスすること)をやってみたいんだけど?」。マジッドの返事は「うん、やってみればいい。スケート靴を用意すれば、みんな参加してくれるんじゃないかな」
果たして、彼の言うとおりだった。ものの30分で、20人が登録してくれた。参加者が到着するや否や、スニーカーをスケート靴に履き替えてもらって――さあ始めよう!
まずは1週目……緊張の連続。スケート靴を履くだけでも、90分ほどかかった。安全のために、けがをしない転び方を習得してもらう。誰でも、転ぶのは当たり前。そして転んだ時には、「がんばってるね!」とみんなで褒め合う。歩数を数える時、アラビア語、ティグリニャ語(エリトリアやエチオピアなど、東アフリカで話される公用語)、ペルシア語での数え方を教えてもらった。みんなに私のヘタクソな発音を笑われちゃったよ!

そして2週目……彼らの上達は早い。3週目には互いに教え合うようになり、4週目にはもうファミリーだ。
誰も、何も証明する必要なんかない。書類も、職質(職務質問)もなし。ただ音楽に合わせて、共に動くことへの、言葉にならないくらい感動的な一体感。これはセラピーではないけれど、癒やしそのものなんだ。
世界保健機関(WHO)によれば、避難を求める人々と受け入れるコミュニティが、身体的・創造的な活動を共有することで、最も効果的に友好関係を進められるという。ローラーディスコは、まさにそれ。公共の場に出て、最初は人目に触れるのを恥ずかしがっていた人もいたけれど、みんなでやれば怖くない。今では広場を滑らかに歩いて、クルー(団員)として他の参加者を指導するように。私たちは歓声を上げながら、踊り、笑い合うの!
もし、これが政府の計画だったら? きっと誰も読まない、何十ページもあるマニュアルを押しつけて、「これを覚えろ」で済ませるかも。「Skates4Mates」に参加した人はみんな初心者だったのに、ダンスでも高難度の「クレイジー・レッグス」のやり方をマスターして、それをスケート靴を履きながら踊りこなしてしまうんだから、本当にすごい。
100%の人が「自信がついた」。100%の人が「新しい友達ができた」。100%の人が「ローラーディスコを続けたい」と答えた。でも何よりうれしかったのは、彼らが自己表現を通して、新たなアイデンティティを見つけたことだ。“システムから押しつけられたアイデンティティ”ではなく、自ら勝ち取ったもの。
お役人さんたち、どう思う? みんな友好的で有能で勤勉な、“良い人たち”でしょう?

「Skates4Mates」は“誰かを救う”ためのものではなくて、ひたすら「楽しくて自由な何か」「人間らしさを感じさせる何か」を提供する場。楽しさからスケート靴を履き、ユーモアで人を怖がらせずに転ばせる。信頼で私たちはつながり、喜びが人を立ち直らせる。
今や立派なクルーとしてセッションを手伝ってくれている一人が、こんなことを話していた。「ここに来るまでは、どこにも居場所がなかったんです。初めて“自分はここにいていいんだ”と信じられるようになりました」
私たち一団が、「Skates4Mates」のロゴが入った鮮やかなピンク色のTシャツを着て街を歩くと、道ゆく人々は笑顔になり歓声を上げる。もう“見知らぬ移民”ではなく、スケーターとして迎え入れてくれる。

マジッドはこう言っている。「スケートは移住のメタファーなんだ。徐々に慣れて、習得し、常に前に向かって進んでいく人生のようにね」(Jennifer Irons, The Big Issue UK/編集部)
『ビッグイシュー日本版』の購入
『ビッグイシュー日本版』は、全国の路上で販売者からお買い求めいただけます。お近くに販売者がいない場合は、委託販売・定期購読・通信販売でのご購入もご検討ください。
- 全国の路上(約100か所)
- 委託販売店 (約50か所)
- 定期購読 (1年間・最新号を順次お届け:24冊)
- 販売者応援3ヵ月通信販売 (3ヵ月分・最新号を含む6冊のお届け)
- バックナンバー通信販売 (最新号を除くお好きな号3冊以上のご注文でお届け)
