ビッグイシュー日本が運営する大阪・千林商店街のシェア本屋「希望をつむぐ本屋さん」。ここは、店舗の中に設けられた棚やボックスを、希望者が月単位で借りる仕組みの「シェア本屋」と呼ばれる書店です。本を売る人は「棚」のオーナーとなり、棚に並べる本を自由に選び、好きな値段をつけ、時にポップやカードなどで思いを添えます。
それぞれの棚主は、どんな思いで本を選び、小さな棚をつくっているのでしょうか。
今回お話を聞いた棚主さんは、「かじの書店」のKさん。
書店で本を買ってもらった思い出の千林で「本」とかかわりたい
千林で育ったKさん曰く、子どもの頃の千林商店街は、「前が見えないくらい賑わっていた」そうで、千林商店街にあった「深田書店」で、毎月出る雑誌を買ってもらったり、休みの夕方に家族で散歩がてら本を買ってもらったりという思い出があると振り返ります。
大学までこの地で過ごした後、しばらく間をおいて戻って来た頃には、すでに本屋は1軒もなくなっていました。そのことをなんとも寂しく感じていたところ、2025年に「希望をつむぐ本屋さん」ができたことがとてもうれかったそうで、本屋を一軒開くのはなかなか難しいけれど、こうした小さな棚なら自分も本に関わることができる、と棚主として参加することになりました。
「推しの出版社」の本が並ぶ棚
個人の棚主さんは、自分の読み終わった古本を並べる方が多い中、かじの書店さんの棚に並んでいるのはすべて新刊。
しかも、並んでいる本は、落語、電車、さぬきうどん、河島英五さん、星野リゾートのホテル「星のや奈良監獄」、仏教の本…と、テーマは多岐にわたります。

これらの本の共通点は、ほとんどが西日本出版社から刊行されたということ。なぜ数ある出版社の中から、西日本出版社の本を、しかも新刊ばかり並べるのでしょうか?
「知り合いの飲み屋さんの女将に『この本おもしろいよ』って紹介してもらったり、食のイベントに誘ってくれたライターさんから『こんな本を出しました』って聞いたり。そうして手にした本が、どちらも西日本出版社の本だったんですよね。
ご縁があって出版社の方ともお会いして話したり、トークイベントに足を運んだり、本を読んだりするうちに、『モノの捉え方がおもしろい出版社やなあ』、『いろんな人がいるなあ。こんな人どこで見つけて来るんやろう』って感じるようになって」とのこと。
そうして、「棚主になるから、西日本出版社さんの本を置きたい」と話したら、少部数からKさんに卸してくれるようになったのだそう。
出版社と読者というと、一般的にはとても遠い関係のように思えますが、この棚では、本をつくる人と、読者とがとても近い関係でした。
「売るぞ」と思わない
かじの書店さんは、西日本出版社社長・内山さんのトークイベント「『上方落語林家の世界』~出版社・本屋さん事情も混じえて~」を「希望をつむぐ本屋さん」で主催するなど、かなり積極的に「希望をつむぐ本屋さん」にかかわっており、かじの書店の棚では
イベントに合わせて選書することもあるそう。
とはいえ、Kさんは「これを売りたい」と狙いすぎないほうがいい、と話します。
「『これを売るぞ』って意識しすぎるのは、ちょっと違うのかなと思って」
自分では「これぞ」と思って並べた本が、それほど動かないこともある一方で、思いがけない本が売れ、『これを買ってくれはったんや』ということもある。
自分がおもしろいと思うものを置いてみる。そして、その中から誰かが一冊を見つけて持ち帰っていくのがおもしろいと言います。
本質を捉えた本が好き
サラリーマンだったKさん、バブルの頃にはビジネス書が流行り始め、いわゆる「How to」本をたくさん読んだ時期もあったそう。
「でも結局、表面的な、口だけの本は、心に残らないと思うんです。心に残るのは、本質的なことを捉えてはる本になってくるんですよね。
うちの棚は、なかなか普通の本屋さんでパッと探せないけれど、『あ、こんな本あったんか』と思えるような本を紹介できたらなと思っています」
「かじの書店」
心に残っている本:『優しさごっこ』今江 祥智 著/新潮社
「中学生の時に読んで、当時はどこまで理解できていたか分からないものの、美しく見えていたように思います」

「希望をつむぐ本屋さん」

ビッグイシューが運営するシェア本屋。店番は販売者を中心に交代制。棚主も募集しています。
〒535-0012 大阪府大阪市旭区千林2丁目15−23
京阪「千林駅」から西へ50m。大阪メトロ谷町線「千林大宮」から徒歩8分。
