住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編 レポートpart.6を読む

住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編 レポートpart.7

会:ありがとうございました。続きまして第五章「住宅政策の再構築に向けての課題」につて佐藤委員から提案がございます。よろしくお願いいたします。


住宅政策の再構築に向けての課題

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佐藤:私は住宅政策を作る立場、あるいはそれを研究する立場ということでこの検討委員会に参加をさせていただいております。本日、ご報告する内容は検討委員会で議論してきたことを踏まえて私なりに整理をしたものということになります。


 もっとも私が関心を持っていることというのは「少子高齢社会の行き着く先のハウジング」についてです。これまで高齢者を対象とした住宅政策では、住宅のバリアフリー化や、介護サービス等について議論されてきたわけですけれども、それ以前に「高齢になった時の住む場所を確保する」ことの課題が大きくなってきています。特にこれから進む都市部での高齢化の中で、無年金や低年金の高齢者が増加することに対する住宅政策メニューが、十分ではないことが懸念されます。


国の住宅政策でいきますと、先程も川田委員からも説明がありましたように、市場からこぼれ落ちる人を住宅セーフティーネット施策で救う、という道筋ですが、その受け皿となる生活保護制度や公営住宅制度自体も、様々な改善、改良、変更すべき点があります。

さらに、それら以外の第三の道となる施策を安定的なシステムとして構築できるかどうか。つまり、誰もがそのセーフティーネットに関わる可能性を持っているということを前提とした安定的な居住システムを構築していかなければいけないのではないかと思っております。

それから、現在の住宅セーフティーネット自体も変化しており、もう一つその下に二つ目の住宅市場、すなわち社会福祉に依存するようなハウジングシステムが大きくなってきています。そういったものが社会保障費を増加させる可能性を秘めていることも問題ではないだろうか、と思います。

例えば、生活保護受給者をターゲットとした賃貸住宅市場が生まれ、中には非常に悪質なものも表面化しています。また、サービス付き高齢者向けの住宅が供給される中で、賃貸住宅経営で利益を上げるのではなくて、医療や介護といったサービスをセットにして利益を上げていくビジネスモデルが広がっています。

このような福祉との関係を抜きにして語れなくなっている二つ目の住宅市場の問題も大きくなっていると思います。

具体的な問題については、最後の図で示しています。これも本委員会の中で議論した内容を整理したものです。

各委員の方たちが指摘されている居住に関する問題点をもとに、全体構造を図に示したものです。

暮らしコミュニティーサービスに関わるヒトの問題、居住空間の質にかかわるようなモノに関わるもの、住居費負担というような<ヒト>、<モノ>、<カネ>という三つの領域とそれらを受け止める<マーケット>、という切り口で整理しています。


たとえば、「住む場所の確保〈マーケット〉」を見ると課題としては年齢や職業などによって入居差別がないことが大きな課題になるわけですけど、その一方で、背景としては、ヒトのみに目が向きがちな福祉行政の特性が存在し、マーケットに対して切り込むことができていない。また、建築行政はモノ、フローに重点が置かれ、福祉行政との連携が不足しており、ヒトにマッチした住宅の提供というところまで政策化がされていない、という問題があります。

<ヒト>について見ると、安心して暮らせる社会的関係があるということが安定居住のために重要なわけですが、今まで市場での取引対象とはなっていなかった「何気ない近隣のつき合い」といったものが評価されにくく、住み続ける等により良好な近隣関係を継続するための施策が不足しているという問題があります。

また、<モノ>についても、基本的な質を有する居住空間であるかどうか、適正な家賃設定や家賃負担率であるかどうか等、を評価するための社会的なシステムを構築していくことも大きな課題となります。

こうした状況の中で、普遍的な家賃補助政策を第三の道として展開していった場合に、様々な問題が新たに生まれてくるのではないか、ということを懸念しております。

最後に申し上げたいことといたしましては、そういった問題に対して、最も実態やニーズを把握している自治体による新たなハウジングシステムの構築が期待されるということです。

基礎自治体がしっかり住み手のニーズを把握して、具体的な施策に結びつけていくということが必要です。一方、住宅市場は基礎自治体だけではなく、より広域に成立していることから、そうした部分については国や都道府県の住宅市場政策と組み合わせながら、一体的に対応していくことが必要であると考えます。

そうした総合的な取り組みにより、予防的な住宅セーフティネットづくりがより幅広く、複合的に取り組まれていくことが、まずは、重要ではないかと感じております。以上です。


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住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編

part.1
徳武聡子さんが語る「追い出し屋問題」のいま:目立つ過酷な家賃取り立て
part.2

part.3


part.5


part.7
佐藤由美さんが語る:「住宅政策の再構築に向けての課題」(本記事)

part.8

part.9

資料
「住宅政策提案書」:2013年11月1日