食料を配布するのではなく、自炊の環境を/亡命者たちが使える移動式キッチンの設置

アーサー・インファンテは何年も前からホームレス支援に従事してきた。人助けをするのはごく自然なことだと言い、自分の子どもも巻き込んで活動している。「“してあげてる”とは思っていません。困っている人に何が必要なのかを訊ね、衣服や食料などを与える。その代わりに、私たちは彼らのストーリーを聞かせてもらっているので、これはフェアなやりとりなのです」。どんな人たちにも提供できるものがある、との発想だ。

デンバーの街に移民が押し寄せたときにも、簡易宿泊施設にいる人々に食料を届けた。もちろん食料の提供は彼らの生活を支えるうえで重要な手段だが、もっと自立したいとの声も聞こえてきた。「彼らがリスクを取ってここに来たのは、施しを受けるためではなく、働いて生活を築くため。お金を乞うのではなく、何か仕事はないかと訊ねられることがほとんどです」

自分たちで食事をつくれるようにできないかと考えたインファンテは、ノース・ペコス通りと州間高速道路70号線付近の高架下にある野営地で、移動式のテントキッチンの設置を決めた。ここで生活しているのは、米国への合法的な亡命を求めながら、なんとか自力で生活できるようになることを望んでいる人たちだ。

インファンテが組み立てた移民のための移動式キッチン

インファンテの本職はアンティーク家具の修復。像の復元やステンドグラスの窓の修復など、ありとあらゆる素材を扱ってきた。息子にゴーカートを作ったときに使った金属スクラップの残りを使って、キッチンを作った。鋼板に穴を開け、ガスバーナーを取り付け、遮光テントを組み合わせて野営地に設置したところ、好評を得ている。

移民に手料理をふるまうインファンテ

移民の多くは、ベネズエラ、コロンビア、ペルー出身で、それぞれに故郷の味がある。ベネズエラ出身の移民にはメキシコ料理は辛すぎる。キッチンがあれば、自分たちで故郷の味を再現できる。食べ物は大切な故郷を思い出させてくれる。

キッチンを利用するのは野営地に暮らす家族に限らない。遠方から歩いて来て、料理をし、市に斡旋された宿泊施設に帰って行く家族もいる。野宿地の移動に伴い、キッチンの場所もすでに5回移動させた。

食事の準備中

ただし、キッチンをきれいに使わない人もいることにインファンテは不満を覚えた。どうすればもっと丁寧に使ってもらえるだろうかと悩んだ末、自分の母親の写真を調理台に飾ることにした。「『お母さんのキッチン』と名付け、私の母がみんなを見守っているからね、と説明しました。すると、写真に向かって十字を切る人など、キッチンを大切にしようという思いが芽生えたようです」

利用者のマナー向上になればと母親の写真を置いた

このキッチンに集まる人たちは料理するだけが目的ではない。言葉を交わし、食事を共にする、小さなコミュニティができている。「子どもの頃、私の家に来る人はなぜかリビングよりキッチンに集まることが多かったんです。母のおかげで、キッチンは、みんなで安心して過ごせる場になっていました。私の母もこの取り組みをすてきなことだと喜んでくれているはずです」

By Giles Clasen
Courtesy of Denver VOICE / INSP.ngo

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