<前編を読む>
そんな彼らが、住む場所に一番求めるものは何なのだろうか?
5人に1人が「利便性」(街へのアクセス、通勤、交通、最寄り駅との距離)を求めている。東京では、「居心地」や「環境」(広さ、快適さ、安心、安全、公共施設)についても3人に1人が望んでいる。
さらに6人に1人は家賃そのものや家賃とのバランスをあげるが、これは東京の家賃が高いからだろう。一方、大阪では「居心地」(安らぎ、くつろぎ、落ち着き、暮らしよさ、清潔感)をあげる人が多い。
「暮らしやすさ。防音、清潔感、台所の広さすべて。前に住んでいた部屋が電話の会話が聞こえるぐらい壁が薄かったり、台所が狭かったり、生活する家ではなく、単に『寝に帰るだけの家』の造りだったので、引っ越す時にこの点を考えた」(25歳/男性/法律事務所/大阪)という意見が象徴的だ。
結婚(同棲)したら住みたい家についても聞いてみた。「広いところ」と答えた人が、3人に1人。「自分の空間を持ちたい」という人を加えると半数におよぶ。現在住む住宅は狭くても、結婚したら自分の空間を確保したいという願望が強く現れている。
家賃補助賛成は半数、4人に1人は条件つき賛成か、否定的
国の住宅政策については、半数近くが「家賃補助」に賛成している。具体的には、「求職活動中の身なので、その間に受けられる補助制度があれば、家賃を気にせず仕事探しに専念できてよい」(26歳/女性/求職中/東京)、「敷金や礼金、家賃の補助があれば非常に助かる」という意見があった。
反対に、「会社が福利厚生として社員に補助すればいいこと」(33歳/女性/会社員/東京)など、否定的な意見も4人に1人あった。
また4人に1人は条件つきで賛成している。具体的には、「若者に限定する意味は? たとえばひとり暮らし支援制度のようなものができれば住宅の分散が進んでしまい、ますます住宅環境が悪化してしまうのではないか。ルームシェアやハウスシェア、ドミトリーハウスのようなものの需要への補助は賛成」(24歳/男性/音楽家/東京)、「ハウジングプアが発生しないようにしてほしい。派遣切りの際に生じたような、仕事を失うと住宅を失う状況が生じないようにしなければならない。若者への家賃補助がいいのか賛否は留保するが、安くてまともなところに住む権利は奪われてはならない」(35歳/男性/会社員/東京)
そのほか、「最優先して税金を投入すべきは耐震性の確保。100年住宅など、日本らしい街並み形成も視野に入れる」「敷金、礼金の見直しを」「増改築への補助」「相続税の軽減」「低所得者全体へ」などの意見が寄せられた。
同居から独立へ、ネックは親との関係(東京)とお金(大阪)
現在、親と同居している若者(20人)に、ひとり暮らしの意向について聞いてみた。
東京では7割が独立してひとり暮らしをしたいと考えている。その理由としては、「いい歳だから……。自宅ってちょっと格好悪いかも……」(31歳/女性/会社員/東京)、「職場が家から遠い(通勤1時間半)、残業で終電に間に合わない」(25歳/女性/DTPデザイナー/東京)、「親元を離れて自立しなければと思い、親からもそろそろ家を出て行く時期なのではと促されている」(29歳/女性/染織り物染色工場勤務/東京)など。
それに対し大阪では、「作品制作のアトリエを確保したい」(33歳/男性/フォトグラファー/大阪)という意見もあるものの、6割がひとり暮らしをしたいと思っていない。
では、独立のネックになるのは何だろうか? これについても、東京と大阪は際立った違いを見せている。東京ではたとえば、「母親が病気がち」「親に甘えてしまう」など「親との関係」が4割あるのに対して、大阪では8割が「収入面での不安」など「お金」をその理由にあげている。
住宅を探す第1条件は、東京では「環境・立地」、大阪では「住宅条件」(広さ、水まわりなど)が多く、東京と大阪で共通するのは、「利便性」であった。
ルームシェアについては、「してみようとは思わない」人が6割を占め圧倒的に多い。現在、親と同居中であるから、ひとり暮らし優先でルームシェアは検討外ということかもしれない。
結婚(同棲)したら住みたい家については、3人に1人が利便性を望み、東京では半数にも及ぶ。
国の住宅政策については、「家賃補助など住宅政策が必要」と答えた人が半数弱あるのに対し、「住宅政策自体がいらない」と答えた人が約3人に1人あった。親と同居することでそれなりに良質な住環境を得ているので、住宅そのものへの要求が生まれにくいともいえる。
日本の若者の住宅要求の弱さは、親との同居を許容する風土が生んだのかもしれない。
最後に、親と同居する27歳、女性の意見を紹介したい。
「突然の不況によりワーキングプアやネットカフェ難民になってしまった人たちに対して、住宅だけでなく医療保険、年金なども含めて包括的に支援する政策があればよい。今後格差がますます広がり、生活保護までいかないが困窮する人は増えていくのではないか。高齢化社会に向かって若者の存在が今以上に社会を支えていく必要があるのだから、セーフティネットをもっと幅広くしてもいいのではないかと思う」(保育士/東京)
(奥田みのり/沢田恵子/中島さなえ/野村玲子/山辺健史/編集部)
イラスト:Chise Park
(2009年10月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第128号)より