編集部より:元受刑者でブロガーのイノシシさんからの福岡の出所者支援を行っている会社ヒューマン・ハーバーで、実際に働いている方へのインタビュー記事です。
(提供:けもの道をいこう ~元受刑者が実名起業するまでの記録~

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ヒューマンハーバーの「ある蔵」で働かれている方の過半数は服役経験者です。その中にはもちろん元ヤクザの方もいらっしゃるわけで‥。

この記事では元ヤクザで今では課長(現場をまとめるトップ)を任されている中川浩一さん(仮名:36才)に、生い立ちやその独自の持論など興味深いお話を伺いました。

事件を起こし少年院へ。21でヤクザの道に。

自分は片親(父)だったんですけど、特に家庭環境が悪かったとかそういったことはありませんでした。ただ、当時はかなりグレていて‥。小さい頃から児童相談所から鑑別所、色々行きましたね。

自分が小学校のときに父が再婚し、その後は色々あって少年院に入ることになってしまったんです‥。その後は少年院を経て21才でヤクザになり、刑務所は2回経験しました。

家族との折り合いがあまり良くない人が少年院などから出所した後にヤクザになるケースは多くあるそうです。(現在、中川さんの実父と義母のお2人は離婚されています。)こうした「帰る場所が無い(会っても居づらい)環境にいる出所者への仕事の提供」がそうした組織へ人手が流れるのを防ぐ手段になるのでは、と考えさせられます。

2度目の刑務所で足を洗うことを決意。

−−−−−ヤクザの道から現在までどういった経過を辿られてきたんですか?

2回目に刑務所に入ったとき「もう足を洗おう」と決めました。刑務所の中でも暴力団脱退の誓約をし、結果として仮釈放をもらえました。

出所してからすぐにお世話になっている組に挨拶に行き「カタギになる」と伝えました。

−−−−−ヤクザや暴走族の世界では「抜ける者には制裁を」というイメージが僕の中ではあるのですが、そういったものは無かったんでしょうか?

元々のキャラクターもあるかもしれませんが、自分の場合はまったく無かったです。

ヤクザに良い悪いも無いでしょうけど、自分がいた組は「良い組」だったと思います。カタギに戻ることを伝えると何の揉め事も無く理解してもらえました。

−−−−−そうなんですか‥。僕の中ではかなり意外ですね。実際にはそういったしがらみの無い組の方が多いんでしょうか?

他の組のことはどうかよく分かりません‥。もちろん制裁があるところも存在するとは思いますよ。

自分が思うのは「中途半端にしてたら詰められる」ということです。例えば「カタギになる」と言って抜けた人間がグレーなことをしたり、街中で元ヤクザであること自慢して威張ったりしてたら、抜けた組の方から色々と言われたりするとは思います。

この話には少し驚かされました。僕の中にはヤクザや暴走族といった組織は「辞めようと思っても抜ける際にしがらみがあって抜けれない」という先入観があったからです。もちろん中川さんの話はあくまで1組織のことですが、それでもそういった組織があることに驚きました。

また「辞める際はスッパリ」という言葉にも説得力があります。たしかに自分たち組を抜けた人間が街中で悪い噂を立てられれば組の看板に泥を塗る行為になるわけですから‥。

偶然ハローワークの求人で見つけたヒューマンハーバーに「2年で社長になります」と宣言し入社。

−−−−−組を抜けられてからの話を教えてもらえますか?

自分は「将来は起業したい」と考えていたんです。でも普通の会社で働いたことがないから会社というものが分からない。(笑)

だからまずは就職しようとハローワークの求人を探していたところ、偶然にもこのヒューマンハーバーを見つけたんです。

−−−−−たしかに組織とはいっても「普通の会社」ではないですね‥。ヒューマンハーバーでは面接の際にこれまでの経歴を伝えたんでしょうか?

そうですね。後からバレてどうこうなるのが嫌だったのですべて話ました。いくら出所者を雇っている会社とはいえ、自分の罪名や元ヤクザということからすると、本来入るのは厳しいはずなんですが運良く採用してもらうことができました。「2年で社長になります!」と言って今まだ課長ですが‥(笑)

僕ももしどこかの企業に就職するなら前科を隠さず入社したいです。本当に中川さんが言われている通り「後からバレてどうこうなる」のは一番避けたいケースといえます。

また、中川さん自身は謙遜されていましたが他のスタッフの方からの信頼されているのはほんの数分ですが雰囲気で分かりました。2年で課長は難しかったようですが、アルバイト、リーダー、主任、係長、課長、と順調に出世中でされています。

「あえて昔のつながりは切らない」という選択。

中川さんのお話の中で一番驚いたのは「昔の悪仲間やヤクザ時代の人間関係をまったく切ってない」ということです。そのことについてこうおっしゃられていました。

ここに入社する際に会社の方にも言いましたが、僕は昔のつながりをまったく切っていません。

けど、それで足を引っ張られるといったことは全然ないんです。逆に応援してもらってるぐらいです。

−−−−−それはすごいですね‥。なぜその選択肢を選んだんですか?

う〜ん‥。僕のキャラクターもあると思いますが、自分自身「あえて切る必要はない」と思ったんです。「切らなくても大丈夫」と。

「逆に応援されている」と聞いたときは「本当ですか?!」と思わず聞き返してしまいました‥。これまでの僕のイメージでは「昔の悪い交友関係が更正の足を引張る」と思っていたからです。そういった話はよく聞きますし、中川さんも耳にすることはあるようです。そして、刑務所を含め至るところでそういった交友関係は断つように指導を受けます。しかし、あえてその逆を行く。中川さんの人当たりの良い、年下の僕がいうのもアレですが「可愛がられるキャラクター」のなせる技なんでしょうか‥。さらにこれが「中川が真面目にやってるから俺らもカタギに戻れるかも」といった良い影響を与える流れになればそれは素晴らしいことだと思います。

父親と十数年ぶりの再会。

中川さんは少年院に入った事件をきっかけにお父さんとも音信不通の状態だったそうです。それが最近、十数年ぶりに再会したとのこと。

親父とは本当に15〜16年ぐらい一切に会ってなかったんです。あっちも噂で自分がヤクザになったことは知っていたみたいですが‥。

出所した後、この会社で働き始めてから一応「ここ(ヒューマンハーバー)でこんな感じの仕事をしている」ってのは伝えてたんです。しばらくしてからうちの会社がテレビや新聞で取り上げられてるのを見たようで、連絡がありました。やっぱ、泣いてましたね‥。

僕自身が「立派にやってる」と言うよりも、そういう風に周りから良い噂を聞く方が立ち直っていることが伝わると感じました。ちなみに最近ではLINEも来ますよ(笑)

「自分が言うよりも周りの良い噂の方が説得力がある」

これは本当にその通りだと思います。営業に例えると「俺すごいっす!」と自分で言ってる人間より、周りが「◯◯さんてすごいよな〜」と言ってる人間の方が信用できるもの。その意味で中川さんはお父さんに対してとても良い伝え方ができるているんだろうなぁ、と感じました。15年以上音信不通だった親子がLINEのやりとりができるまでの関係になれぐらいなので。この話を聞いて、僕も親にはちゃんと実績をつくった上で報告しようと思わされましたね。論より証拠、です。

今後はヒューマンハーバーの卒業生として起業予定。

ヒューマンハーバーには「100人の経営者を」というひとつの目標があります。その一員として中川さんに白羽の矢が立っているとのこと。

現在ヒューマンハーバーには就職支援は「ある蔵」しかありませんが、中川さんが起業しそこに元受刑者を雇い入れることで新たな就職支援先を設ける、といった計画のようです。この取り組みは広まっていけば「元受刑者が元受刑者を雇う」という「出所者支援」ではなく「出所者自立」への道がグッと広がってくることでしょう。

最後に

中川さんのインタビューを通して強く感じたのは「事実を受け入れ、淡々と前に進んでいる」ということ。過去のことを話しているときも「俺なんて‥」と卑屈になることなく、かといって「俺はな〜」と昔の悪自慢のような雰囲気を出すわけでもない。

今できること全力でやる。

その姿勢が中川さん本人からもそうですし、周囲のスタッフが中川さんのことを話すときにもヒシヒシと感じられました。ぜひとも「元受刑者を雇用する元受刑者社長」となって、支援から自立への道を広げていって欲しいと思います。独立された際はまだぜひ取材させていただきたいです!

本当に良い刺激をありがとうございました。
もっと、もっと多くの前を向いている方々に会っていきたい。
そう思います。

けもの道をいこう。

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いのししさんの連載はこちらから御覧ください。
元受刑者の実生活・受刑者支援 : BIG ISSUE ONLINE

提供:けもの道をいこう




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