住宅政策から居住政策へ:セーフティネットから予防的連携・連動の方策へ

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公的住宅保障の確立を:必要かつ必然。社会の安定、福祉コスト抑制に効果

住宅供給を市場経済にゆだねるのか、あるいは公的に推進するのかは、これまでも、住宅政策のあり方に関する基本的な争点となってきた。現実には、すべての人々が市場で住まいを確保できるという社会は存在しないし、政府がすべての住宅供給をコントロールするという社会も存在したことがない。政府と市場の役割をどのように組み合わせるのかが問題になる。

しかし、まず、重要なのは、住宅の公的保障の必要に関する理念の確立である。日本では、市場での住宅確保が困難な人たちがさらに増大すると予測される。人口は超高齢化し、経済は不安定なままで推移する。雇用と所得の安全性が回復する見込みは乏しい。家族世帯は減少し、より低所得の単身・母子世帯などが増える。社会・経済条件のこうした変動のもとでは、公的住宅保障の対象範囲の拡大が必要かつ必然になる。

住宅政策のための財政支出に社会的な合意が得られるかどうか、という問題がある。しかし、その投資が社会安定を支え、社会保障・福祉などのコストの増大を抑制する効果をもつ点をみる必要がある。住宅供給をもっぱら市場にゆだねる方針は、住む場所を得られない人びとを増やし、そこから増大する貧困は、膨大な対策コストを社会に要求する。この文脈において、これからの脱成長・超高齢社会では、住宅の公的保障を充実する政策は高い合理性をもつ。

(平山)

住宅政策から居住政策へ :セーフティネットから予防的連携・連動の方策へ

非正規雇用者や単身世帯、低所得高齢者等の居住不安定層の増加が予想される中、市場からこぼれ落ちる人たちを「住宅セーフティネット」で救う、だけでは量的に限界があり、予防の観点から、様々な施策と関係付けた総合的な政策体系としていくことが必要と考えられる。

そもそも安定した住生活を実現するためには、支払い能力に応じた適正な住居費負担で、モノとして居住空間の基本的な質が担保され、安心して暮らすことができる社会的な関係が備わっていることが求められる。また、そうした居住を確保する際、年齢や世帯構成、職業などによる入居の差別がない公正な市場が形成されていることが前提条件となる。

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これらの条件を満たす住宅政策を実現するためには多くの課題がある。例えば、適正な住居費の負担を追及するには、まず、それぞれの家計条件にとって適正といえる住居費負担(率)を明らかにすること、その住宅が当該居住世帯に適合した基本的な質を有しているかどうか、その家賃が住宅の質に対し適正であるかどうかなどを判断するための尺度や計測する仕組みがあること、医療・福祉施策やまちづくり・コミュニティ施策と連携・連動していることなどが求められる。

住生活基本法制定後、様々な市場施策や連携施策が生まれているが、これらを今一度、住生活の安定という観点から検討する必要がある。とくに、普遍的住宅手当などを円滑に機能させるためには、これまで住宅政策の中で見落とされていた「モノ:居住空間の質」「ヒト:社会的関係」「カネ:住居費負担」の相互の関係性を重視し、上記のような周辺システムを整備していくことが求められる。

そのためには、国や都道府県などが主導する広域対応の市場政策と、基礎自治体(市区町村)による日常生活上の課題に対応した部局横断型の連携施策を組み合わせ、居住政策として一体的に取り組んでいくことが望まれる。

(佐藤)

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