パネルディスカッション:適切な支援を届けるためには?
スマイルスタイル塩山さん:こんばんは。スマイルスタイルの塩山と申します。大阪で活動しておりますが、自分自身もひきこもりをする中で考えることがありまして、もっと働き方のあり方が改善できるのではないかと考えて、今では民間のハローワークのような場所を作って就労支援などをやっています。石巻カフェというところでは、高校生のうちから働くことに向き合うプログラムを展開しています。
時間が非常にタイトですが、皆さんと一緒に考えられる場になればいいなと思っています。
今回のテーマですが、若者支援に関わる方々に読んでいただきたいと思って、「社会的不利・困難を抱える若者応援プログラム集」というものを作っています。こういったものをどうやって広げていくか。
例えば、成人式の日に配るようにしないといけないんじゃないか、成人式で配っても捨てられるじゃないかとか、試行錯誤しています。伊藤さんのお話を聴いて思ったのですが、お話の中にマーケティングの手法というものがありましたが、我々のような活動を人に届けていくには、何をするのが良いと思いますか?
伊藤:そうですね。誰にターゲットを置くかというのを、細かく設定していく必要があると思います。私でしたら10〜20代の自殺リスクが高い人を想定しています。どういう言葉を紡ぐかということを考えたとき、40代がターゲットだったら、10代とは言葉が変わっていきます。アウトリーチはターゲットの緻密な行動パターンをもとに設計していく必要があると考えます。私は今は1つしかサイトをやっていませんが、10個、20個も作っていきたいと思っています。虐待を受けている人とは、また言葉は変わってきますから。
塩山:例えば、今回の「若者応援プログラム集」は包括的ですが、これをどのように届けていくといいと考えますか?
伊藤:若いホームレスにリーチするとしたら何を考えるかですが、彼らが起きて寝るまで、どのような行動をとるかをリサーチしてから、どこにアウトリーチできるかを逆算して設計すると思います。
滝口:今の伊藤さんのお話にまったく同感で、第一弾としてどういう情報があるかを把握するためには意味がありますが、これをそのまま差し出されても正直、届かないと思います。「無業の若者」、「野宿の若者」というように、これをターゲットに合わせて再編集したうえで発信していく必要があるかな、と思います。
「若者リアル」は支援者向けの冊子ということで作りました。大学のゼミで使うことを考えて作りましたが、高校や中学校でも使いたいと話がきて、高校版、中学生版を作ることにしました。中学生の場合はチラシにしましたが、誰に届けるかで媒体の形も変わっていくのではないでしょうか。
支援団体の連携可能性
瀬名波:ホームレスの問題は色々な問題と地続きで、ホームレスであること自体が単体で問題というよりは、そこに至るまでに学校教育の中で排除されてきたなど社会的排除の結果がホームレス状態だとすれば、社会的困難を抱える若者に向けてというのは広くて分かりにくさもありますが、私たちはそこから出発していくしかないと考えています。
色々な方の発表を聞きながら、インターネットの持つ可能性は大きいことに改めて気づかされました。情報を届けたい当事者に向けて内容を細分化するというのは、紙媒体では難しくてもネットであれば検索の項目一つで可能になります。また、見えない当事者に情報を届けたいと思ったときに、1つの団体がリーチできるところは限られているとも思いました。
ビッグイシューからは見えていない当事者でも、例えばOVAの伊藤さんからは見えているというケースもたくさんあると思うんです。自分の近くには見えている当事者がいるので、そこは団体間のつながりを活用して、情報を届けるためにそれぞれの「当事者」を重ね合わせていくということが必要になっていくと思います。
塩山:ネットワークもそうですが、様々な団体が見えているソリューションとかコンテンツがあって、ビッグイシューさんが持っているメディアと組み合わせていくということですね。では、実際にどういったことができるのか、というのが疑問に感じました。
鈴木:…流れ的に、ここで僕にパスが来るのかという気がしました(笑)。どういったことができるか、という質問ですが、自分が発表させていただいた事例でいうと、まさに団体同士で連携することだったり、アウトリーチした後においてはネットワークが重要になってくると思うんですね。
常に連携が必要と言われてきましたが、その障壁は調整コストだと思っています。一人の支援者を多角的に見たときに、調整しないとリーチの手順、リーチ後の手当の手順が見えてこないので、何ができるかというときに、調整コストを協同で調達するか、調整コストをどう下げるかは、連携の肝だと思います。
中村:私たちは一つのプロジェクトを4団体で連携してやっていますが、関連の団体から紹介されているケースもあります。プロジェクトとは別の地域のネットワークでいえば、今食べるものがない、今泊まるところがない、今すぐ動いてほしいというニーズに応えている団体なので、ネットワークを組むときのある種の恐怖感があります。
相談援助のようなものは増えていますが、今すぐ受け入れてくれる団体は増えている感じがしなくて、ネットワーク事業が膨らんでいくと同時に実働の部隊も増えていかないと辛いな、というのはあります。
塩山:当事者に届けていく前に、そもそもネットワークをどう作っていくか、という議論はありますね。伊藤さんはどういったネットワークをつないでいくことができると考えますか?
伊藤:私はどうしてもネットのことを考えてしまいます。僕は、社会資源のプラットフォームのようなものがあればいいなと思ったんです。どういった社会資源が利用できるのかについては、フォーマル、インフォーマルに、Wikipediaのような自動アップデートされるようなものを作らないといけないな、と考えています。各団体が勝手にアップデートしていくようなイメージですね。
各団体が感じる、アウトリーチの課題
瀬名波:先ほど、夜回りや炊き出しという活動は、路上にいる方しかアウトリーチできないという話がありました。日本の定義では路上生活者をしている人がホームレスと言うことになっていますが、路上にはいないけれど家を失っている人たちも多くいるので、そういう方たちにどのようにリーチすればいいかということは私たちも課題だと思っています。
今日はそれぞれのアウトリーチ活動の中で、どういったところの課題を感じているかをお伺いしたいです。また、その課題に対してどのような打ち手を考えているかどうかを伺わせてください。
中村:先ほど課題として、広い意味でのホームレスということで、ファーストフード店やネットカフェにいらっしゃる方については、伊藤さんがやっているような事業は可能性があると心強く感じました。よかったと、勝手に思ってしまいました(笑)
色々な方がいらっしゃるので、アウトリーチをするという意味では、多角的に可能性があると思いました。アウトリーチを広げたときにキャッチできるバックヤードを開拓していかないといけないので、そのバランスを見ながらやっていく必要がありますね。若い人たちが家出したい、家出してきちゃいましたという子たちもいて、そういった方々へのノウハウはないので連携できればと思っています。
塩山:Wikipediaの話は面白いですね。ひとつのものをみんなで書き込んで、当事者に届いていくというのが次の展開としてありえると思います。さらなる発展やコラボレーションについてのアイデアはありますか?
鈴木:これまでの議論を聞いていて、調整は進むけど実行のところがないと進まないというところで感じたものですと、1人の人件費をどうつくるかが大切だと思うんですね。ウェブ上で情報が集約される、情報だけでは絵に描いた餅で、その情報を元に人と人が出会っていく、かつ、地域資源の穴があって、それを埋めるためにアドボカシーをしていくということが必要だと思います。プラス1人の人件費というものが、アウトリーチをより充実したものにする鍵だと思います。
私は今現場をほぼ持っていなくて、自分の人件費を色々な人からかき集めています。自分で言うのもなんですが、これは努力の賜物です(笑)まだ仕組みにはなっていないんですが…努力の賜物ではなく、仕組みにしていくかを考えないといけません。
伊藤:私の活動でも、相談員を作っていくというところはお金にできないので、どのようにしてファンドレイジングしていくかというのは大きな課題ですね。
塩山:…さて、色々な話が出ましたが、どうまとめていきましょうか。
(会場笑)
伊藤:アウトリーチの課題という話があったので、私が感じている課題についてお話させてください。アウトリーチをしていますが困ったことがあって、数百件やりとりをしている人がいます。
そういった人たちは自殺リスクが低いということで、私のアウトリーチが失敗したということなんです。「楽に死ねる方法」「確実に死ねる方法」という検索で来た人が、どっちがリスクが高いか、危ないかという話ですね。私は1人でやっているので、リスクが高い方からやっていかないといけないので、キーワード選出というところが課題になっています。
滝口:自分たちの場合は直接的なアウトリーチではないので、中間的な場のテーマをどこまで多彩にしていくか、ですね。自分たちだけでやってもしょうがないので、ここにいらっしゃる方々、地域の方々と一緒にやっていく場をつくっていきたいです。
塩山:皆様、ありがとうございました。では、パネルディスカッションを終えて、つづいてグループワークに移りたいと思います。
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