2月25日・26日に大阪府豊中市でひきこもりにかかわるイベント「若者当事者全国集会」が開催されました。

「ひきこもりの当事者を中心に、その家族・支援者・関心のある人が<全国から>集まる」という珍しい機会に、ビッグイシューオンライン編集部も参加させていただきました。

第1部のひきこもり当事者がかかわる各団体の発表から聞きどころのレポートと、団体の活動を紹介していきます。

ひきこもりに関する当事者や支援者には、これから参加する活動の参考になれば幸いです。
また、ひきこもり状態の人が周りにいないという人も、発表者や発表団体のその活動のバラエティの豊かさ・アプローチのユニークさは、自分の人生を豊かにするヒントになるかもしれません。

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(撮影:宮武 将大)



「画一的な就労支援はワーキングプアの再生産」!?

本イベントは豊中市との協働主催ということで、豊中市副市長の田中氏が挨拶。

これまで豊中市は全国的にも先駆けて生活保護を受けている方の就労支援に力を入れてきました。
しかし、ある大学の研究者がこうした就労支援の追跡調査をしたところ、その内実は多くの場合、非正規雇用で低賃金だったという結果が出ていました。
当時の関係者はいわゆるワーキングプアを再生産したことになるのか?と辛い思いをしました。

副市長は続けて、「生きづらさはいろいろな要因で生まれるので、それにあわせて多様なつながり、多様な出口がないといけない」「生きづらい世の中で、自分をいかにゆっくり開いてつながっていくかが大切」「行政支援だけでは足りないので、当事者の全国集会を機にみなさんの声を聴くことから始まると思っています。」等、自治体という「当事者」として、自省のエピソードも交えながら話をされました。
「当事者・支援者・家族と行政が力を合わせてやれることがある、今日というイベントがそのきっかけになれば…」と、このユニークなイベントに期待を込めている様子がうかがえるスピーチでした。

「ひきこもりの人にはとにかく就労支援をして、就職させればいい」と思われがちですが、それがいかに画一的で乱暴な考え方であるのか、ということをまずは知る必要があります。

そして、画一的でもない、乱暴でもない活動をする人々が全国にいます。
このイベントの第1部は、そんなバラエティ豊かな人々、団体の発表で始まりました。

■第1部-Part1
  • 「自分の困っていることを研究する」一ノ瀬かおるさん:NPOそーね(大阪)
  • 「過疎地域で必要とされる体験をする」藤井裕也さん:NPO法人山村エンタープライズ(岡山)
  • 「完全な失敗などない」中村友紀さん:NPO法人どりぃむスイッチ(広島)
  • 「支援でも居場所でもない活動」古豊慶彦さん:不登校・ひきこもり情報誌「今日も私は生きてます。」編集部(長崎)


「自分の困っていることを研究する」一ノ瀬かおるさん:NPOそーね(大阪)

「NPOそーね」は、集まった「当事者」が、自分や自分をとりまくつながりについて、一旦立ち止まってながめ、共に考え、研究していく場を月2回程度不定期で提供されています。

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(「NPOそーね」の一ノ瀬さん(写真右))

当事者研究とは、困っている本人が、専門家ではなく、自分自身の困りごとを研究することだそうです。困っていることをみんなに共有(=「弱さの情報公開」と呼ばれていました)し、そして自分自身の言葉で、「自分のトリセツ」を作ることで、自分も周囲も何に困っているのかということがわかってきて楽になる…という効果があるそうです。
「当事者研究」は、ちゃぶ台のまわりに座り、お菓子食べながらやっています。
ゴロゴロしてもいいし、途中でトイレに行ってもいいような雰囲気の会です。
ひきこもっている本人など、実際の当事者が集まって、自分たちについての研究を専門家ではなく、自分たちで研究していきます。

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(「NPOそーね」ホームページより)

公式なルールから外れているというだけで悪いみたいな風潮がありますが、外れずにすんでいる人がそう決めているだけで、隠れている人同士で集まったら「みんな同じやん、ははは」と笑えます。

生きづらいと思う人が、集まりその生きづらさについて「楽しそうだね」、「研究しよう」と話し合っています。
自分を自分で説明できるいい言葉ができてきています。
困りごとが目の前に来た時に「研究しようか」「研究しよう」という「態度」を一度インストールすると、それだけで変わりますよ。
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NPOそーね
大阪府豊中市曽根東町1-11-51練心庵2F
renshinan.sone@gmail.com
https://npo-sone.jimdo.com/

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「楽しいことを一緒に。地域の最前線で必要とされる体験を」藤井裕也さん:NPO法人山村エンタープライズ(岡山)

山村エンタープライズは岡山県美作市を拠点に、すべての若者たちが可能性を発揮できる社会の実現に向けて様々なプロジェクトを企画、運営しています。

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(NPO法人山村エンタープライズの藤井さん)

もともとは国の事業の地域おこし協力隊だったという代表の藤井さん。

梶並地区の田舎で、荒廃地の再生、空き家改修、商品開発、木工クラフトで商品化したり、婚活事業をしたりと、ひきこもりとは縁のない活動をされていたそう。

活動のなかで、空き家がたくさんあることを受けてシェアハウスを始めたところ、いろんな人が集まり始めました。そのなかにいた、ひきこもり経験のある青年からの提案をきっかけに「人おこし」の活動が始まりました。

すると、これまでどこにも行き場がなかった人達がどんどん集まってきました。
地域の中で居場所を見つけ、独居のおばあちゃんのおうちにお邪魔してお茶したり、おじいちゃんに頼まれて川の清掃のバイトをしたりするうちに、介護職ということで週5働けるようになった人もいるそうです。

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(「NPO法人山村エンタープライズ」ホームページより)
必要とされていないのではないんです。
地域の人はひとを必要としているから、必要とされる体験をしてほしいと思っています。
過疎地、離島は日本の最前線(フロンティア)です。
一緒にこの地方を盛り上げる活動をしてもらえたらと思っています!
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NPO法人山村エンタープライズ
〒707-0012
岡山県 美作市 田殿 2921
0868-73-0020
sanson.asia@gmail.com
http://sanson.asia/


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「完全な失敗などない」中村友紀さん:NPO法人どりぃむスイッチ(広島)

NPO法人どりぃむスイッチの中村さんは、当事者の親であり、サポートステーションでの支援者。ご本人は「ADHD気味の大人で、周囲に助けられながらやっています」と言いながらお話を始められました。

お二人のお子さんがいますが、2番目のお子さんが中3で不登校になり、高校は5日間ほどで行けなくなり、やがて退学しました。「親としてどうしていいかわからず、不安でしょうがなかった」と当時を振り返ります。

お子さんと向き合うヒントを探しているなかで、福山市で開催されていた社会体験プログラムでいろいろな年代の人に会い、パソコンの勉強をしているうちに、ITスキルアップ支援を中心とした活動ができれば…と思ってNPO法人化をされたそう。その後、県の仕事を受託するなどの活動をしているうちに、無料のサポートステーションの拠点が地元になかったことを受けて、行政に働きかけて福山にも2年前にサポートステーションが開設されたとのこと。

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(NPO法人どりぃむスイッチの中村さん)
子どもの不登校がなければ、心理学を勉強しようと思うことも、カウンセラーをすることもなかったと思います。
子どものことがなければここでみなさんとも出会えなかったし、あたたかいつながりがたくさんできたと思います。
絶対正しいこと、間違っていること、完全な失敗もないと思います。それぞれに意味があると思っています。
相談にいらっしゃった方がよく「次は失敗したくない」と言いますが、それぞれに何かの意味があって、大切なんじゃないかなと思います。
ただ、次に何か辛い思いをしたときには一緒にそれを受け止めたいと思っています。
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(子ども若者協議会で当事者からのメッセージ展をしたときの当事者からのメッセージ)

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NPO法人どりぃむスイッチ
〒720-0067
広島県福山市西町1-1-1 エフピコRiM9階
Tel:084-971-4865
http://dreamswitch.or.jp/

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「支援でも居場所でもない活動」古豊慶彦さん:不登校・ひきこもり情報誌「今日も私は生きてます。」編集部(長崎)

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(不登校・ひきこもり情報誌「今日も私は生きてます。」編集部の古豊さん)

29歳の古豊さんは、中・高で不登校の経験があります。
現在は週に2回アルバイトをしながら、不登校にかかわるようなことが仕事にならないかと個人的に下記のような活動をしているのだそう。

・不登校・ひきこもり親の会のスタッフ
・不登校・ひきこもりの子たちの居場所のスタッフ
・情報誌「今日も私は生きています。」の活動
・家にいる子どもたちの訪問の活動

このイベントでは古豊さんの活動なかから、情報誌「今日も私は生きています。」の活動を紹介されました。これは不登校・ひきこもり経験者で集まって、不登校・ひきこもりの当事者、経験者に向けた発行物をつくる活動です。
「情報誌の活動というのは不登校やひきこもりの支援の活動とは違い、居場所の機能とも違うと思っています」と古豊さん。

(編集部の様子:動画)

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(情報誌「今日も私は生きています。」 Facebookページより)
この情報誌は、利益が出せるかというと難しいけれど、利益を追い求めていくのも本質とは違うと思うので、それは諦めています。
それぞれの不安、苦しい、きつい、という瞬間にやってることは、本当に多様です。
自分がつらいときに、情報誌に載ってる人のやり方を試してみようと思ってもらえたらと思います。
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不登校・ひきこもり情報誌「今日も私は生きてます。」編集部(長崎)
https://www.facebook.com/kyoumowatashiha/?fref=ts



*第1部ーPart2のイベントレポート「ひきこもり経験者たちだからこそ拓くことのできる、つながり~ひきこもりの全国集会より(2)~」はこちら。

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