日本には現在、推計154万人のひきこもり状態の人がいるということを、2月15日発売のビッグイシュー日本版305号の特集でお伝えした。

ひきこもり状態の人の周囲にいる家族や支援団体などは、「ひきこもり親の会」や「支援団体の会」などを各地または全国集会を開催し、つながりづくりや情報交換などを行ってきた。
それに対し、当事者本人たちが集う機会は、同一エリアなど地域が限られることが多い。
そのなかで2月25日、26日に大阪府豊中市でひきこもりにかかわる「若者当事者全国集会」が開催されるという。


2日間にわたる4部構成のプログラムを見ると、豊中市と元当事者による団体や若者当事者全国集会実行委員会が企画・運営、そして第1・4部は、内閣府平成28年度「子ども・若者支援地域ネットワーク強化推進事業」として実施とある。
具体的には下記のような日程だ。
第一部:活動紹介 2月25日(土曜)午後1時から午後7時
第二部:懇親会  2月25日(土曜)午後8時から午後10時
第三部:夜通し交流会 2月25日(土曜)午後10時から翌午前8時
第四部:シンポジウム 2月26日(日曜)午前10時から正午
自治体や国が関わるイベントで、第二部、第三部は夜から朝にかけての徹夜イベントというのは珍しい。なぜこのような構成にしたのか、それになぜ「当事者」の「全国集会」を大阪府豊中市で行うことになったのか、主催4団体のうちのNPO法人ウィークタイの代表、泉さんに話を聞いた。

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(本人提供写真、撮影:木村ナオヒロ)


「当事者集会」を開催したいと思った理由は、「当事者はそれぞれ、違うから」

支援について、支援者側の評価と、当事者側の評価が異なるということがあるということを知ってもらいたかったんです。支援者側から見て"いい支援"とされていても、当事者によってはそうでないこともある。当事者は「当事者」というくくりではなく、それぞれ異なる存在なんです。ひきこもりから卒業しても「元当事者」と言われることも多く、当事者で語り合うという交流をしたかったんです。
それで、去年、神戸で活動されているNPO法人グローバル・シップス こうべの森下さんに相談をしたら、やりましょう、ということになったんです。
去年の3月に、「つなぐ。むすぶ。広げる。当事者研究大会#1」という当事者の集まるイベントを開催して、今回は2回目となる形です。

豊中の市職員が、当事者活動に関心を持ってくれる人たちだった

僕は大阪出身ですが、いろいろあって富良野→高知と移住していて、次にどこに住もうかな、と思っていた時に、今度のイベント会場である豊中市の「コラボ」という施設の館長と出会って、豊中に住みたいと思ったのがきっかけです。

それまで自分は当事者が集う会を開催するのに、「だらだら集会」というイベントを開催していました。ただ、公民館などの施設を借りるときに「ひきこもりの人が集まるイベントです」「だらだら集会というイベントをします」というと、たいていの担当の方からは不審がられるんですよね。(苦笑)

でも、当時の公民館の担当だった田中さんは違っていて、興味津々に話を聞いてくれたどころか、「自分もその会に行っていいのか」などと前のめりで話を聞いてくれたんです。そんな人は初めてでした。その後も、何かと声をかけて誘ってくれたり。否定せず話を聞いてくれ、関心を持ってくれて、行動までしてくれる人がいることに、本当に驚きました。

さらに、田中さんが「豊中市には若者支援ですごくパワフルな人がいるんだ」といって、僕を豊中市の「生活情報センターくらし館」という施設の杉山さんという方に引き合わせてくれました。杉山さんもしっかり話を聞いてくれる方で、当事者の集まる、食事作りのイベントにもボランティアで来てくれたりと、いろいろ気にかけてくださって。

当事者に対して、そのとき理解がなくても、興味があったり、理解したいと言ってくれたりすることがとてもうれしいことなんだと思いました。
それでいい人たちがいるなーと思って、豊中市に住もう、と思ったんです。

そして当事者が語らう場をやりたいという内容で、「とよなか夢基金」という市民公益活動助成金に申請をしたら無事に通りました。そしてたまたま豊中市が“内閣府平成28年度「子ども・若者支援地域ネットワーク強化推進事業”をすることにもともとなっていたところに、今回の企画がうまくマッチして、当事者支援団体と、豊中市が共同で開催することになったんです。

真夜中の第二部・第三部をやりたかったのは、「つらい夜」の記憶から

僕がひきこもっていた時、夜中はつらい時間でした。
「まんじりともせず」という表現がぴったりで、布団に入っても眠れない、気持ちがしんどい…という、つらい時間だったんです。
そして、朝日が昇って、空が白んできたときに、疲れと安堵でようやく眠れる…という状態だったんですね。その「つらい夜の時間」が、大学に通えるようになったときに、友達と夜通し語って遊んで楽しい時間になったんです。 同じ夜の時間なのに、ぜんぜん違う。楽しい夜の記憶があれば、しんどい夜も、少し思い出すことでマシにならないかな…と思って企画しました。
これは人それぞれなので、僕のエゴなんですけどね。

もちろん、徹夜のイベントをやりたいと市に話した時は、「騒ぐと近隣に迷惑」とか、「昼の部と夜の部の会場は離れているから迷ってしまうんじゃないか」など、いろんなリスクを心配されました。

でも、たとえば「大人が2日間研修の間、夜は懇親会をします」と言ったときに、「騒ぐだろうからやめなさい」とか「迷子になるからやめなさい」なんて言わないでしょう?
当事者は赤ちゃんじゃないんだから、ちゃんと説明すればそれくらいのことはわかるってことを担当の方に訴えたんです。
そうしたら「わかった、じゃあ責任者の前でそのことを言ってみなよ」と部長の前に連れていってくださって、いかに当事者にとって夜の部が大事なのかということを力説しました。すると、ご理解いただいて、「じゃあ会場を探そう」と話が動き始めました。それで、全体は「豊中市と元当事者による団体や若者当事者全国集会実行委員会が企画・運営」、そして第1・4部は、内閣府平成28年度「子ども・若者支援地域ネットワーク強化推進事業」という形に落ち着いたんです。

イベントの企画運営をしていて大変なこと

僕が「こういうイベントをやりたい」とグローバル・シップスこうべの森下さんに相談したとき、森下さんは「(僕が)イベント運営経験があるんだろうな」と思って「いいよ」と言ってくれたんです。でもじつは僕はイベントの運営経験があまりないんです。周囲はいろいろ段取りしなければ…と焦っているのですが、僕がそこまで焦らないので、一緒に主催している森下さんがいろんな調整や連絡を引き受けてくださっていて、それは本当に申し訳ないな、と思っています。

あとは、何かやったことがないことを誰かと一緒に成すときに、価値観の相違が浮き彫りになりますよね。それまでは同じほうを見ているつもりだったけれど、あ、案外価値基準のモノサシが違ったんだ、とか。

もともと僕らは、「わかってもらえないならそれでいい、関わり合わない」というスタンスで活動してきました。でも人の協力を得て何かをしようと思った時にはそうはいかないので、異なる価値観をすり合わせするというのは大変なことなのだなあ、と思います。

でも、「経験のないことをしない」というのは、安定はするけど、そこから動けない。
当事者が「つながる」イベントで、「つながり」「接触した感じ」を持ってもらえたら…と思う気持ちで企画したので、いま、頑張って準備しています。

当事者も、当日、外に出て、たくさんの人と接触するときに失敗することも傷つくこともあるかもしれないけれど、それでいいと思うんです。
人と人がつながるということは、そういうものだから。いろんな人がいるように、いろんな当事者がいる。僕らは誰も排除したくないんです。そして僕らは誰のことも攻撃しません。そんな中から僕自身も含めて何かのきっかけが得られたなら幸いです。


*泉さんプロフィール
1987年大阪生まれ。中・大学時代に2度のひきこもりを経験。
現在は大学で知り合った女性と結婚し、NPO法人ウィークタイ代表を務める。

若者当事者全国集会

―ひきこもってた当事者、経験者、豊中で集まろう!.
2017年2月25ー26日(2日間)
メイン会場:千里文化センター「コラボ」(大阪府豊中市)
 サブ会場:上新田会館(大阪府豊中市)
事前の参加申し込み制(空きがあった場合当日参加可)
参加費:無料
対象:当事者・経験者、家族、支援者、一般の方等関心をお持ちの方
当日は第1部・4部の様子が下記サイトでライブ配信される予定です。
https://www.wakamono.info/


*当日は、ビッグイシュー日本版305号にも登場した「ひきこもり新聞」の木村ナオヒロさんも登壇します。
*当日は会場でビッグイシュー日本版を販売予定です。

▼泉さんに「ひきこもったきっかけとひきこもりから出てきたきっかけ」もインタビューしています。
ひきこもり・不登校経験者2人にインタビュー。ひきこもったきっかけと、ひきこもり状態から出てきたきっかけ

▼イベントレポートはこちらから
“画一的な就労支援はワーキングプアの再生産”? 当事者主体のこの活動の豊かさを見よ~ひきこもりの全国集会より(1)~


305号は「出(しゅつ)ひきこもり」の特集です。
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あわせて読みたい、「ひきこもり」「就労支援」関連バックナンバー

299号:ガールズサポートのいま
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当事者や経験者が集う「ひきこもり女子会」のインタビューを掲載。
https://www.bigissue.jp/backnumber/bn299.html



217号・対話の時代へ ― わかりあえないことから始まるコミュニケーション
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https://www.bigissue.jp/backnumber/bn217.html


208号・わかもの包摂 ― 若者就労支援の最前線
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https://www.bigissue.jp/backnumber/bn208.html


ビッグイシュー日本版は、バックナンバーのみ3冊以上でしたら通信販売も可能です。


関連リンク

全国の「ひきこもり」当事者とその家族・周囲の人に贈る特集
http://bigissue-online.jp/archives/1064384354.html






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