ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで講義をさせていただくことがあります。

今回は大阪大学・豊中キャンパスへ。国際教養の「平和の探求」の授業を担当されている長野先生にお招きいただき、ビッグイシュー日本・ビッグイシュー基金のスタッフ、インターン、そして販売者の羽根(はね)さんがお邪魔しました。

今回「平和の探求」の授業へ私たちを招いてくださった長野先生は、理学の先生。熱力学が専門だといいます。

スタッフと先生とのミーティングの際に、スタッフが「“熱力学”と“平和”って、関係あるんですか?」と先生に質問したところ、「同じことですよ」との回答(!)。

先生の説明によると、社会が安定的に運営されようとすると、そこには自然に効率化を求める組織が生まれ、自動的に階層化するそう。それは熱力学も熱の効率の学問ということで、平和と熱力学を一緒に考えることは何ら違和感がないそうなのです。(興味のある方は、長野先生の教育実践レポート「エントロピーが支配する世界」(PDF)をご覧ください。)

★1先生
熱く語る長野先生

ただし、その階層化、効率化が行き過ぎると、人間社会でいうと環境問題や雇用問題など、何かしら持続可能性に欠けたものになってゆき、「平和」「安定」の状態ではなくなるそう。「効率化」を突き詰めた先には、最終的には破綻が待ち受けている…というのは歴史が繰り返してきたことなので、平和な状態を維持しつつ、破綻しないような「多様性」の芽を育てていかなければならない…ということでした。

平和と熱力学を一緒に考える機会がこれまでなかったので、スタッフ一同興味深くお話をお伺いしてしまい、このお話だけで1時間くらいあっという間に経ってしまいそうでした。

ビッグイシューは社会が破綻したときに、次の平和を生み出す「多様性の芽」です。
いわば"社会の最先端"です。頑張ってくださいよ!

と力強く発破をかけられました。頑張ります!

――

さて、そして今回の授業でも、冒頭に「ビッグイシューを知ってる人?」と聞くと70人ほどいた学生さんの半分くらいが挙手。実際に買ったことがあるのは3~4人くらいとのことで、事業の理解のために、過去にビッグイシューがニュースで取り上げられたテレビ番組の映像を視聴しました。

★視聴

映像のなかで、ビッグイシューはホームレス状態のひとだけが販売できる雑誌であること、350円のうち180円が販売者の収入になること、ホームレスの自立を応援する事業であること、雑誌は世界各国のストリートペーパーのネットワークで記事を共有し合っていることなどの説明に加えて、映像の後半では販売者が登場し、ホームレスになった経緯や販売のこと、卒業後の目標などが説明されました。

実際にビッグイシュー販売者が販売したり、話したりする映像に引き込まれている様子です。

「格差社会」は何が悪い?

映像の視聴後、スタッフから、ビッグイシューの事業の説明に続いて最近よく話題になる「格差社会」の話をさせていただきました。
貧困が進むとどうなるのでしょう?
社会に貧困が広がると、貧困でない層から貧困層への排除が進みます。
逆にお金持ちはさらにお金持ちになり、たくさんの層が縦にどんどん長くなります。
それが格差社会です。

格差社会では、相手を蹴落として上の層に這い上がらないといけないので、各層ごとに熾烈な競争が行われます。「過度な競争」はお互いの信頼を失わせ、どの層においても大きなストレスがかかります。
★格差
つまり、貧困層だけでなく、お金持ちの層においても大きなストレスがかかる社会となるのです。
実際に世界中の格差を研究したイギリスの経済学者のウィルキンソンは『格差社会の衝撃―不健康な格差社会を健康にする法』という著書で、 格差が大きい社会ほど
・健康水準が低い
・暴力的
・社会的結束力が弱い
・10代の妊娠が多い
・肥満率が高い
・囚人数や殺人事件も多い
といった状況が見られたと言っています。
★格差社会の衝撃    
ホームレス問題や貧困問題についても、目の前の困っている人を支援するのはもちろん大事ですが、貧困問題と自分とのつながりをよく理解し、その先にある社会像を見据えることも非常に大事だと思います。

ビッグイシューは、そのために包摂的な社会を目指して活動していると説明させていただきました。

販売者の羽根さんが、“ホームレス”になった日の話

次に今回の授業の目玉、大阪梅田阪急百貨店前販売者の羽根さんのお話です。
羽根さんは3カ月前までは、実家に暮らしつつ警備員の仕事をしていたと言います。
まさか自分がホームレスになるとは、3カ月前には思いもしなかったそう。

★トーク


そんな羽根さんが、以前の仕事を辞めて家を出ることになった経緯や、お金が尽きて残金41円で西成に辿りついた雨の日、日雇い仕事を紹介してくれるあいりん労働福祉センターが閉まっていて路上で初めて夜を明かしたときの気持ち、初めての炊き出しで「何もしてこなかった自分に、親切に食事を提供してくれる人がいることに泣いてしまった」話など、「ここでしか聞けない話」をたくさんしてくれました。

ホームレス状態の人が話すのを聞くのは初めての学生さんが多かったのでしょう、みなさん集中して話を聞いてくれています。

「販売をしていてうれしいことは、売り始めて2カ月ほどで常連さんがついて、差し入れをしてくれたり、声をかけてくれたり、何かと気にかけてくれることですね」

「販売をする際に気を付けているのは胸を張って堂々とすること。元気よく呼びかけること」という羽根さんは、元来明るくて、サービス精神が旺盛。冗談を交えながらのお話しに、時々学生さんから笑いが出てくるほど。「僕を応援してくれてよかったな、と思ってくれる結果を見せたい」と力を込めて話していました。

スタッフから学生さんへメッセージをどうぞ、と促されると、このようなメッセージを贈っていました。
つらいことがあっても、“待てば海路の日和あり”と言います。 僕も毎朝起きるたびに、夜が心配な日が続いて、今はかなりつらい時期ではあります。 でも、自分の力でやり遂げなければならないこともあるし、自分の信じた努力をするしかないです。頑張れと言ってくれる人に対して、失礼しないようにしたいですね。
と言った後、思い出したように
僕みたいに、親不孝しないでね。お父さん、お母さんに感謝してくださいね。
とメッセージを伝えていました。 羽根さんの明るいトークは学生さんの心に届いたようで、授業後のアンケートでも羽根さんのパートがよかった、ホームレスの人のイメージが変わった、という回答が多く見られました。

★アンケ1
{「ホームレス」の人のイメージがガラリと変わりました。明るくこれからの生活に希望を持って努力していることが素敵だなあと思いました。頑張ってください。}


★アンケ2
{羽根さんのお話は自分にとって全く新しいものであり、自然と聞き入ってしまいました。 街角でBIG ISSUEを見つけてみたいと思いました。}
(ありがとうございます!ビッグイシューの販売場所はこちらです。お待ちしております。)


ワーキングプアって何?ビッグイシューを読んだ学生さんの感想

そして今回も「6分間リーディング」の時間を持ちました。学生さんに一人1冊のビッグイシューを選んでもらい、特集を6分間集中して読み込んでもらいます。その後ビッグイシューを読んだ感想をグループでシェアしてもらいました。

★リーディング


   

紙の雑誌を読み慣れていない学生さんが大半でしたが、薄くても内容がぎっしりのビッグイシュー。

313号の特集「壊される“まともな働き方”」を読んだ学生さんからは
労働者どうしが反目し合うようになっていることがわかった。社会の問題を我がごととして捉えないといけない。
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といった感想や、 305号の特集「出(しゅつ)ひきこもりー対話へ」を読んだ学生さんからは
司法浪人をしていて、ひきこもりになった人が出てきた。この人はひきこもりの自覚がなかったけれど、実際にはひきこもり状態だったとわかったと言っていた。自分のモノサシで測っていると気づかないことがいっぱい載っていそう。本人の話が載っているのは大事だと思った。
といった感想がシェアされていました。
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 また、「ワーキングプアのことが書かれていて…」と話すグループの中で、別の学生さんが「ワーキングプアって何のこと?」と質問する場面も。
ビッグイシューが、社会課題を考え始めるきっかけとなれば幸いです。

販売者の羽根さんは、
『ビッグイシュー』はスタッフや、全国100人以上の、名前もないと思われている販売者たちの、本気の雑誌です。薄いけど、スポンサーなどの変な圧力もかかっていない、いいものを届けたいという想いの詰まった雑誌なので、ぜひ読んでください。
と訴えていました。

このような内容で90分の講義はあっという間に終わり、ビッグイシューの感想はレポートとして次週までの宿題となっていました。

ビッグイシューの出張講義、承ります

ビッグイシューでは、高校・大学その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。








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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。