2013年に財政破綻した自動車の街デトロイト。一人の大学生のアイディアから生まれた防寒コートが、女性たちに仕事の場を提供し、ホームレス状態から抜け出すチャンスを作っている。


 2010年、デトロイトの芸術大学でプロダクトデザインを学んでいたベロニカ・スコットは、「社会が実際に必要とする製品(プロダクト)を生み出す」という課題を与えられた。彼女の心に浮かんだのは家を失った人々。デトロイト市が行った調査によれば、同市では2016年に1万6千人が自宅を失い、うち2100人がシェルターで、193人が路上で暮らしている。2月のデトロイトの平均最低気温はマイナス6度、風の強い夜間にはマイナス12度を下回ることもある。

 そこで、スコットは寝袋にもなるコートを作ることにした。どんなコートが必要かシェルターで調査を行っていた時、ある女性が言った。「それでホームレスの問題は解決しない。必要なのは仕事であって、コートじゃない」。その言葉を心に刻み、スコットが考え出したのが「エンパワーメント・プラン」。コート製作のためにホームレスの女性を雇い、実地で縫製技術を学んでもらうという計画だった。(本誌315号ではさらに詳しい記事をお読みいただけます)

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縫製を行う従業員の多くは、NPO「COTS」が運営する家族向け緊急シェルターの利用者だ。従業員の半数は、週に2日は高校卒業資格を取るための授業か大学に通い、さらに毎週交互に職業訓練か家計管理のクラスに出席している。そうした授業時間も含めて、週40時間分の給与が支払われる。
Photo: BRIAN KELLY, COURTESY OF THE EMPOWERMENT PLAN.

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The Empwer Planの縫製工場。デトロイトのダウンタウン近くの起業家向け共同オフィス「ポニーライド」の一画にある。事業は順調に拡大しており、将来的にはもっと広い場所に移る計画だ。
PHOTO CREDIT: GUS SCHMIEGE, COURTESY OF THE EMPOWERMENT PLAN.

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寝袋としても使えるEMPERコート。コーデュラ社から提供された防水生地と、ゼネラル・モータース社から提供された自動車用断熱材を再利用。
PHOTO CREDIT: MADDIE TORO, COURTESY OF THE EMPOWERMENT PLAN. 

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足の部分を折りたためば背中が暖かい。
PHOTO CREDIT: MADDIE TORO, COURTESY OF THE EMPOWERMENT PLAN. 

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足の部分は着脱可能。
PHOTO CREDIT: MADDIE TORO, COURTESY OF THE EMPOWERMENT PLAN.

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使わない時は、コンパクトなショルダーバッグに。
PHOTO CREDIT: MADDIE TORO, COURTESY OF THE EMPOWERMENT PLAN.


Danielle Krolewicz/ Denver Voice, www.INSP.ngo)


「The Empowerment Plan」ホームページ

※以上、ビッグイシュー日本版』315号から抜粋した2017/7の記事を加筆・修正しました。






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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

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