南アジア諸国は水資源の確保を巡って、まさに綱渡りの状況にある。この地域では、雨季には洪水が頻発し水の保全どころではないのに、乾季になると干ばつが発生するほどの水不足に見舞われるという厳しい現実がある。関係各国は今すぐ団結し、「水の管理」問題に取り組まなければならない。


国際河川を共同管理する必要性

バングラデシュ、ブータン、中国、インド、ネパールなど南アジア諸国は、長きにわたる水問題を解決し、水の価値をフル活用できるよう国の利害を超えて協力すべきだ。



南アジア地域には、ガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川など国境を越えて多くの河川が流れている。なかでも、バングラデシュは洪水や河岸浸食など深刻な水問題を抱えており、それは近隣諸国の協力が十分に得られないためでもある。

専門家や政策立案者がそう訴えたのは、2017年7月31日にバングラデシュの首都ダッカで開催された国連「水に関するハイレベル・パネル(HLPW)」の第4回審議会でのこと。この審議会には、各国の閣僚、政府高官、民間企業、NGOの代表や開発機関が参加した。

バングラデシュには国境を越えて流れる河川が57もあるが、その集水域の93%は国外に位置する。バングラデシュの水資源大臣モハメッド・ナスルル・イスラムは次のように述べた。

湖の上流域や氷河などの水源を有する一部の国は、水は自分たちのものと考えているが、そもそも水は万人のもの。誰もが同じように利用できるべきです。
また、バングラデシュが長年にわたって直面している水問題にも言及した。
雨季は増水しすぎて、とても管理や保全が追いつかない。しかし、乾季になると一転、深刻な水不足に見舞われるのです。

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バングラデシュのチッタゴンヒルで水場から飲料用の水を汲む現地女性たち
Credit: Rafiqul Islam/IPS


ダッカのシンクタンク「インスティテュート・オブ・ウォーターモデリング(Institute of Water Modelling)」の副所長アブ・サレ・カーンもこれに同調する。
複数の国にまたがって流れる河川を適切に管理し、地域内の水問題に取り組むことが至急必要です。
「適切な管理」とは具体的に、知識やデータの共有、啓発、対話の促進、参加型意思決定や共同投資戦略などを意味する。

南アジアは、地球全体に占める面積はわずか3%だが、世界人口の約25%が暮らしている。人々の主食である米や小麦の生産には大量の水とエネルギーが必要となるが、近年の気候変動、公害、その他の事情により、水資源にはますます大きな負担がかかっているのだ。

水の価値評価(Valuing Water Initiative)の動き

2016年1月、世界銀行グループ総裁ジム・ヨン・キムと当時の国連事務総長パン・ギムンが「水に関するハイレベル・パネル」を開催し、11か国(*1)の政府代表者に向けて、政府、社会、民間企業の水の利用と管理の改革を加速するよう呼びかけた。

*1 : 国連ハイレベル・パネルは、オーストラリア、バングラデシュ、ハンガリー、ヨルダン、モーリシャス*、メキシコ*、オランダ、ペルー、セネガル、南アフリカ共和国、タジキスタンの代表によって構成される。(* 共同議長)

その一環として、この度、地域会合「水の価値評価イニシアチブ(Valuing Water Initiative)」がダッカで開催されたのだ。この会合が目指すのは、意思決定プロセスを見直し、対立する主張をうまく調整し、「水に関する持続可能な開発目標(SDGs)」を達成すること。
今日、真水(淡水)は異常気象、干ばつ、洪水により世界中で危機にさらされている。水源が大量消費、公害、気候変動の脅威にさらされているのだ。しかし水は、人間の健康、食糧の確保、エネルギー供給、都市の維持、生物多様性、環境になくてはならないもの。
在ダッカのオランダ大使レオニー・クエレナエレは言った。
「水の有り難さは井戸が干上がるまで分からない」ということわざが複数の言語に存在するとおり、水はあって当然のものと思われがちです。だからこそ、ハイレベル・パネルは昨年「水の価値評価イニシアチブ」を立ち上げたのです。


バングラデシュ水問題の現状を踏まえて

確かに、バングラデシュの文化や経済にとって水は欠かせない要素だが、国内に700ある河川では洪水が頻発し、多くのコミュニティが被害に遭い、乾季には水不足に見舞われているのも事実。「水の価値評価」は、社会、文化、経済、環境面からも極めて重要なのだ。

水の過剰消費について、水資源大臣はバングラデシュでは水田1キロを灌漑するのに3千リットルもの水を必要としていると説明した。
私たちの生活様式を変え、水の使用を減らし、より少量の水で栽培できる品種を開発すべきです。
ハイレベル・パネルにて首相補佐官を務めるスライヤ・ベガムによると、バングラデシュ国民の約9割は「水が足りている」と感じているが、一部地域では毎年水不足に苦しんでいると言う。

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2017年7月31日に開催された第4回国連「水に関するハイレベル・パネル(HLPW)」にて発言をする、バングラデシュの水資源大臣、モハメッド・ナスルル・イスラム氏
Credit: Rafiqul Islam/IPS

バングラデシュのシェイク・ハシナ首相は、政府の水と環境保全への真剣な取り組みとして、水を貴重な資源と位置づけ、より賢明な活用方法を取り入れるよう呼びかけている。「水の価値評価」を行うことで、公害や廃棄物などの環境問題が明らかになり、効率良く対策を実施できるようになる。


オランダ政府のプロジェクトマネージャー、ウイレム・マックの意見はこうだ。
水の価格設定は水の真の価値と必ずしも一致していないが、諸費用を賄い、水利用の価値を部分的に反映し、関連インフラサービスの適切なリソースや資金を確保するひとつの手段ではある。
「水の価値評価」は国境をまたぐ水の管理や汚染緩和を平和的に進める上でも役立つだろうとも述べた。

水資源管理組織「バングラデシュ・ウォーター・パートナーシップ」の代表コンダカル・アザルル・ハク博士によると、水は経済、社会、文化、宗教面からも多大な価値を有する資源だが、その価値は質、量、時期、規模によって異なると言う。
水にはお金に換算できない価値がある。特に、環境保全における水の役割は計り知れません。
今回の地域審議会が目指したのは、「水の価値評価」に関する序文および原則について、国家レベルのさまざまな利害関係者の見解を得ることだったが、これに加え、各国政府、民間企業、市民社会に対して、水が持つ複合的な価値を理解し、それらの価値を政策立案者、地域コミュニティ、企業活動の意思決定に組み込むよう促した。

文:ラフィクル・イスラム
翻訳監修:西川由紀子

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