世間はクリスマス。イルミネーションを楽しみながら夜を過ごす人もいるだろう。
大阪・淀屋橋のイルミネーションも、毎年たくさんの人が訪れて音楽と光のアートを楽しんでいる。




00

昨日、渋谷では「クリスマス粉砕デモ」なるものも行われたようだが、大阪では同じ日に淀屋橋のイルミネーション会場のすぐ横で、「大阪ホームレスクリスマスパーティ」が開催された。会場は重要文化財指定の「大阪市中央公会堂」だ。



まばゆいイルミネーションを歩く人々は大勢いるが、その場所からすぐ近くの美しいホールで、まさかホームレスと市民が交流するイベントが開催されていると知っている人はほとんどいないだろう。

01

このパーティの主催は「ビッグイシュー基金」。雑誌「ビッグイシュー日本版」の発行元である有限会社ビッグイシュー日本が、「ホームレス状態の人々には販売のサポート以外にも、仕事や医療等の生活全般を支援する必要がある」と感じたことから、10年前に立ち上がったNPO法人だ。

このクリスマスパーティの企画や準備は、ホームレス当事者・経験者であるビッグイシュー販売者を中心に、ボランティアや基金スタッフなどと一緒に進められてきた。

当日の司会も、ビッグイシュー販売者が行う。今年の司会進行は、販売歴半年の羽根さん(写真右)と販売歴2年ほどの山田さん(写真左)。

01_2

羽根さんは梅田阪急百貨店前の販売者。「僕は今年の春からホームレスになりました。実は笑えない状況なんだけど、半年前にビッグイシューの販売者になって、そんななかでこんな表舞台に立たせてもらうのは貴重な経験です」と語る。

「ホームレス状態なのにパーティで司会をしている場合なのか?」という声もあるかもしれないが、ビッグイシュー基金では、ホームレスサッカーやダンスなどの部活動、そしてイベント時の講師や司会などの「市民と交流する場」を意識的に用意している。生きづらさを抱えた人にも交流の時間は必要であり、「自分で選択する」「自分で作り上げる」という経験をすることは自立への第一歩だと考えるからだ。

乾杯の挨拶はビッグイシュー基金理事の水越洋子。14年前に『ビッグイシュー日本版』を立ち上げたメンバーの一人で、『ビッグイシュー日本版』の編集長でもある。
9年も続けられたこのクリスマスパーティに感謝しながら「もはやこのクリスマスパーティは大阪の風物詩となってます…かね?」というと会場から少々の笑いが漏れる。

02

水越の「乾杯!」という音頭で会場からも「乾杯!」の声。それとともに、各テーブルでは料理の取りわけが始まる。
このパーティではホームレス当事者の参加費は無料のため、毎年楽しみに参加してくれる当事者も多い。
かといって当事者や支援者ばかりではない。例年のことだが、老若男女の一般参加者も多数来場し、ファミリーでの参加もチラホラ見受けられる。

03

毎年テーマが変わるこのクリスマスパーティ、今年のテーマは「笑い」だ。
笑っていられない状況がいろいろあるなかで、あえて笑うことにチャレンジするのだ。

今年のゲストは、『ビッグイシュー日本版』319号にも登場した、全国で年間約200公演を行う「劇団・笑劇派」。
愛知が本拠地の彼らだが、今回は「大阪」や「路上」をテーマに、このパーティのために創作したオリジナルの舞台を披露してくれた。

04

05
彼らの詳しい紹介はビッグイシュー日本版319号にて
https://www.bigissue.jp/backnumber/319/

ホームレスの人、ボランティア、一般参加者が交わる会場

続いてビッグイシュー基金スタッフと司会者、ボランティアスタッフによる「笑いヨガ」のコーナー。

「笑いヨガ」とは文字通り、笑いとヨガを組み合わせたエクササイズで、「楽しくて笑うのでも、無理やり笑うのでも、どちらでも健康には良い影響があるそうです」とスタッフが会場を説得(?)。それぞれのテーブルで「自己紹介」を交えて笑ったり、手拍子で笑ったりというエクササイズをおこなった。無理やりにでも笑っていると本当に笑えてくる、という効能を会場のお客さんと実践してみせていた。

12

続いては大喜利ゲーム。会場から回答者を募ったところ、4組が壇上へ。

06

一組目は、ビッグイシュー販売者の吉富さん(淀屋橋販売者)と、山本さん(枚方販売者)。

ふたりともベテランの販売者で、吉富さんはビッグイシューの販売でお金を貯めて、現在「ステップハウス」というビッグイシュー基金が借り上げた住宅で、住まいを構えることができている。

07

二組目は虹色音学館という音楽集団のメンバー。
毎週日曜に梅田のHEP前で音楽活動をしているほか、十三などでのライブも行う彼らは、献血やビッグイシューの活動などを世に伝える活動をしている若人たちだ。
ビッグイシュー基金のボランティア活動にも積極的に参加してくれている。

08

三組目は癒しの小学6年生(左)と中1(右)のコンビ。
「大喜利で勝ったらどの賞品が欲しいですか?」との問いに、小6の彼は「ビッグイシューの創刊号」(SOLD OUTの非売品)、中1の彼は「ビッグイシューのニット帽です」(同じく非売品)と回答。…なんという渋いセンスの小中学生だろうか。

09

小6の彼の父親に聞いたところ、130号くらいからビッグイシューを定期購読しており、家に雑誌が届くたびに父親が息子の興味のありそうな記事を見せていたところ、「だんだん自分でポストを覗きに行くようになるくらいに興味を持ってきた」とのこと。「創刊号が欲しいのは、レアカードを集めるような感じなんですかね」と父親は笑っていた。

中1の彼の母親にも、このパーティに来ようと思ったきっかけを聞いてみた。
彼の弟が路上で「ボブという名の猫」の主人公のボブが表紙の号を見つけて「欲しい」と言い出したのだそう。

購入してみたところクリスマスパーティのチラシが挟まっていたので、興味を持って参加したと話す。なかなかのアクティブファミリーなのではないだろうか。

四組目の男女ペアは、大阪市立大の学生さん。
このパーティに来ることになったきっかけは、写真右の女子学生が大学の「世界のマイノリティ」という授業にビッグイシューが出張講義に来たことだと話す。

講義レポート:大阪市立大学の授業「世界のマイノリティ」で販売者の吉富さんが講義。大学というレールが終わった時、本当に大切になることとは?

それをきっかけにビッグイシューに興味を持ち、ボランティアや各種イベントに参加をしてきて、今回は仲の良い学生(写真左)を連れてきてくれたとのこと。

10

若い二人のふんわりとした優しい雰囲気に、会場の空気も和んでいた。

大喜利では小・中学生コンビが見事優勝。二人とも嬉しそうに賞品を受け取っていた。

11

ちなみにさらにちびっこ向けには、「サンタの福笑い」を段ボールで提供。
大喜利に参加できないくらいの小さな子どもたちはこちらの段ボールに隠れたりして遊んでいた。

13

物販コーナーも賑わう

会場後方ではKEEN Japan様のご厚意で、シューズやブーツのチャリティ物販コーナーも。 多くの人が試着したり購入したりしてくださっていた。

15

もちろんビッグイシューのバックナンバーの特別販売も盛況。

ソールドアウトとなったジョン・レノンとオノ・ヨーコの表紙の号などはあっという間に売り切れていた。

16

「ホームレスクリスマスパーティ」を開催する理由

ビッグイシュー基金は、なぜ「ホームレスクリスマスパーティ」を毎年開催するのだろうか?

締めの挨拶でビッグイシュー基金の理事長・佐野章二は、”今年は力のある人が「排除と分断」を進めようとする一年だった”と振り返り、そのような人々を反面教師として、「市民力」で立ち向かいたいと話した。

17

ホームレスの当事者も、そうでない人も、分断されることなくともに過ごす時間が必要だと話す。それを体現するのが、この「ホームレスクリスマスパーティ」なのだ。

会の最後には笑いヨガをしながら記念撮影。今年はクリスマスイブ、そしてあいにくの雨天という条件下のチャレンジながら、ビッグイシューのファンを始め、「Twitterで見て気になって」という若い人などにも興味を持ってもらうことができ、当事者含めて、約170人の方に参加いただくことができた。

19

ビッグイシュー基金は今年で10周年を迎えた。設立時と比べると路上生活者は激減し、今年、厚生労働省が発表した「路上生活者」の数は約6000人。

しかし、生活困窮者は減ったわけではなく、増加傾向にあるとして、これまで路上生活者に夜回りなどで手渡していた『路上脱出ガイド』を、『路上脱出・生活SOSガイド』と名称も変更し、生活困窮者も視野に入れてリニューアルした。

大阪版はこちら
熊本版はこちら
その他の地域のガイドはこちら

クリスマスの今日、またはそれ以外の日でもに、居場所がなさそうな路上生活者を見かけた際は、上記のPDFをプリントアウトして渡してみていただければと思う。






過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。