ビッグイシュー日本では、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで講義をさせていただくことがあります。

今回は大阪大学でイノベーションを教えている三森八重子教授のお招きで、2017年11月にスタッフとビッグイシュー販売者が出張講義を行いました。海外から大阪大学に留学中の外国人学生の皆さんに向けて、英語でビッグイシューの事業とホームレス問題についてお話しさせていただきました。


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 まずはビッグイシューの事業の説明から入ります。
At the first, I will introduce the basic information and the concept of the Big Issue Japan. The Big Issue Japan is a magazine sold by homeless people on the street. And it started in 2003 in Osaka….

“『ビッグイシュー日本版』はホームレス状態の人が販売する雑誌で、2003年に大阪で始まった事業です。“
Vendors buy the Big Issue magazine for 170 yen and sell it for 350 yen. For every copy, the vendors sell, they earn 180 yen . At first, a homeless person has to registers with us to become a vendor. Because he/she usually does not have money at the beging, we give the person 10 free copies. When the vendor sells all 10 copies, he/she will have 3,500 yen to buy more.

“販売者は雑誌を1冊170円で仕入れ、350円で販売します。1冊売れるごとに、180円が販売者の収入になります。ホームレスの人々は、お金を持ち合わせていない場合が多いので、最初の10冊は無料で提供しています。この10冊の雑誌が全て売れると3,500円が販売者の手元に残り、その後はそれを元手に仕入れをしてもらいます。”
Here in Japan, there are about 110 vendors from Hokkaido to Kyushu. In Osaka, about 45 vendors are selling magazines, for example, near Umeda station, Hotarugaike station, Toyonaka station, Senri-chuo station and so on. So far, more than 1,700 people have sold magazines and Vendors have earned about one point two billion yen in 14 years.

“日本には北海道から九州まで、およそ110人の販売者がおり、大阪府には40~45人が梅田駅や(このあたりでは)蛍池駅、豊中駅、千里中央駅などで販売しています。
創刊から14年間でに延べ1700人以上の販売者が雑誌販売の仕事をして、12億円ほどの収入を得ることができました。

このような仕組みの雑誌は世界34か国、100誌以上あり、ビッグイシュー日本と各国のストリートペーパー社との間には国際的なネットワークがあり、情報交換や記事の融通をしていること、このネットワークは世界で約580万人の読者がいることなどを説明していきます。

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また、ビッグイシューの販売者にはノルマなどは無く、販売時間や仕入れる冊数は各販売者が自分で考えて決めてもらうという仕組みであること、ビッグイシューの事業は“ビジネス”であり、販売者たちは雑誌を販売するビジネスパートナーという位置づけで、ホームレス状態の人にお金や食事を与えるだけの慈善事業ではないということも解説しました。

Why does The Big Issue Japan focus on that the homeless are business partners?
なぜビッグイシュー日本は、ホームレス状態の人々をビジネスパートナーとして選んだのか?

The students discuss about the Big Issue model in groups.
授業では、留学生の皆さんに、ビッグイシュー日本がなぜホームレスの人々をビジネスパートナーとして捉えているのか、なぜ彼ら自身で販売時間や方法を決定する必要があるのか、現在のビジネスモデルに課題があるとすれば何かについて話し合ってもらいました。

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各グループからディスカッションの結果を発表。
「ホームレスの人々が自分でお金を稼いで自活する手段としてもらいたいのだと思います。また、ビッグイシューが、雑誌をどうやって売るのか、いつ売るのかなどの決定権を販売者に持たせるのは、彼らに生きるために必要なものを身につけてもらい、そうしたことを奨励したいからだと思います。そして、自分自身を管理し、自分でお金を儲ける技術を身につけるなかで、ホームレスの人々の自立性が養われることを推進したいのだと思います」

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1つのグループからはもう少し慎重な意見も出ました。
「ホームレスの人を働かせるのはスタッフを雇うよりも大変です。ビッグイシューは、それでもこうやって雑誌を販売してお金を稼いでもらうことで、ホームレスの人々が社会に貢献できると考えたのではないでしょうか。ホームレスの人を雇うのはリスクもあります。ホームレスの人々のなかには、何もしない人や突然どこかに行ってしまう人がいる可能性があるのではないでしょうか」
※編集部補足:ホームレス状態であるビッグイシューの販売者には、他にできる仕事の選択肢が限られているため、その日を生きる生活費をかけて真面目に取り組む販売者がほとんどです。ホームレス状態の人がみな「何もしない」、「どこかへ行ってしまう」ということはありません。
もちろん、なかにはそれぞれの事情があったり、販売が難しいと感じて辞めてしまう人もいますが、住居や医療等の支援を行うNPO法人ビッグイシュー基金等と連携しながら、販売以外のサポートも行っています。

What is the step and barrier about homelessness in Japan?
日本における、ホームレスになってしまう下り階段と、脱出できない壁

Next, the students are asked to discuss why a person become homeless in Japan.
続いて、日本でホームレス状態になる人々は、何を失ってホームレスになり、何が障壁となってその状態から脱出できないのかを考えてもらいました。下記のイラストを見て( )に入る要素を議論してもらいました。

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参加者からは、下っていく(ホームレス状態に陥ってしまう)ステップとして「仕事、心の健康、家、お金を失うこと」「友達や家族を失うこと」「叱咤激励してくれる人とのネットワークを失うこと」「離婚」、ホームレス状態から這い上がる際のハードルとして「やる気が出ない、資金がない」「仕事に就くための服もない」「ホームレス状態からうつ状態になってしまうと負のスパイラルになってしまう」「日本の場合、ホームレスであることそのものに対する社会からのプレッシャーがある」といった点が挙げられました。

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スタッフからは
「普通の人が仕事、健康、家、お金、さらに人とのつながりを失った時ホームレスになってゆきます。そして家を失って路上生活になってしまうことで、さらに脱出のための障壁が高くなります。履歴書に住所や連絡先を書くことができなくなり、たとえフルタイムの仕事に就けたとしても翌月の給与支払い日まで生活をする貯金もないとなると、賃金が低く、条件が不安定な日雇い仕事などに就くことしかできません。
選択肢が少ない中で失敗体験が重なると、自尊心を傷つけられてしまいます。どんな人であっても、何の支援も受けずに、路上生活から脱出して再び一般的な生活を営むことは非常に難しいのです」と解説。留学生の皆さんも真剣に聞き入っていました。

The vendor of THE BIG ISSUE JAPAN talked to the students about his life.
ビッグイシューの販売者が留学生に語った話

続いて大阪・梅田の阪急百貨店前の販売者である羽根さんが、自らの体験談を話しました。
「では僕のショータイムです!」と、練習してきた英語であいさつした後は、羽根さんの話を留学生の方が英語に通訳してくれました。

羽根さんのエピソードはこちらどん底から1年。路上で実感した“つながり”の回復、自立への決意

通訳:Translation
When I became a vonder, I wasn't really sure if anyone would buy the magazine. I thought it's really thin. However, within one hour I started, one copy was sold. So I thought it was good and decided to give a try.

販売者になった当初は、本当に売れるのか確信がありませんでした。ビッグイシューの雑誌もものすごく薄く感じました。でも、売り始めて、一時間も経たないうちに一冊売れたのです。その時、この仕事を続けてみてもいいんじゃないか、と思いました。
通訳:Translation
As I continued this job, I started getting more and more customers and a lot of regular customers too. In order to get new customers on the street, I started say things like “The Big Issue now on sale! The Big Issue now on sale!”. Now I have got regular income, I can afford to eat what I want while not to sleep on the street.

ビッグイシューの販売の仕事を続けるうちに、お客さんがどんどん増え始め、常連客も多くなりました。「Big Issue now on sale!」と路上で声を出すと、もっと多くの雑誌を買ってもらえるようになりました。それからは毎日食事をとれるようになり、宿泊場所にもお金を支払う余裕もでき始めました。
通訳:Translation
I have come a long way since I first started selling. For example, I am able to have accommodation to sleep safely, and have three meals per day. Moreover, I am even able to play football in the program provided by The Big Issue Foundation and I am able to talk about my experience in front of the group of people like today.
I have good relationships with other vendors and they often help me. I think my life has really changed for the better, from being a lonely homeless person.

ビッグイシューの販売を始めた当初と比べ、今では安全に泊まれる場所があり、一日三度の食事がとれるようになるなど、生活が大きく変わりました。今ではサッカーをすることすらできるようになりましたし、今日はこうして大阪大学の学生の皆さんと話せるようにまでなりました。 他の販売者とも良い関係で、何かあったときには仲間が手を差し伸べてくれます。以前は一人ぼっちでしたが、今では生活が随分良くなりました。
通訳:Translation
At the beginning, I thought that shouting“The Big Issue now on sale!” felt almost like crying for help to the people. However, my customers motivated me to make challenge and live my positive life. Now I am proud of my job,and through vending The Big Issue magazine on the street or talking to the people who is willing to listen, I want to convey the message that homelessness is the social issue.

最初に販売を始めた頃「The Big Issue now on sale!」と声を出すのは、、他の人々に助けを求める叫びのようなものだと感じていました。しかし、雑誌を買ってくれたお客さんのおかげで、自分の人生を前向きに生きるために挑戦できるようになりました。今では、雑誌販売という仕事に誇りを持っていますし、路上で雑誌を販売することを通じて「ホームレスは社会的な問題だ」というメッセージを伝え、できるだけ多くの人にホームレス問題に関心を持ってもらいたいと思っています。
羽根さんの説明が終わると、留学生からは日本人からはめったにされない「ビッグイシューの販売の仕事は続けたいと思いますか?」「今、どのくらい貯金できていますか?」といった踏み込んだ質問も出ました。羽根さんは「すごくいい質問ですね。悩ましいと思ってたところです」と前置きした上で、ビッグイシューの販売の仕事は3年くらいで卒業したいと思っていること、貯金は現在のところなかなかできていないことなどを伝えました。

最後に、留学生の皆さんへ羽根さんが英語でメッセージを伝えました。

羽根:
Be positive. My heart is always positive. Life is hard, life is painful. I'm heart break, no problem. But I can find happiness. So everyone, keep on smiling and never give up.Arigatou.
「ポジティブであれ、が私のモットーです。私はいつも前向きです。 人生は辛くて苦しいものです。私は傷ついたけれど、大丈夫。いつか幸せは見つけることができるから。皆さんも笑って、あきらめないでください。ありがとうございました。」
羽根さんは、もともと実家に住みながら警備員の仕事をしていたのですが、家族との折り合いが悪くなり家を飛び出してホームレス状態になってしまいました。そんな羽根さんにとって「大阪大学で外国人留学生を前にスピーチする」という機会はかなり刺激的だったようです。


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▼他の販売者の講義でのメッセージもチェック!

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小・中・高校での人権・道徳・キャリア教育の授業
大学での貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

まずは学校でビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

図書館年間購読制度 

※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/ 






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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。