「起こるとわかっていたことが起きたなら、誰よりも早く動けるんだから、生きている人に手を差し伸べるのは当たり前」-

95年に結成されたロックバンドBRAHMAN(ブラフマン)のボーカルとして、「生きる」ということへの想いを激しいビートに乗せて聴衆にぶつけてきたTOSHI-LOWさんは、「時々同じ号を買ってしまう」というくらいのビッグイシュー読者だ。2011年3月11日に東日本大震災が起きて以降は、被災した人たちへの支援や被災地域でのライブ活動も続けている。

3.11をきっかけに音楽との向き合い方も大きく変わったというTOSHI-LOWさんに、『ビッグイシュー日本版』との出会いや社会の中で生きる人間として、日々、考えていることについて話を聞いた。

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会えたらラッキー!な“妖精”と思って買う!?

TOSHI-LOWさんが『ビッグイシュー日本版』を知ったきっかけは、ホームレス当事者を支援する雑誌としてテレビで取り上げられていたのを見たこと。その後、渋谷や新宿といった東京都心の駅前などで購入するようになったという。雑誌の内容については、「スゲー面白い!とハマる時とそうでもないなーという時もある」と明かしつつ、「“ホームレス人生相談”と “悩みにきく料理”は毎号チェックしてますね」と笑う。

口には出さないものの、ミュージシャンにも買う人は多いのではと感じているそう。「昨日も、後輩とビッグイシューについて話していたら、すげー口悪いヤツなんですけど、さらっと『俺、買ってますよ』と言ってましたね」

興味がありつつも販売者から雑誌を買う勇気が出ない人に向けては、販売者を“妖精”になぞらえる方法を教えてくれた。
“妖精”に会える日はラッキーだな、と。渋谷とかを歩いていて、『あ、いた!』『売ってる!!』みたいな(笑)。『一度、店に入って出てから買おう』と思っていると、一瞬で姿が見えなくなったりもするので、見かけた時に買う。彼らを見つけるということを、自分の楽しみにする。東京以外でも、大阪とか九州とか、いろんなところで“妖精”に会う機会があります。

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ずっと『人間は生きて死ぬ』というテーマで歌ってきた
それが、震災をきっかけに響き出した

かつて、近所の公園に住む路上生活者と警備員との揉め事に割って入り、「この人たちだってさ…」と警備員を説得し最後には「お兄ちゃん、ガタイもいいから、警備員やらない?」「何かあったらいつでも住んでいいからね」と、双方から誘われたというエピソードを持つTOSHI-LOWさん。東日本大震災が起きる直前には、「ミュージシャンをやめようか」と考えるほど、深刻なスランプ状態も経験している。
ずっと『人間は生きて死ぬ』という、シンプルなことを歌ってきたんですが、ある日、一番前で歌を聞いていたお客さんが、ふっと苦笑して『また、こういう曲かよ』『死なねーし』と言ったのがわかったんです。ああ、もう自分は必要とされてないのかな、それなら歌う必要はないな、という気がしました。その矢先に3.11が起きて、突然、嘘みたいにたくさんの命が奪われた。そうしたら、それまで歌ってきた曲が奇しくも響き出したんです。
『霹靂』と題されたその曲は、「ほんの小さく声を張り/ここはどこかと尋ねてた/言うに耐えない結末は/晴れたこの日も奪うよう」と始まる。文字通り、「青天の霹靂」で起きた東日本大震災だったが、地震が起こる前にTOSHI-LOWさん自身が歌詞を手がけた曲だった。
なんだか、予言の歌みたいになってしまって。やっぱり意味は間違っていなかったんだと思いました。そして、そうであるなら、俺は何をすべきなのか。わかっていたことが起きたんだとすれば、誰よりも早く動けるわけだから、生きている人に手を差し伸べるのは当たり前だろうと。
『霹靂』作詞:TOSHI-LOW、作曲:BRAHMAN /YouTube

被災した友人を助けに福島へ。3月27日には、ライブハウスにいた

そう考えていたTOSHI-LOWさんのもとに、福島県のいわき市に住む友人からSOSが届く。祖母が住む茨城県の大洗にも津波が押し寄せた。

「友人からきたのは『誰も(助けに)来ない。たぶん食料もなくなる』という連絡でした。すぐに、地元の水戸でいろんなものを集めて、まだ常磐道が崩れていた時なんですけれど、避難所になっていた、いわき平競輪場に持って行こうということになりました。そこから被災地での活動が始まりました。
2011年3月27日には、地震後キャンセルが相次いでいた水戸市のライブハウスでライブを開催。BRAHMAN結成以来、「歌うこと」しかしてこなかった舞台上で、初めて観客に向かって語りかけた。
節電の中、ライブを始めようとしたら、来てる人たちがどうしたらいいかわからないような顔をしていました。そこで俺が一言、『こういう時だからこそ、音楽が必要な人間もいるんだ その人生を選択するべき』というようなイメージの言葉を語りかけた時に、お客さんにわっと火がついた。単に欲望を開放したということではなくて、すごく“通じた”んですよね。やっぱり、“通じる”ということはとても大事だなと思いました。
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政治の話じゃなくて、生活の話をしているだけ。嫌なことは嫌だと。

そして、今、BRAHMANのライブにはTOSHI-LOWさんのMC(語り)が欠かせない。
しゃべることによって離れていった人もいっぱいいます。でも、気づいたことは言わなければいけない。社会問題を言いたくてしゃべってるわけではなくて、例えば『福島に来ているのに、何で原発のこと言わんの?』ということ。自分が気になっているのに、なぜ『(誰かに気を使って)原発のことは言っちゃだめ』みたいなことになってしまうのか。政治の話をしているんじゃなくて、生活の話をしてるんです。『故郷がなくなったら嫌でしょう?』ということとか。嫌なことを嫌だと言えないのはおかしいですよ。
『鼎の問』 作詞:TOSHI-LOW、作曲:BRAHMAN /YouTube 
 

震災をきっかけに、歌を歌えるということの意味を再確認

東日本大震災が起きた後、バンドの仲間たちと練習を再開して楽器を鳴らした瞬間に「当たり前だと思ってやってきたことは、実は自分たちがずっとやりたかったことだったんだ」と改めて気づいたというTOSHI-LOWさん。一度は「やめてしまおうか」とまで思っていた音楽に対する取り組み方も変化した。

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震災後、モノを作る人たちは『表現ってなんだ?』『こんな時に自分が何の力になるんだ?』『無力じゃないか?』と、たぶん、みなさん、1回は考えたと思います。そこで、もちろん、何もしなかった人もいただろうけれど、『いやいや、無力ではない。微力だけれども、何かできることがあるんじゃないか』と探し出した人もいる。俺みたいに音楽を一瞬、やめようと思っていた人間が、逆に、自分の掌にあるものがとても大事だと気づかされたりもした。

バンドばっかりやってきた自分たちが震災以降、バンドができない状況でもなんとか伝えようって、じいちゃん、ばあちゃんの前で弾き語りをやったり、ちっちゃい子たちの前で歌ったりして喜んでもらった時に、歌というか、“音楽”をやりたいなと思うようになりました。

もともと、バンドが好きだっただけで、歌手になりたいわけじゃなかったから、楽器が何もできなくて。ただ、歌う、叫ぶしかできなかったですけど、変わりました。
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被災地に通って活動することが「偽善」と言われることもあったというTOSHI-LOWさん。しかし自分自身がかつてはミュージシャンがチャリティ活動をすることに懐疑的だったため、そうした声に対しても、「(その気持ち)わかるよ。俺も“偽善、売名”って思っていたもん」と割り切る。

きっかけは「知り合いのSOSに応えた」こと。訪れた場所で知り合った人たちに「また、来いよ」と声をかけられることがうれしくて、次も足を運ぶという、シンプルなことを繰り返すなかで「もう一度、自分自身に気づく」という大きな贈り物をもらったという。

バンドを応援するように、困った人を支えることが自然にできるようになればいい

そして、様々な想いを抱えながら積み上げてきた7年間の成果を、強く感じている。
今年7月に起きた西日本豪雨の後、7年前より、顔を出して行ってくれるミュージシャンや『何かしたい』と声をあげてくれる人たちが明らかに増えたと感じました。『何かやらないの?』と問い合わせてきた人に『おまえがやればいいじゃん』と言ったら、それで火がついたということもありました。

いつどこでどんなことが起きるかわからない。その時に地元のミュージシャンやライブハウスが率先して物資を集めてもいいし、ボランティアに行くという形をとってもいい。そして、被害に遭わなかった地域の人たちはサポートすればいい。バンドを応援するように、そういうことが自然にできたらいいかなと思います。ただ、基本的には個が好きで、『ロックでひとつになろうぜ!』とか、『みんな手をあげろ!』とかは大嫌い(笑)。自分が心の底から手をあげた瞬間に、全員の手があがっていたら、とってもうれしいですけどね。


つらい状況にいる人のこと、
それが自分にも起こり得ることだという想像力がこの国には足りない

2011年から拠点にしているスタジオを「RE:BIRTH」と名付け、仲間たちと共に立ち上げた団体「幡ヶ谷再生大学」で被災地支援を続けるTOSHI-LOWさん。 “再生”という言葉に込めた思いを聞いた。
何でもそうですが、登るのは難しいけど、落ちるのは早い。しかも落ちる過程でもちろんケガもしてるわけだから、もう一度復活するのは並大抵のことではないですよね。たぶん、今、この国では、『そういうことが誰にとってもあり得る』という想像力が足りていない。弱い人に対して『そいつらが悪い』とか、すごく言うじゃないですか。でも、明日はわが身なんですよ。『自分は悪い事してないから大丈夫』と思っている人がいるかもしれないけれど、悪い事なんてしていなくても、起きるんだと。

「ボランティア」は、ふと心に浮かんだことに従うこと

ボランティアの語源って、voluntas=“ふと心に浮かぶ事”って聞いたことがあって。そうやって心にふっと浮かんだことを形にすることが本来の“ボランティア”かもなぁ、って」と語るTOSHI-LOWさん。「ふと気になったこと、やるべきだったことをしないまま家に帰って、“ああしておけばよかった”とモヤモヤするって、気持ちよくないじゃないですか。
ふと心に浮かんだことに従って「瞬発的に声が出たり、体が動いたりする」。その結果、多くの人がつながり、それがまたTOSHI-LOWさんを支え、さらに多くの人を巻き込んで大きなムーブメントを起こしてきた。

「できる人ができることからやればいい」、誰か(社会)のためにする活動は、いつか自分のためになるとTOSHI-LOWさんは語る。「自分のためになること、自分が気持ちよく生きるということが、社会をよくしていくのかなと思っています」

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TOSHI-LOW

1974年11月9日生まれ。95年に結成されたロックバンドBRAHMANのボーカルとして、音楽活動を続ける。ファースト・アルバム『A MAN OF THE WORLD』(98)から今年発売された最新作『梵唄-bonbai-』まで計6枚のアルバムを発表。結成20周年となった15年にはベストアルバム『尽未来際』をリリースし、ドキュメンタリー映画『ブラフマン』を公開。17年の映画『あゝ、荒野』の主題歌『今夜』も手がける。

仲間とのサークル活動として行っていた「幡ヶ谷再生大学」の中に、2011年の東日本大震災以降、「復興再生部」を立ち上げ、自らも被災地に通って支援活動を続けている。

取材・文:佐藤 結
写真:横関 一浩

▼TOSHI-LOWさんから、ビッグイシュー日本15周年へ動画でメッセージをいただきました!


▼15周年記念で、羽生善治さん(棋士・竜王)、寺尾紗穂さん(ピアノ弾き語り、文筆家)、サヘル・ローズさん(女優)からも記念メッセージをいただいています。
https://www.bigissue.jp/2018/09/6640/


『ビッグイシュー日本版』のBRAHMAN関連号

THE BIG ISSUE JAPAN268号
浅井 博章さんの連載「毎日が音楽」で「パンクの大御所に再びスポット」としてBRAHMANが紹介されています。

https://www.bigissue.jp/backnumber/268/


THE BIG ISSUE JAPAN248号
TOSHI-LOWさんが各地の被災地でよく歌う楽曲「満月の夕(まんげつのゆうべ)」。
そのカバー元を歌うソウル・フラワー・ユニオンのスペシャルインタビュー。
被災地での音楽活動にも触れられています。

https://www.bigissue.jp/backnumber/248


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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。