台東区谷中の街に12坪ほどの小さな空き地がある。実はここ、「音地」と名づけられた貸はらっぱなのだ。

 

私たちが訪れた日は、手作りの陶器やバック、アクセサリーなどを販売するフリーマーケットが開かれていた。イベントの主催者である池田晴子さんは「ここは道路に面しているので、通りすがりの人がふらっと立ち寄って来てくれるのがいいですね」と話す。

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▲みんなでゲルづくり!▼
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 「音地」を運営している牧住敏幸さんは、普段は建設会社で設計の仕事をしている。お寺が多く、古い建物が残っている谷中に惹かれ「ここに自分で設計した家を建てたい」と思い土地を購入。ところが仕事が忙しく、家を建てる時間がなくなってしまった。

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牧住敏幸さん

「空き地にしていると『駐車場にしませんか?』と業者からよく言われました。でも、谷中が好きで買った土地を駐車場にはしたくなかった。そこで、ここが地域交流や芸術家の発表の場になるのではないかと思って、貸し出すことにしたんです。最初に訪ねてこられた方は、『さんまを焼きたい』という方でしたよ」と楽しそうに笑う。

それからは、1日2000円(3日目以降300円/日)という安さも手伝って口コミで広がり、芸術家による青空ギャラリー、手作り市や古本市など、さまざまなイベントが開催されてきた。その中でも特に印象深かったのが、「Bonjour!Mojo」という名前のパン屋さんだと牧住さんはいう。

 「mojoちゃんという女の子が、月1回、車でやってきて自宅で焼いたパンを売っていたんです。彼女はそれを2年間続けてファンもついて、ついに自分の店を持つことができました。ここが、夢を実現するための準備運動のような場所になれたことがうれしかったですね」

 「昔は、銭湯や井戸端といった共有の空間がいろいろあって、そこで世代や立場を越えたコミュニケーションが生まれていたと思うんです。音地は、昔子どもたちが勝手に遊んでいたはらっぱみたいに『所有』と『共有』の区切りがあいまいな存在だと思うんです。そこをはっきりしてしまうから冷たくつまらないまちになっていく。もしそのまちが好きで、まちと一緒に生きていこうと思うのであれば、家やビルを建てる前に空いている土地を、少しだけ勇気を出して、ちょっとの期間やできる範囲だけでも街とシェアしていく人が増えれば、街はもっともっと楽しく、さまざまな人がつながりあえる場所になっていくと思うんです」 

(石井綾子)

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※この記事は、2014年06月15日 発売の『ビッグイシュー日本版』241号からの転載です。

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