ゲームを止められない「ゲーム依存症(Gaming Disorder)」が世界保健機関(WHO)に疾病と認定された。これを受け、医療関係者はこの病気が他の精神疾患と異なり、どのような症状を示し、どのような治療法があるのか、そもそも単独の病気として存在するのかといったことを探ろうとしている。

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2018年6月、WHOは「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(the International Classification of Diseases (ICD))」の第11回改訂版に「ゲーム依存症」を正式に加えた(*)。しかし、これはまったく新たな疾患のため、実際にどれほどまで広がっているのか、どんな影響をもたらし、どんな治療法があるのか等について明らかになっていないのが現状だ。

*(編集部注)ICD-11は2019年5月のWHO総会で正式に採択され、2022年頃から施行予定。

「ゲームをする大半の人々は依存症にはなりません。それは、飲酒する人のほとんどが依存症に陥らないのと同じようなものです」とコロンビア大学不安関連障害クリニックのアリ・M・マトゥ精神科教授は言う。

しかし、「ゲーム依存症」の診断は困難との見解も示した。

「新たに定義された疾病なので、何をもってゲーム依存症とするか判断しづらいのです。単独の病気として確立されるのか、不安症、うつ、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など他の病気との関連性もはっきりしていません。」

WHOは「ゲームをすることにコントロールが効かなくなり、他のどんな行為よりゲームを優先させるようになること」と定義しているが...。

今回のICD改訂にあたり(1990年代初め以来の改訂)、さまざまな分野の専門家からの合意により、ゲーム依存症が疾病に認定された。これにより、「世界中の多くの地域で似たような症状を示す人々に対する治療法の開発、ゲーム依存が引き起こすリスクや関連する予防・治療法に対する医療・保健関係者の関心の高まりにつながるだろう」とWHOは言う。

これまでの研究からわかっていること

これまでも「病理現象」としての研究はされてきた。

たとえば2016年のオックスフォード大学による研究では、ゲーム依存症に陥るのは全体の0.5パーセントにすぎないと結論づけている。つまり米国では、「精神障害の診断と統計マニュアル(第5版)」の基準に基づくと、約100万人の人々がゲーム依存症にかかる可能性があるということ。

インターネットセキュリティ企業「ESET」が2016年に行った調査(*)では、ゲームを「1日中している」が約6%、「1日12時間以上」が10%だった。

*編集部注:500人のゲーマーを対象にした調査


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メディアがもたらす若者への影響を専門とするダグラス・ジェンタイル教授が2009年に米国アイオワ州で行った研究によると、ゲームをする人の10人に1人がゲーム依存症である、と結論づけた。
しかし、これらの調査はいずれも決定的と呼べるものではない。

診断には基本12ヶ月が必要

では、どういう状態をもってすれば「ゲーム依存症」と診断されうるのだろうか。 医療関係者から診断の難しさを指摘され、WHOは「生活や家族・社会との関係、教育機会、就業などに著しい困難が生じ、こうした状態が少なくとも12ヶ月間継続していること」が該当すると指定した。

つまり、医師が診断を確定させるには12ヶ月かかることとなる。WHOは、症状が明らかな場合はもっと早い段階で診断を下してもよい、ともしているが...。

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「ゲーム依存症」の3つの特徴

WHO精神衛生・薬物依存部のウラジミール・ポズニャック医師がCNNに語ったところによると、ゲーム依存症には3つの特徴があるという。

1つ目は、ゲームが他の何事よりも重要になり、これまで大事だったことも頭に浮かばなくなる。

2つ目は、ゲームの結果がどうであれ、ゲームをすることを止められない、又は悪化する。

3つ目は、ゲームをすることで、気分の落ち込み、不規則な睡眠、食習慣の変化、親しい人たちとの関係悪化など、マイナスの影響が出る可能性がある。

ゲーム依存症の診断について、マトゥ教授はこう回答した。
「すでに分かっていることからすると、『ゲーム依存症』というのは、その人の人生にマイナスの影響を及ぼすにもかかわらず、自滅的なまでにゲームに没頭すること。」

「ゲームは、学校生活、仕事、自己管理、他者との関係性などを阻害する可能性があります。私たちは日々の生活において、喜び、人との関係性や意義といったものを求めますが、これらが十分に得られないと、ゲームなど他のものから得ようとする人たちがいるのです。」

「ゲームはうまく設計されており、充実感を味わえている間は時間が経つのも忘れるほど。こうして、ゲームに依存する人が発生していくのです。」

ゲーム依存症を他の疾病と分けて考えることは困難と指摘する専門家もいる。これに対してマトゥ教授は「ゲーム依存症に対する最も効果的な治療法はまだ分かっていません」と言う。

こうした意見の相違を踏まえ、米国の精神医学界ではまだ「ゲーム依存症」を正式な疾病と認定しておらず、治療への保険適用は限られたものになる見通しだ。

今回のWHOの決定が及ぼす影響について、マトゥ教授は次のように述べた。
「ゲーム依存症が疾病に追加されたことで、関連研究が進み、この問題の詳細や広がり具合、最適な治療法などについて理解も深まっていくでしょう。ICDの次回改訂の際には(編集部注:約20年後の見込み)、より多くのことが分かっているでしょう。」
By Carmen Arroyo and Emily Thampoe
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo


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