「ダイバーシティカップ」には、ホームレス経験者やひきこもり、うつ病など、さまざまな背景をもつ人たちのチームが参加してきた。では実際に、どんな人が何をきっかけにフットサルを始め、練習や大会で何を感じているのだろうか。



2018年12月22日、「スポーツのもつ、小さいけれどたしかな力」をテーマに38名の参加者が集まり、それぞれの物語を共有する体験型交流学習会が開催された。

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ミックスゲームで大会の雰囲気を体験

 交流学習会の第一部は、コートでのフットサル交流。体をつかったアイスブレイクと自己紹介からスタート。チームの枠を超えたメンバー同士が組んでミックスゲームを行い、ダイバーシティカップの雰囲気をあらためて体感してから午後のトークに移った。

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第二部のトークは、世代も背景も異なる3人の大会参加者の経験談から始まる。話してくれたのは、精神障がい当事者によるフットサルチーム「オムハビユナイテッド」(以下、オムハビ)代表の一之瀬徳之さん。「鎌学青春ボーイズ」や「野武士ジャパンと愉快な仲間たち」(以下、野武士)のメンバーとして大会に参加した菊地涼太さん。そして、「野武士ジャパンと愉快な仲間たち」の花渕信さん。

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会場では、グラフィックレコーダーの上園海さんが色鮮やかなイラストと文字でトークを記録していく。

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ひきこもっていた時期を経て「野武士」へ

 現在23歳の菊地さんは、緊張すると思わぬ声が出たり、身体を動かしたりしてしまう「トゥレット症候群」を小学4年生のときに発症。「汚言症」という、人前でふさわしくない言葉を発する症状があり、高校卒業後は2年ほど家にひきこもっていた。しかし、あるとき友人に誘われて出かけた高尾山で偶然にもビッグイシュー基金のスタッフに出会い、「野武士ジャパン」の練習に誘われる。

 「体を動かすのは好きだったので、勇気を出して友達と参加しました。緊張して行ったんですけど、最初からあたたかい雰囲気で迎えてくれました。第3回大会には、友人とつくったチームでも参加。フットサルの場でパーソナルトレーナーに出会いボクシングも始めて、人との交流も自分の視野もどんどん広がっていった。続けてきてよかったなと思っています。今の目標は自分と同じような境遇の人が自分らしく生きていける社会をつくることです」(菊地さん)  

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仲間と肯定し合える居場所

 フットサルチーム「オムハビ」を主宰・運営する一之瀬さんは、25歳のときから約20年、双極性障がいと向き合っている。オムハビのメンバーは、精神障がい当事者の再発予防訓練や復職支援に取り組む「リヴァ」という団体のプログラム利用者と元利用者だ。自主的にフットサル練習を行っていたところ、他の精神障害当事者のフットサルチームのことを知り、そこから大会のことを知ったという。

 「精神障がいで外に出なくなると体力も落ちる。定期的に身体を動かすことで、メンバーが元気になっていくのをみてきました。オムハビは孤立を防ぎ、ストレスを発散する場でもある。社会の中では否定されることも多いけれど、オムハビは仲間と肯定し合える場。週末にオムハビの活動があるから頑張れると言う人もいる。こういう居場所があることでメンタル面も回復し、安定した就労継続にもつながっています」(一之瀬さん)

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そして、元ビッグイシュー販売者の花渕さんは、3人のなかではいちばん年上の50代。現在は就活の準備中だ。ボランティアとして大会準備を手伝っているうちにメンバーに誘われ、一昨年から野武士の練習に参加し始めた。翌日はいつも筋肉痛になると笑う。

「ビッグイシューの販売をしていたときはお客さんとの交流を大事にしていたけれど、いまはフットサル仲間や大会に来る人との触れ合いが楽しい。何もない日は部屋でとじこもっていることが多かったので、気持ち的に違います」(花渕さん)

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それぞれが感じる「スポーツの力」

3人のトークからは、仲間との出会いや定期的な練習の場があることが日常にも影響を及ぼしていることが伝わってきた。第二部では、さらに会場にいる参加者全員で複数のグループをつくり、思いを共有し合う時間をとった。

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  「勝つためのサッカーをしてきたけど、それだけじゃない価値観もあると気づいた」 「人と話すのが苦手。だから、こういう場に来ることが自分には必要」「勝ち負けじゃないけど、やっぱり勝ちたい。みんなと喜び合えるのがうれしい」「一緒にボールを蹴ると、この人はこういう人なんだっていうのが見えてくる」「社会人になると出会いがないから、コミュニティがあるのは大事」などなど、さまざまな声が飛び出してくる。

スポーツが得意な人、そうではない人。交流が楽しみな人、まだ緊張するという人……それぞれがフットサルや大会に求めること、感じていることは同じではない。ただ、そこに何か自分にとって大切だと感じるものがあるからこそ、こうして集まっているのは、たしかなこと。

「みんなが同じ考えじゃないし、年齢も背景だって違う。そういう、いろいろな人たちが参加できるのがいいところじゃないのかな」と花渕さんがつぶやく。

「フットサル」という共通項で、どのグループもそれぞれに話が盛り上がった1時間。あえて話をまとめることはせず、参加者の多様な思いをお互いに受け止めて、この日の体験型学習交流会は終了した。

(中村未絵)


体験型交流学習会「スポーツのもつ、小さいけれどたしかな力」
日時:2018年12月22日(土)11時~15時半
場所:フットサルステージ(第一部)/E’sカフェ(第二部)
(東京都多摩市落合1-47 ニューシティ多摩センタービル8F)
主催:認定NPO法人ビッグイシュー基金
共催:ダイバーシティサッカー協会
助成:平成30年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業


「社会性スポーツ」に興味を持った方へ

ビッグイシュー基金から独立して設立された「ダイバーシティサッカー協会」では、「社会性スポーツ」の試みを広げていくために、ボランティア・寄付サポーターを募集しています。活動に賛同いただける方は以下のページをご覧ください。

https://bigissue.or.jp/2018/03/info_18031501/


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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。