プラスチックが引き起こす環境・健康問題への意識が高まる中で、普段の買い物でもプラスチックを減らせないかと積極的に行動を起こす人も増えている。
ドイツ・ケルンでは、友達同士だった3人が「プラスチックを使わない」をコンセプトにした店「Tante Olga」を立ち上げた。開業に至った彼らの思いについて、ケルンのストリート誌『Draussenseiter』が取材した。
 

ーー

私が子どもの頃、祖母の家には毎朝のように牛乳配達が来ていた。祖母がバケツを渡すと新鮮な牛乳を満タンまで入れてくれ、そのやり取りには一切パッケージは使われなかった。卵もジャガイモもパックなし、食品庫の箱に入れて保管し、野菜も庭で収穫していた。

昔はこんな具合だったが、今日では「パックなし」の食品を買おうとすると大変な努力を要する。買う物のほぼすべてがプラスチック包装されていることに、私たちはすっかり慣れてしまっている。さらにレジ袋の問題もある。

2015年、ドイツ人は一人当たり37kgのプラスチックごみを排出した。その量はヨーロッパ諸外国と比べても多く、さらに増える傾向にある。世界的に見ると、毎年3億2,200万トン以上のプラスチックごみが排出されている。

とは言え、私には3人の幼い子どもがいる。大量の食料品、飲み物、クリームやオムツ...毎日たくさんの買い物をしなくてはならない。ペットボトル、皿、食洗用洗剤、食器用洗剤、食品容器... 私たちが使うものほぼすべてにプラスチックが使用されている。

日常で使うプラスチックを減らしたいが、だからといって、ガラスだと重いし割れやすいから危険だ。

考えれば考えるほど、子どもたちのお手本になれるような行動を取りたいと思うようになった。大きな責任を感じるのだ。限られた収入でも買い物の習慣を変えられるか? 家族のための買い物でプラスチックをゼロにすることはできるのか? 支出を変えずに変化は起こせるのか? その答えを得るべく、ドイツ・ケルン中心部の南西ズュルツ地区にある店「Tante Olga」を訪れた。ここは地元で採れた旬の農産物を、プラスチックを一切使わず購入できる店だ。3名の共同創業者の1人、ディナ・シュタルクに話を聞いた。

ー 『Tante Olga』のコンセプトはどこから生まれたのですか?

ディナ・シュタルク: 自分たちの買い物の習慣を変えたい、というのがそもそもの始まりです。最初は、大きなパッケージ単位で購入できるグループに加入し、大袋で配達されたものを分け合っていました。
そうするうちに、ベルリンやキールの街にもあるような、私達の思いを実現できる店がケルンにもあったらなと思うようになり... 他の誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分たちでやろうよ!となったわけです。

DRA_Plastic free restaurant_3
Photos: Stephanie Kunde

ー アイデア実行までにどれくらい時間がかかりましたか?

とても早かったです。2015年末にアイデアをひらめき、2016年6月にはクラウドファンディングで資金集めを始めました。斬新なアイデアをかたちにする「食」のスタートアップ向けワークショップを受けられたのは良かったです。でないと、甘い考えだけで開業準備に取り組むところでした。

スケジュールはキツかったですが、楽しみながらやってました。そして2017年11月、ズュルツの街に1店舗目をオープンしたんです。2018年9月にはニッペスの街でも物件契約が成立しました。10月から始めたクラウドファンディングが順調に行けば、2019年1月には2店舗目をオープンできる予定です(※)。

※ 編集部注: その後予定通りオープン、現在は2店舗で営業している。

ー どういった思いを持って取り組まれているのですか? 他の店と違うところは?

以前から「世の中を良くしたい」という強い思いがあり、何よりもゴミを減らし、大量の食品廃棄を食い止めたいと考えていました。汚染された海にゴミの塊が浮かんでいる映像を見て以来、頭から離れなかったんです。こんなことを続けていてはダメだと強く感じたと同時に、自分一人では変化は起こせないことも分かっていました。 「Tante Olga」には既に、ゴミを減らして地元産のモノを使っていこうとする人たちのコミュニティーができていますから、小さいながらも前進できていると思います。人々に考えるきっかけを与え、このコミュニティーを育んでいきたいと思う人を増やしていくのは、素敵なことです。

DRA_Plastic free restaurant_1
Photos: Stephanie Kunde

ー 同じく自宅でもゴミを削減していますか?

ええ、いろんな方法を試してます。スタッフは皆、店と同じことを自宅でも実践しています。そういう人たちでないと、一緒に働けないと思いますね。 もちろんゴミを全く出さないわけではありません。ゴミが出たら何か別のことに使えないか、再利用できる方法がないか、頭をひねるのです。包装材が良い例です。通常、大きい荷物一つの方が小さな荷物が複数個あるより包装材は少なくてすみます。ですから、私たちの店は「配送センター」も兼ねているのです。

ー 「Tante Olga」では野菜もパッケージなしで販売されています。ふんだんにパックを使っているスーパーとは大きく違いますね。

一般的なお店では、「オーガニック商品」を扱っていたとしてもプラスチックなどでパックされていることが多いです。

「ケルン農業協同組合」に加入した方がずっと賢明です。一定のモデルに則った野菜づくりがなされていますから。当店のお客様は会員になると、箱詰めされた野菜を店頭で受け取ることができます。会員費は月8ユーロ(約1,000円)。食品はすべて20%引きで買えるので、1ヶ月あたり45ユーロ(約5,700円)以上購入すると元が取れます。

DRA_Plastic free restaurant_2
Photos: Stephanie Kunde


毎週水曜日は、学生、退職者、実習生などもすべての食品が20%引きになります。いろんな方に来ていただきたいので、こんな風に気軽に利用できるサービスを提供しています。

ー 豊富な在庫を売りにしているわけではないのですか?

おっしゃるとおりです。 野菜は売れ残りを出したくないので会員制にしています。未包装の野菜を扱ってるオーガニックショップやマーケットも何店かはあるので、当店で買えない場合はそちらをあたっていただければと思います。

私たちが「ケルン農業協同組合」をパートナーに選んだのは、有機農法でゴミを出さずに育てている地元農家を応援したいから。実際に農場に行って、作業を手伝いながら確かめることもできますよ。 牛乳の場合は、予約注文したら1週間前にボトルを持ってきてもらいます。一切廃棄しないので、ムダがありません。ただし、前もって計画する必要があります。

ー 日持ちがしない食品はどうしているのですか?

本当に必要な量だけ仕入れるようにしています。パンが売り切れたら、それ以上は注文しません。毎日多くの商品を捨ててしまっているパン屋はたくさんあります。食品廃棄が出ないよう、必要としている人の手に渡るよう活動している「Kölner Tafel」(*) のような団体もありますが、そもそもそんな状況にならないようにした方がいいですよね。

* 余剰および使用可能な食料を貧しい人々のための施設に配給しているケルン市の慈善団体。https://www.koelner-tafel.de/start/

ー 1店舗目をズュルツにオープンした理由は?

共同設立者の2人が住んでいたからです。当時、彼らはこの場所の向かいに住んでいて、いい場所だと目をつけていたんです。 パン屋が出て行ったので、すぐに入りました。最初は会社というより、倉庫付きの小さな共同購入協会といった雰囲気でした。そこから2つの店が誕生し、お客様に気に入っていただけてるなんて、本当に素晴らしいことです。

ー お店では動物性食品も扱っていますか?

卵を販売しています。鶏を適切に管理している有機農家グループ「Demeter」から購入しています。こんな農家を応援したいのです。 都市部でも新鮮な卵が買えるとあって、喜んでくださるお客様がたくさんいらっしゃいます。

ー 『Tante Olga』のような店はとても良いと思いますし大切です。でも私のように3人の子どもがいて、少ない食費でやりくりしている者にとっては、予算的に少し厳しいところがあります。栄養面にも気をつけたい、良い商品を応援したいとは思っていますが...

「安さ」ばかりを優先する買い物には、目に見えないところで犠牲が払われていることを知っておくべきです。肉が格安で売られていたら、恐らくその牛は適切な飼育をされていないでしょう。

ずっとそうしてきたからといって、工業式農場で作られたモノを買い、ゴミの山を生み出すことは、環境だけでなく私たちの健康にもダメージがあります。危なっかしい肉を食べるのと同じです。

いくぶん高価でも、きちんと管理された環境で作られたものを買うようにすれば、地方の土地が農薬で汚染される事態も減らせます。野菜や果物を地球の裏側から運ぶとなると、新鮮さを保つため大変なる労力がかかってきます。高くつくのは燃料だけではありません。

ー この地球の資源に高い意識を持つ上で秘訣はありますか?

私はいろんな「洗い方」を見直しました。ボディソープの代わりに石けんを、粉末洗剤の代わりに重曹を使っています。台所ではキッチンペーパーではなくタオルを使うようにしています。簡単に始められることばかりです。新しいやり方を考えること、これまでのやり方を見直すことは、何かを諦めるのとは違います。もっと自由で楽しいことのはずですよ。

DRA_Plastic free restaurant_4
Photos: Stephanie Kunde


Tante Olga 公式サイト
http://www.tante-olga.de By Tamara Klein
Translated from German by Sean Morris
Courtesy of Draussenseiter / INSP.ngo

*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。

上記の記事は提携している国際ストリートペーパーの記事です。もっとたくさん翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

ビッグイシュー・オンラインサポーターについて

プラスチック問題関連記事

プラスチックを使わない食品保存は可能か? 世界のイノベーションと個人レベルの習慣の変え方

「決して、海はゴミ捨て場ではありません!」:インド洋に浮かぶ島国モーリシャス共和国女性大統領からの強いメッセージ


『ビッグイシュー日本版』のプラスチック問題関連バックナンバー


THE BIG ISSUE JAPAN366号
創刊16周年記念特集 プラスチック革命
366_01s



THE BIGISSUE JAPAN 347号
347_01s
国際記事として「買い物からプラスチックごみをなくす。無包装のパッケージフリーショップ」を紹介。
https://www.bigissue.jp/backnumber/347/


THE BIGISSUE JAPAN 340号
340_01s
国際記事として「使うのは一度きり、残るのは永遠。海に浮かぶ大量のプラスチックごみ」を紹介。
https://www.bigissue.jp/backnumber/340/





過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。