アルゼンチンのラルグエロ地域(※)に暮らす先住民族のウィチ族は、野生のはちみつ採取の名人だ。彼らにとって、はちみつ採取は先祖代々受け継がれてきた伝統技術。そんなウィチ族の家族らが協力し合い、彼らの言葉で「ミツバチ」を意味するベンチャー事業「Tsawotaj」を立ち上げた。彼らが独自生産するオーガニックはちみつの取り組みについて、ブエノスアイレスのストリートペーパー『Hecho en Buenos Aires』が事業メンバーに話を聞いた。
※アルゼンチン・パラグアイ・ボリビアの三ヶ国にまたがるエリア「チャコ・サルテーニョ」にある村サンタ・ヴィクトリア・エステに位置する。
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ウィチ族の人々は、子どもの頃から遊びの一環で「ハチの巣の見つけ方」を学ぶ。巣を見つけたら、自分たちではちみつを抽出する。野生のはちみつ、いわゆる「マウンテンハニー」の採取は先祖伝来の技術なのだ。
「ウィチ族コミュニティは、何世代にも渡って、狩人や漁師、はちみつ採取を仕事にしています」そう話すのは農学者のフアン・イグナシオ・ピアソン。ローカルベンチャー事業の立役者だ。家族とともに、ウィチ族コミュニティから最も近い都市サルタ州タルタガルからさらに200キロ離れた場所に住んでいる。
はちみつ採りの名人で、仲間から「ピース」と呼ばれているフランスシコ・フリアスが言う。「私たちは子どもの時にはちみつ探しを覚え、青年になる頃にはすっかり採取方法をマスターしています。男性だけでなく女性たちもです」
天然はちみつの「甘い」フェアトレードを目指して
このベンチャー事業は、「パロ・ハニー(palo honey)」の名で知られる天然はちみつの採集・パッケージング・流通までを行う。はちみつが本来の価値を下回る価格で取引されている悪循環を絶ち、自分たちが収穫したはちみつをフェアトレード市場で販売し、コミュニティの仕事を強化させたい考え。「これまではパラグアイ人に販売していました。買い取り価格は良くありませんでしたが、他の選択肢がなかったのです。私たちも食べていかなきゃいけませんから、仕方なくです...」とピースは言う。
「でも今は、フアンが手がけたベンチャー事業が力になってくれます。収穫したはちみつの一部を彼に委託すると、車でブエノスアイレスまで運び、販売してくれます。おかげで、はちみつ価格はずいぶん改善されました。自分たちがやってきたことは間違っていなかった、苦労が報われた気がします」ウィチ語で話すピースの言葉を、フアンがスペイン語に通訳してくれる。
「地元の食料品店が値付けする最高額で出荷し、現金で支払いを受けています。このベンチャー事業は支援や補助金を一切受けず、独立採算で運営しています。ですから、販売量としてはまだ大したことはありません。今後販売量を増やせれば、もっと多くのはちみつ採取者を巻き込んでいけるでしょうね」
活動開始から数年が経ち、今年ははちみつの収穫量も増えた。現在は、製品の品質向上に努めるとともに、オーガニックやアグロエコロジー(※)な製品販売やフェアトレードの促進に尽力している他組織との関係づくりにも力を入れている。
※生態系を守るエコロジーの原則を農業に適用する考え。先住民族の持っている知恵と科学的知識を活かすという意味合いも含まれる。
山中でハチの巣を探しあて採蜜するまでの数々のコツ
天然はちみつ「パロ・ハニー」を採蜜できる巣は、この地域に特有の木々(※)で見つけられる。ミツバチがこれら自然の木々から蜜を吸ってはちみつを作り出し、それをウィチ族の名人たちが集めるのだ。人工的な巣から収穫するはちみつとは味が違う。※キャロブ、チャナー、ナツメ、ケブラコ、マツ、ローズウッド、アカシア、ナシ等、チャコ・サルテーニョ山に群生している木々。
天然のはちみつは、ハチ自らが巣を作る場所を選ぶ。枯れて中が空洞になった木のこともあれば、山の中の安全な空間のこともある。はちみつの味はどんな木に巣を作るかで変わるのです、とフアンが説明する。
ピースを始めとするはちみつ名人たちの仕事は、野生のハチの巣を探しに山を散策することから始まる。先祖から伝わる土地を歩き回り、ハチの野生の住処(「キャンプ」と呼ぶ)を探し出す。2キロ、時には10キロほど歩くこともある。
山に着くと、皆で同じ方向に向かって歩きながら、ハチが巣を作りそうな場所を調べていく。例えば乾燥した木。空洞やくぼみが多いからだ。または上の方にたっぷり葉が生い茂っている木。
ハチの巣は木の穴の中ではっきり姿を確認できるものもあれば、幹に囲われた奥深い隙間にあることもあり、後者の場合は斧を使わないと巣に届かない。巣が見つかると、それが新しいものか古いものかを判断し、新しければ手はつけない。女王蜂やコロニー(巣)を傷つけないようにも気をつける。
はちみつがたっぷり貯まった古い巣を見つけたら、「自然に優しい」技術でもってはちみつ採取が始まる。周辺にスペースを確保して火をおこし、棒の先に火をつけて吹き消し、ハチの巣の入り口に煙を充満させる。そうしてハチをおとなしくさせてから、木の穴に手を突っ込むかナイフを使うなどして巣を取り出す。
「時にはハチたちが攻撃してきて、刺されることもあります。曇りの日は怒りやすく、暑い日は怒りにくいんです。曇りの日に採取しようものなら、猛攻撃してくるでしょうね」とピースが言う。
取り出したハチの巣はナイロン袋に入れて持ち帰り、はちみつ作りの次工程に進む。はちみつ採取者たちが「成果なし」で戻ってくることはない。
「採取に行くと決めた日は朝出発し、午後まで木々を見て回ります。帰路につくのは収穫があってから。見つかるまで探し続けます。山中で探し出すのは容易じゃありませんし、ハチの巣は結構重たいので、帰宅する頃にはくたくたです。」
「持ち帰ったハチの巣を容器に移し、はちみつを絞り出します。絞り終えたら、瓶に入れて保存します」
「はちみつを探し出し、見つけたものはすべて保存します。食べたくなったら、水を混ぜて食べます。はちみつに何か効能があるかなんて知りません。ただ食べる、それだけです」とピース。
最後にフアンが野生ならではの話をしてくれた。
「野生では花粉の近くに巣が見つかることがあります。ミツバチが幼虫を育てるためのタンパク源として花粉を使うためです。搾り出したはちみつには花粉の味が混ざっています」
By Micaela Ortelli
Translated from Spanish by Alison Walker
Courtesy of Hecho en Bs. As. / INSP.ngo
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