前回は福島第一原発3号機の使用済み核燃料の取り出しトラブルを報告したが、今回は燃料デブリ(溶融した核燃料が冷えて固化したもの)に関する初の調査が行われたことを報告したい。
格納容器内の撮影、温度測定
放射線量は最大43Gy/h
東京電力HDは2月13日に2号機の燃料デブリの状況を探る調査を実施した。この間、2度にわたって格納容器内の調査を行ってきたが、その時に使用した貫通孔(X―6)から、カメラ・線量測定装置・燃料デブリをつかむ触手などを備えた装置を入れ、原子炉を支えているコンクリート製の構造物(ペデスタル)の内側から装置を吊り下ろした。装置は長さ30㎝、直径10㎝、重量は1㎏と小さなものだ。原子炉を溶かし床に落ちた燃料デブリをつかむことで、その状態の変化を把握して映像に収めた。また、放射線量、温度なども測定した。
公開された映像からは、燃料デブリは茶色に変色し、錆びていることがわかる。また、小石状や岩状、構造物の一部と推定される堆積物などに接触調査した様子が見られる。調査結果報告(2月28日公表)によれば、小石状や推定構造物は動くことが確認されたが、岩状の堆積物は動かなかった。固着しているのだろう。
次のステップとして、今年下期に少量を取り出して分析する調査に着手するとしている。そのまま取り出せば作業員は非常に高い被曝を受けることになるため、分厚い鉛の容器に入れて回収することになるだろう。手順などを慎重に計画する必要がある。
今回の調査は何度も練習を重ねた上で実施したという。作業員は原子炉建屋内に入って装置を設置。設置後は建屋外から遠隔操作で調査した。作業員の被曝線量は最大で0・68ミリシーベルト、平均で0・26ミリシーベルトだった。
格納容器内の放射線量や温度は高さにより7区分された。その内の3地点(5㎝、10㎝、15㎝)は今回初めて測定された。底部の燃料デブリから5㎝離れたところで放射線量は7・6Gy/時(※)、温度は22・9℃、また、1m離れた地点では6・5Gy/時で温度は23・1℃だった。なお、当日の双葉地方の気温は最高で3℃(12~14時)だった。
距離が離れてもそれなりに線量が高いのは、燃料デブリが底部にだけあるのではなく、周りに付着していたり、原子炉内に残っていたりするからだ。
今回の調査で最大の値が観測されたのは43Gy/時で、そこは貫通孔から4・4m中に入った地点(ペデスタルから2・4m出た地点)だった。18年の調査では、ほぼ同じ地点で42Gy/時となっている。原子炉底部よりも高い値になっている点が気になる。今後の調査に注目したい。
広範囲に存在する?燃料デブリ
最終処分地は未定
今回がせいぜい30㎝四方の中での調査であった。燃料デブリはいろいろな所にあり、固着しているのも多数あるだろう。また、厚さ15㎝もある原子炉の底に炉の一部を溶かして固まっている状態の燃料デブリもあるに違いない。これらを取り出すには、燃料デブリがある場所や状態を特定できないと、機器の開発や計画が立てられない。広範囲に調査する方法と機材の開発も必要だ。この燃料デブリの取り出しは、第一原発の廃炉の工程で最も困難な作業になるはずだ。
さらに、取り出したデブリの最終処分場所も決まっていない。この点も解決不可能に近い課題だ。福島県は県外処分を求めているが、現在の規制の法体系からも外れている燃料デブリの処分を受け入れる自治体があるとは考えにくい。
こうした作業は「技術的難易度が高く、国が支援すべき研究開発」の対象となっていると考えられる。そこで、経産省の廃炉・汚染水対策の予算を見ると、この3年間だけでも502億円が使われている。この一部が今回のデブリ調査に使用されているが、個々の費用は筆者の調べたかぎりでは公表されていない。
福島第一原発の廃炉の全体の費用について、経産省は17年12月に再見積もりをし、8兆円とした。当初見積もり2兆円の4倍に跳ね上がったのだった。他方、日本経済研究センターが17年3月に発表した見積もりでは32兆円と試算している。今後ますます費用は膨らんでいくことになるだろう。
(伴 英幸)
(2019年4月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 356号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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