NPO法人パノラマは、週に1度、若者たちが高校で地域の大人たちと触れ合う「ぴっかりカフェ」を開催。地元企業での有給職業体験「バイターン」と組み合わせ、中退や進路未決定の予防支援に取り組んでいる。

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学校図書館が週に一度、カフェに早変わり

生き方のストライクゾーンを広げる地域の大人との出会い

現在「NPO法人 パノラマ」代表の石井正宏さんは、2000年から都内のNPOでひきこもりの若者を支援してきた。その経験からひきこもる前にこそ支援が大事だと感じ、15年に「パノラマ」を立ち上げた。

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NPO法人パノラマ代表兼ぴっかりカフェマスター石井正弘さん
https://npo-panorama.com/


 家庭の経済的な事情や不登校経験などによって卒業後も社会的孤立に陥るリスクが高い高校生を支援するため、神奈川県立田奈高校の中で中退や進路未決定の生徒を対象に『ぴっかりカフェ』を開き、相談事業を始めた。「一人でも多くの生徒に出会い、関係性を構築するために相談の場を図書館にしました」と石井さんは言う。

 今は週に1度、昼休みと放課後にカフェを開催。今年度は中央ろうきん若者応援ファンドの助成を受けて運営している。取材日には毎年恒例のカレーパーティが開催され、40人の生徒が地域のボランティアとともに、生徒や先生、約100食分のカレーを振る舞っていた。


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おかわりもOK。鍋ごとに味が違うのも楽しみのひとつ

 「若者は専門家ではなく“顔見知りの大人” に相談するんです。親や先生以外の大人と数多く出会えば、生き方のストライクゾーンが広がる。ボランティアをしている大人への『信頼』が貯金のように貯まれば、もし町で出会って注意を受けたとしても生徒は話に耳を傾けやすくなります」と石井さん。

 カフェでは、気になった生徒を月に2回の個別相談に誘い、必要な支援につなぐ。17年からは、同じような取り組みが神奈川県立大和東高校でも始まった。

 アルバイトの面接にも落ち続けるなど、面接に恐怖感を抱く生徒には、企業と提携して有給で就労体験を積める「バイターン」という仕組みがある。卒業後も、居場所スペース(横浜市から事業を受託)や、パノラマが月に一回開催し、地域の人も自由に参加できる「居場所居酒屋 汽水」で悩みを相談できる。

ボランティアは年間延べ400人。地域での生きる安全ネットに

 田奈高校の「ぴっかりカフェ」には毎回150人ほどの生徒が参加。「たとえば、家庭環境に課題があり、保護者が協力者になり得ない男子生徒は最初、ライトノベルのコーナーにこもっていましたが、徐々にカフェの大人たちとの関係ができ、アニメの話をするようになりました。バイターンでビルの清掃を経験後、就活を始めて2社目で就職が決まりました」

 また、コミュニケーションが苦手な別の男子生徒は“地元のラーメン店ベスト3”を図書館便りに貼り出すほどのラーメン好き。「バイターンを利用して1位のラーメン店で働き、『いざとなったら、うちで働け』と励まされながら、3社目で就職を決めました」


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司書・生徒たちのアイディアと工夫がつまった空間

 高校内で相談を開始した当初70人ほどいた進路未決定者は、現在三十数人になった。生徒へのアンケートでは、「カフェを利用している生徒のほうが学校や先生にポジティブな気持ちをもっている」こともわかったという。

 活動は現在、卒業生を含む年間延べ400人のボランティアが支え、ここでのつながりが地域で生きていくセーフティネットにもなっている。「だから、続けることが大事」と石井さん。「やってみたい人がいれば、学校内に大人との交流スペースをつくるノウハウはすべてシェアします。全国の学校でも始めてほしいし、いずれは公的なお金が投入されるべきだと考えています。教育を受けられる最後の砦となり得る高校にこのような仕組みがあれば、ニートやひきこもりになる若者は減っていくのではないでしょうか」

書影「学校に居場所カフェをつくろう」
学校に居場所カフェをつくろう!(明石書店)



NPO法人 パノラマ
課題集中校や教育困難校と呼ばれる高校での中退や進路未決を予防的に支援するため、2015年に設立。有給職業体験プログラム「バイターン」及び校内居場所カフェ事業、「よこはま北部ユースプラザ」居場所スペースの運営などを行う。
https://npo-panorama.com/

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カフェはたくさんのボランティアとご寄付で運営しています。HPをご覧ください。
https://npo-panorama.com/cafe/



中央労働金庫(中央ろうきん)

ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関。「中央ろうきん若者応援ファンド」は、若者の自立支援に取り組む団体を応援する助成制度です。

【2020年公募】
中央ろうきん助成制度“カナエルチカラ”~生きるたのしみ、働くよろこび~
受付期間 2019年10月1日(火)~31日(木)消印有効
詳しくは、中央ろうきんホームページをご覧ください

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上記記事掲載号

THE BIG ISSUE JAPAN367号
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https://www.bigissue.jp/backnumber/367/


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