学校教員の長時間労働を改善する流れとともに、見直しが求められている部活動。一部の自治体では、廃止や外部指導者の導入などが実施・検討されつつも、保護者や生徒、そして教員自身の要望などもあり、改革の方向性は定まっていません。
2019年3月、NPO法人ビッグイシュー基金は「オランダに学ぶ社会性スポーツの可能性~ライフ・ゴールズ・ファウンデーション(*)の取り組みから~」というテーマの勉強会を開き、オランダでホームレス状態の人や移民など多様な人が参加するスポーツの現場を視察した3人の登壇者が報告を行いました。
(*)2011年にオランダのユトレヒトに設立された非営利団体。国内25の都市でホームレスや薬物依存、難民の当事者などを対象としたスポーツプログラムを実施している。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
(ユトレヒト郊外、IKEA屋上にあるサッカーグラウンド)
また、ビッグイシュー基金スタッフの川上翔からは「見学させてもらったサッカークラブには、幼稚園児から成人、シニア、障害者、女性などのチームがあって、大人は加盟するのに年間100ユーロ(日本円で約12000円)かかりますが、それも日本に比べればかなり安い値段だと思います。また、ただ単にプレーするだけではなく、メンバーと旅行や地域のチャリティイベントに参加するなど、学校や職場以外でのコミュニティとなります。大人はプレーもすればコーチ役も担いますし、子どもは高齢者や障害者と接する場ともなるそうです」と報告がありました。
また、オランダは労働時間が短い国としても知られ、基本的に多くの会社が9時始業で17時には仕事が終わるそうです。平日でも、17時には仕事を終えて、18時に晩御飯を食べた後、スポーツや音楽など余暇にあてる時間が多いというわけです。
ラグビーの元代表コーチがサッカーも教える
登壇者の一人で、普段はプロバスケットボールのBリーグでチャリティイベントなどの企画を行っている鈴木万紀子さんが一番驚いたことは、「ライフ・ゴールズ」の研修を受け、サッカーコーチとして活動している人がオランダのラグビー代表の元コーチだったことです。
「日本のスポーツ業界は、縦割り組織で別の競技との関りは少ないことが多いんです。日本では、ラグビーをやっていた人がサッカーを教えるなんて考えられません。しかしオランダでは、ラグビーのトップレベルのコーチが、困難を抱えた当事者に別の競技を仕事として教えていました。競技から入っておらず、一人ひとりが色んなスポーツをやることで、スポーツそのものを楽しむというベースができるのではと思いました」と鈴木さん。
(左から鈴木万紀子さんと竹内佑一さん)
なぜホームレスや薬物依存の人にスポーツが必要なのか?
競技が縦割りになっておらず、スポーツ施設や地域のスポーツクラブへのアクセスが容易であるオランダ。ホームレス状態や薬物依存の人たちのためのスポーツプログラムが行われている理由についても聞いてきました。
川上は「現地のスタッフに『なぜスポーツなのか?』と尋ねると、『自分の抱えている問題をいったん脇に置いて、何かに熱中することも大事なんだ』との答えが返ってきました。例えば、薬物依存の当事者が集まる会などでは、自分がどれだけのしんどさを抱えて生きてきたか、こういうところに負けて薬物に手を出してしまった、など薬物依存と真正面から向き合わなくてはなりません。それはそれで大事なプロセスなんですが、それだけだと精神的にしんどいですよね。当事者にとって、“薬物依存という自分”だけでなく、“サッカーに熱中している自分”を見つけることで、きちんと困難に向き合えることを改めて学びました」と述べ、会を締めくくりました。
(石井綾子)
※登壇者の所属等はイベント当時のものです。
ビッグイシュー基金の「スポーツ」を通じた多様な生き方・価値観に出会う場づくり
ビッグイシュー基金では、ホームレス当事者・経験者によるサッカーチーム“野武士ジャパン”の活動を応援しています。ホームレス状態の人だけが参加できるサッカーの国際大会「ホームレス・ワールドカップ」に過去3度出場するなど、サッカーを通じて、選手たちの自立へのステップを応援してきました。
2015年からは、ホームレスの人にとどまらず、うつ病、LGBT、若年無業者、不登校やひきこもりの経験者、依存症の当事者など、様々な社会的背景、困難を持つ人が集い、交流するフットサル大会「ダイバーシティカップ 」の取り組みを始めています。東京、大阪で行われた大会には、延べ1,000人以上が参加し、多様な生き方・価値観に出会う場となっています。