世界中の国々が気候危機の影響を感じている。特に大都市では、“異常” とも言える気象現象が次々と発生し、大きなインパクトを引き起こしている。


そうした地球温暖化がもたらす現象のあまりの恐ろしさから、われわれはこの気候変動が人為的なものであり、20世紀初頭から科学研究の対象とされてきたことを忘れてしまいがちだ。しかしこのテーマは、世界気候変動会議が初開催された1979年から政治的議題に上っていたし、ドイツの都市では1990年代初めから具体的な政策が実施されてきた。今から10年以上も前、2008年12月にドイツ政府が策定した「気候変動適応戦略」には、さまざまな分野(保健、建設、製造、輸送、農業、林業、生物多様性)に関するアクションが含まれている。

気候変動が起きていることは、科学的には疑う余地はほぼなく、ますます深まる影響および具体的な適応策に関して、踏み込んだ研究が実施されている。スイスチューリッヒ工科大学による最近の研究では、気候危機がもたらす影響のスケール感が提示されており、2050年までにヨーロッパの大都市で気温が大幅に上昇すると警告している。

都市部では特に「気温上昇」と「雨量の変化」が深刻

ドイツ政府でも都市に重点を置いた対策に力を入れている。人口が密集しているルール地域では、夏場の急激な気温上昇がすでに起きている。「コンクリートジャングルは、日中に熱を蓄え、夜間に放射熱を放つ。このヒートアイランド現象により、都市部の夜間の気温は地方より8~10℃ も高くなることがあります」と説明するのは、ドルトムント工科大学で気候変動の適応策を研究しているステファン・グレイビング教授。

「ルール地域連合(RVR)」が作成した気候チャートによると、1961〜90年にかけて夜間の気温が20℃を超える夜はほぼなかった。それが2021年〜2050年にかけては、1年に27〜30日は“とても暑い夜” になると研究者らは予則している。

もう一つの影響として「雨量の変化」が挙げられる。温湿な空気が急速に上昇し、激しい雷雨をもたらす大気の対流が増える。洪水の影響と被害は、道路の舗装度合いに大きく影響されるため、とりわけ都市部には大きな問題となる。

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Tobias HämmerによるPixabayからの画像 

「こうした気温や雨量の変化は最終的に、水の供給、生活の質、生物多様性にも支障をきたします」とグレイビング教授。2年続けて夏場に見られた、豪雨の後にほとんど雨が降らないという気象条件は、植物を大きく圧迫し、複雑な影響をもたらした。「長期的には、今ある天然種の大半が消滅すると考えられます」教授は言う。

緑の回廊、屋根や玄関まわりの緑化、スポンジシティー...都市部でできる対策の数々

こうした事象を抑制できる策はいろいろある。たとえば、都市部に空気の通り道や緑の回廊を作れば、少しは影響を緩和できるだろう。リエノー博士は、衛星画像をもとに道路の舗装問題を考えるボーフム市のプロジェクト「KlimNet」の一環で、持続可能な景観設計の可能性を研究している。

「冷気を生成・浸透させるには緑地エリアが重要な役割を果たしますから、すべてを舗装してはなりません」と語る。「重要なのは、どこを気候関連エリアとするか決めること。ルール地域では、かつての工業用地を再開発することで緑地に転換できる場所がたくさんあります」

緑地エリアの確保、ならびに屋根や玄関部分の緑化によって、建物からの熱発散を大幅に減らし、二酸化炭素を結合させられる。ドルトムント市ではこの一年で、新しい建物および屋根材の緑化が義務付けられた。ボーフム市でも今後、特定エリアにおける建物の新設だけでなく “改造”にも適用される予定だ。

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Kerstin RiemerによるPixabayからの画像 


景観のなかに「水」を組み込むことも街を涼しくする効果がある。「雨水を下水に流さずに “貯める” ことで、その水分の蒸発により街を涼しくするという 『スポンジシティー』構想 など、革新的かつ実施可能なアイデアがあります。「大都市では特に、こうしたトピックへの認識が高まっています」とグレイビング教授。

大雨時の洪水リスクを示す「エリア別ハザードマップ」も作成された。これは、水路や住宅をつくる際、または緊急時用水路や貯水槽を建設するべきか判断する際にも役に立つ。

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Uwe DrieselによるPixabayからの画像 

ボーフム市はこの変わりゆく気候にあわせて独自の方法を開発。新しく整備がすすめられているオストパーク住宅地エリアは、緑地エリア・吸水性の高い歩道・熱や雨に強い木々・池などを取り入れた、洪水対策のモデル都市となっている。

地域の水道公社とルール地域連合の動きも活発で、自治体間の協働をすすめている。「多くの自治体が、気候変動の“防止”だけでなく“適応” についても検討しています。というのも、時すでに遅し、もしかすると防止ではもう間に合わない可能性があるからです」

“社会的にも環境的にも公平を実現する” -社会問題とあわせた対策の必要性

自治体はアクションを起こしたくても、相反する目的に直面することがある。例えば、住宅の不足だ。この対応として「都市化」と「土地の利用」をすすめれば、都市の過熱状態はさらに高まる。「都市部に暮らす人々が手頃な価格帯の住宅に住みたいというのは正当な権利です」とグレイビング教授は述べ、気候保護ならびに気候変動の緩和策は「社会問題」とあわせて検討されなければならないと強調する。

「気候保護」または「気候変動の適応」という理由で、輸送・エネルギー・消費の価格を引き上げれば、低所得世帯の生活はいっそう困難なものになってしまうだろう。「断熱性が低く、日よけや雨戸、エアコンのない家... いくつもの環境負荷にさらされている地域では、室内の急激な温度上昇など影響がより深刻です」グレイビング教授は言う。気候変動は貧困層にとってより深刻で、社会格差を拡大させうる。

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Moritz BechertによるPixabayからの画像 

グレイビング教授はこう締めくくる。「課題となるのは環境面の平等です。“社会的にも環境的にも公平を実現する” という観点をもち、気候変動への“適応”が、今ある格差をさらに深めるものになっていないか問い続けることが必要です」

By Jule Lummen
Translated from German by Eva Schueckel
Courtesy of bodo / INSP.ngo


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15 歳のグレタ・トゥーンベリさん、そして日本の若い人たちの活動を紹介。また、江守正多さん(国立環境研究所)に、「異常気象と地球温暖化との関係、地球温暖化の今と近未来、私たちができること」を聞いた。気候危機に向き合い、未来に備える一歩を踏み出したい。



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