原子力規制委員会は2月26日、東日本大震災の震源地から最も近い原発として注目を集めてきた東北電力・女川第二原発(宮城県)について、新規制基準に適合したと認める「審査書」を決定した。東日本大震災で被災した原発で適合するのは、茨城県の日本原電・東海第二原発に続いて2基目となる。国は宮城県に対して3月2日、同意要請をした。女川町と石巻市に対しても行う見通しで、地元自治体の判断へと焦点が移る。





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地元では反対の声が続々
県民投票めざし11万人の署名

 しかし、この間、地元からは問題を指摘するさまざまな声が上がっている。これまで女川原発の危険性を指摘してきた住民は、再稼働の是非を問う県民投票条例の制定を目指して約11万1700人の署名を宮城県に提出、県議会でも条例案が審議された(県議会は否決)。また、地元・石巻市民17人は、再稼働に同意しないよう宮城県知事と石巻市長に求める仮処分を仙台地裁に申請するなど、反対の声を上げてきた。

 この決定の約2週間前の2月8日に、「女川原発再稼働の是非をみんなで決める県民投票を実現する会」代表の多々良哲さんを講師に招いた学習会が、宮城県栗原市で開かれた。参加したのは、福島原発事故後、放射性降下物で地域が汚染された問題に取り組んできた「放射能から子どもたちを守る栗原ネットワーク」や「県民投票を実現する会・栗原」の会員ら。

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再稼働に向かう女川原発の危険性を指摘する多々良哲さん

 多々良さんは「国が合格を出し、原子力規制委員会が認めたからといって、女川原発が安全だとは言えない。新規制基準にも問題が多い」と前置きをしたうえで、女川原発が抱える危険性を指摘した。


福島原発と同じ沸騰水型のMark Ⅰ
避難計画の問題も議論

 その一つには、女川原発は古い型の原発で、福島原発と同じ沸騰水型のMark Ⅰ。1970年代に事業が計画されてから地元の漁民を中心に反対運動が起き、10年以上工事は進まなかった。その間に世界の原発は改良されたが、女川原発は当初発注の古い型のままで建設された。「女川原発が震災で事故に至らなかったのは、紙一重でラッキーだったからに過ぎない。こんなクラシックカーを動かすのか」と多々良さんは指摘する。

 実際、東北電力が適合性審査を申請してから審査が長期化し、決定まで6年もかかっている。女川原発は東日本大震災で被災した原発のため、どのような損傷を受けているかの分析や審査に時間がかかり、何度も安全対策が追加された。多々良さんは「新規制基準はすべての対策が後付けで、既存の原発に施せる対策のみになっている」と指摘。象徴的な一例として、防潮堤の杭の一部が岩盤に到達していないために基準違反であるという原子力規制委員会の指摘に対して、東北電力は防潮堤の両側の地盤改良工事で杭を固めて支える方針を打ち出し、原子力規制委員会も了承したことを紹介。新規制基準ありきで、安全性を担保していない原子力規制委員会の無責任さを指摘しながら、再稼働させないために住民が連携して危険を指摘していく必要性を語った。

 この学習会が開かれた栗原市は、女川原発で事故が起きた際には市内46避難所で、石巻市の1万300人と、女川町の全町民6490人を受け入れることが予定されている。避難計画は再稼働の要件になっていないという問題とともに、避難のあり方についても議論された。

 栗原市の菅原勇喜市議は、女川原発から栗原市までの避難経路について地図を用いて説明。「一般道1本を使って避難するという避難計画が示されている。女川町民は全員が栗原市に避難するが、多数の避難者の受け入れをどうするのか、具体的なことが示されていない。同時に、私たち栗原市民は避難しなくていいのかという問題もある。福島第一原発から栗原市は160㎞離れているが、あの事故で汚染された稲わらや牧草の問題がまだ終息していない状況の中で、いったい何を言っているのかと思う」と、再稼働に向けて加速している状況への危機感を語った。

(写真と文 藍原寛子)
※「被災地から」は今回で終了します。今後本誌では「福島から」(仮題)として6月1日号、9月1日号、12月1日号、3月1日号に掲載の予定です。


あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。


*2020年3月15日発売の『ビッグイシュー日本版』379号より「被災地から」を転載しました。
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