震災前から東北地方におけるホームレス支援の拠点でもある、東北最大の都市・仙台。
東日本大震災後は、市内の仮設住宅には津波などで家を失った方が暮らし、県内外からは復興の仕事を求めてきた人が集まっていました。
2011年からビッグイシュー基金では、仙台で路上生活者支援を行う団体を訪ね、震災後の現場の状況を伝えてきました(ビッグイシュー基金「被災地の路上から」/
短期でいなくなる若者、車上生活者――増加する『路上予備軍』
一般社団法人パーソナルサポートセンター(PSC)は、安定した生活を送ることが困難な人たちへの伴走型支援を目指し、仙台弁護士会有志を中心に、ホームレス支援を行うNPOなど10団体が連携して2011年3月3日に設立した団体である。
設立直後に東日本大震災が発生したため、震災後は被災者支援が活動の中心となっていた。
仙台市との協働事業で始めた仮設住宅での見守り支援では、緊急雇用で採用された被災者が“絆支援員”となり、多いときには市内12エリアの仮設住宅で、約700世帯の見守り支援を行ってきた。
そのなかで、震災前から家庭で抱えていた生活困窮やDV、家族関係、アルコール依存などの問題が浮かび上がり、支援へとつながったケースもあった。
仮設住宅に取り残される人たち
プレハブ仮設住宅での見守り支援はいまも継続中であるが、現在は自宅再建や復興住宅などへの移転が進んでいるため収束段階にある。
今後、復興公営住宅に移転してからの見守りは、社会福祉協議会など別団体が担うことになっているという。
「当時は支援員が毎日訪問し、時間をかけて信頼関係を築いていきました。見知らぬ相手に、家庭内の相談ごとを話してもらうのは容易ではありません。
それでもプレハブ仮設住宅の場合は、まだ外から様子がわかりやすかった。復興公営住宅での見守りは、コンクリートの壁に阻まれてさらに難しくなるのではないでしょうか。
仮設住宅への入居時も、地域コミュニティがバラバラになるという問題が起きましたが、今回も同じことが起きるかもしれません。再び孤立する人が出てくるのではという心配があります」。
そう話すのは、PSCスタッフの新沼鉄也さんだ。
仮設住宅からの移転が進む一方で、さまざまな事情で仮設住宅を出られない人もいる。
「保証人になる人がいないとか、交通が不便な場所にある復興公営住宅では生活できないという高齢者もいます。仮設住宅から移転すれば、新たに家賃が発生するので、ギリギリの生活をしている人は躊躇している。仮設住宅に取り残されている人が出ています」と新沼さん。
そこで、PSCでは仙台市からの委託事業として、今年4月に「仙台市住まいと暮らしの再建サポートセンター」を開所。
仙台市内の仮設住宅入居者が民間住宅へ転居する際のサポートを開始した。また、7月からは宮城県からの委託事業として「宮城県被災者転居支援センター」を開所。
仮設住宅の住民へのアンケートで移転先が未回答だった人を対象に、支援員が戸別訪問を行い、物件探しだけでなく、生活再建・制度利用の支援も行っていく予定だ。
東北に仕事を求めて集まる30-40代
こうした被災者を対象にした支援も継続しながら、PSCの事業としては、今年度から本格的に始まった生活困窮者自立相談支援へと重点を移してきている。
全国に窓口設置が義務づけられたこの事業は、生活保護の手前のセーフティネットとして自立サポートを行うことを目的とする。
PSCでは、昨年から仙台市青葉区でモデル事業を行っていたが、今年4月からは仙台市全区と宮城県の南部地域を担当。新沼さんも、いまはこの事業の窓口で相談を担当する。
「窓口が周知されたこともあって、開始当初は全区から相談がわっと押し寄せました。ここでは、これまであちこちの窓口で“たらいまわし”にされていた方たちを、ワンストップ型(※)で支援していきます。
就労についての相談がいちばん多いのですが、じっくり話を聞いてみると家族関係や精神疾患、借金など、複合的な問題を抱えていることがほとんど。30-40代で精神的な疾患を抱えていて、すぐに就労に結びつかないという方もいます」
(※)ワンストップ型:ひとつの窓口で、複合的な問題に関する相談を受け付けること
(自立相談支援センター「わんすてっぷ」の様子)
相談者の年代でもっとも多いのは40代だ。そのなかには、県外から除染などの仕事を求めて東北に来て、仙台にたどりついたという人も少なくない。
ネットカフェなどで暮らし、携帯電話で派遣の仕事を探す全国の30-40代が、仕事を求めて東北に集まっているのだという。
一時的に仕事には就くものの、仕事が切れて所持金が尽き、仙台市に来て支援を求めるというケースは後を絶たない。
路上生活に慣れていない彼らは、緊急シェルターに数日間宿泊し、次の派遣仕事が見つかるとどこかへ行ってしまうため、継続的な支援にはつながりにくい。
ほかにも震災に関連した相談では、震災のPTSDに関するものが増えている。生活が少し落ち着いてきた最近になって、震災当時のことが急に思い出される「フラッシュバック」が起きるようになったという相談だ。
「それがきっかけで仕事に支障が出たり、うつ状態やアルコール依存の原因にもなったりしています。もしかすると、震災のPTSDは、これから大きな問題になってくるかもしれません」と新沼さん。
増えている「路上予備軍」の存在
さらに、気になることも起きていた。仙台市郊外の24時間スーパーや入浴施設などの大型駐車場に、車上生活者の車が増えているというのだ。
「単発の派遣労働をしていたり、高齢者で少ないながらも年金があったりして、アパートに入居はできないけれど、車上でなんとか暮らしているような人が増えている。しかし、ネットカフェ難民と同じく、その実態は把握されていません」
車上生活が長期化することで健康状態の悪化も心配されるが、自分からSOSを出さない限りは支援につながりにくい。病気にでもなれば、すぐに生活は立ち行かなくなるだろう。こうした人たちは、いわば「路上予備軍」なのだと新沼さんは話す。
「全国でホームレスの人数は減少していると言われていますが、これまでのような路上生活者が減った代わりに、車上生活者や全国から東北に集まる派遣労働者など、仙台では路上予備軍が増えているように感じます。
そういう意味では、生活困窮の問題が見えにくくなっていて、以前よりもわかりにくい形になっているのかもしれません。
見えづらくなってきている問題を把握し、対応していくために、行政も支援団体も縦割りの支援から抜け出して、スムーズに情報の共有や連携を図れるようにすることが喫緊の課題だと思っています」
一般社団法人パーソナルサポートセンター(PSC)
分野をこえて様々な団体が連携し、さまざまな事情から安定した生活を送ることが難しい状態に寄り添い、伴走型支援を行いながら、社会福祉制度やサービス、介護事業所や福祉施設などにつなぐ手伝いをする。震災後から被災者支援を行っており、2015年4月からは生活困窮者自立相談支援事業として、仙台市全区と宮城県南部に事業所をもつ。
http://www.personal-support.org/
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一般社団法人 パーソナルサポートセンター
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