オンライン編集部より、『ビッグイシュー日本版』256号(2015/2/1発売、SOLDOUT)より特集「驚き!ウイルスの世界」の内容をご紹介いたします。
身近だけれども、よく考えるとまったくわからない「ウイルス」の世界。山内一也さん、高田礼人さん、武村政春さんの3人にお話を伺いました。
生き物?物質?菌とは違う?起源はどこに?…知られざる「ウイルス」の世界
ウイルスは「生物と共に生きる生命体」
ウイルスについてまず思い浮かぶ疑問は、これが生き物なのか否か。ウイルス研究の第一人者、山内一也さんはこのように語ります。
ウイルスの形は、遺伝情報をもつ拡散がタンパク質の殻に包まれたシンプルなもの。どんな生物も分裂して増えていくが、細胞を持たないウイルスはなんらかの生物の細胞に侵入して増殖する。では、細胞を持たないウイルスは生物なのか?無生物なのか?
長らく意見が割れてきたが、山内一也さんは、そんな生態をもつウイルスを「生物と共に生きる生命体」と呼ぶ。
「バクテリアやカビのような生物でも自力で二つに分裂して増えますが、ウイルスは生物の細胞に入り込んで、その材料で遺伝情報の複製とタンパク質の合成を行います。そして部品組立方式で子ウイルスを組み立て、ウイルス粒子をつくって、細胞外へ放出。なんと1日に数百万、数千万単位で増えていくのです。」
そんなウイルスの「起源」については諸説あり、詳しいことはまだわかっていません。が、30億年前の時点において、すでにウイルスの祖先が地球上に存在していたと考えられています。地球の誕生が45億年前と言われるので、早い段階から地球に存在していたということですね。
海には無数のウイルスがいる:地球環境にも大きな影響
さらに、地球環境にも多大な影響を与えている。
「海はウイルスの巨大な培養槽です。海の水をすくって電子顕微鏡で見ると、無数のウイルスがいます。すべてのウイルスの総炭素量はシロナガスクジラ7500万頭分の炭素量と同じで、海のウイルスすべてをつないだ長さは銀河系の直径の約100倍にあたる1千万光年になると推算されています。」
ウイルスはめぐりめぐって、雲の発生にも影響を与えているそうで。もしもウイルスが存在しなければ、地球環境は今とは大きく変わったものになっていたのでしょう。驚きです。
細胞核を生み出したのはウイルスかもしれない
ウイルスは、進化の原点ともいえる「細胞核」の誕生にも関わっていると考えられています。研究者、武村政春さんのお話です。
ポックスウイルスは他のウイルスとは異なり、宿主の細胞核に入り込まず、細胞質で複製、増殖することができます。そのポックスウイルスの祖先が、細胞核のなかった私たちの祖先の細胞に感染し、ポリメラーゼの祖先型遺伝子をもたらしただけでなく、細胞核の起源にもなったのではないかと考えたのです。
現在では、細胞質内でウイルスを増殖させていた「ウイルス工場」が、何億年という時間の中でのちに細胞核となり、真核生物が誕生したというのが私の仮説です。
「細胞核の誕生」は生物史において重要な意味をもっており、細胞核が存在することによって、生物は劇的な進化を遂げることができるそうです。武村さんは「細胞核は進化の原点」とも語っています。
日本人はウイルスへの危機感が薄い?
最後に紹介するのはエボラウイルスの研究者、高田礼人さんのインタビューより。日本には、エボラウイルスのような危険性の高いウイルスを扱える、高度な研究施設が存在しません。その理由について、高田さんはこのように推察します。
長らくアフリカを植民地としてきたヨーロッパ諸国は、よくわからない病原体が入ってくるリスクを常に背負ってきたこともあり、もしもの時には自国で診断し、薬やワクチンを開発できる体制が必要だという意識が国民のコンセンサスとしてある。その点、日本は島国だからか、危機感をもつ国民が少ない気がします。
ウイルスについて正しい知識を得ることは、社会のリスクを軽減させるためにも必要なことなのでしょう。
『ビッグイシュー日本版』256号(2015/2/1発売/SOLDOUT)
256号では他にもワン・ダイレクションのインタビュー、写真家のセバスチャン・サルガドのインタビュー、「『女の平和』 1・17国会ヒューマンチェーン」のレポートなどなど、多彩なコンテンツが掲載されています。
https://www.bigissue.jp/backnumber/256/
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