ピュー研究所(ワシントンD.C.拠点のシンクタンク)発表の報告書によると、親と同居している18〜29歳の米国人の割合がコロナ禍で増加しているという。関連記事には“世界恐慌以来の高い割合” との見出しが目につくが*1、それほど憂慮すべき問題と言えるだろうか。米クラーク大学心理学部のシニア研究員ジェフリー・アーネットの見解を紹介したい。


*1 52% of young adults in the US are living with their parents. That's the highest share since the Great Depression (CNN)
More Young People Living With Their Parents Than In The Great Depression, Report Says(Forbes)


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筆者は、思春期は脱したが自立した成人とは言えない 18〜29歳の若者を「成人形成期(emerging adulthood)」と呼び、長年研究を続けてきた。「大人であること」とは通常、安定した仕事があり、人生を共に歩むパートナーがいて、経済的に自立している人を指すが、私が研究を始めた30年前ですら、その「大人」になる時期は、それ以前よりも高齢化していた。

確かに現在の米国では、成人形成期の多くの若者が親と同居するようになっているが、これはより長期的な動向の一環であって、コロナ禍となってからの上昇率はそれほど大きくない。それに、成人した子どもと同居しているからといって、必ずしも親や子どもに長期的な害がもたらされるわけではない、というのが筆者の意見だ。

米政府の月例人口動態調査データを元にしたピュー研究所の報告書には、現在、親と同居しているのは18〜29歳の52%で、2月の47%から増加しているとある。特に若めの18〜24歳で顕著に増えており、その主な理由は「大学の閉鎖」や「失業」だった。

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コロナ禍で大学閉鎖となり実家暮らしの大学生が増えている/FG Trade via Getty Images

52%というのは過去100年で最も高い数値ではあるが、この数字は1960年に最低値29%に達して以降、着実に増加してきたものでもある。経済が製造業から情報・テクノロジーに移行する中で、20代になっても教育を受け続ける若者が増えたことがその主な理由だ。大学に身を置きながら自活できるほど稼げる人などほとんどいない。

米国の常識は必ずしも世界の常識ではない

個人主義が強い価値観として存在する今日の米国では、親は子どもが18〜19歳になる頃には家を出て自活することを当然のことと考えている。そうならなければ、我が子に何か問題があるのではと不安に思うほどだ。

しかしそんな米国でも、1900年以前までは、若者が20代半ばで結婚するまで親と同居することはよくあることで、何ら恥じることではなかった。10代前半で働き始めるのが普通で(高等教育を受けることなど稀だった)、家族も子どもの稼ぎに頼っていたし、女性が結婚前に家を出ることなどほぼなかった。

しかし米国以外の多くの国では、若者が20代後半になっても親と同居していることは今でもよくあること。イタリア、日本、メキシコ......どちらかというと個人主義より集団主義的な価値観を持つ国々では、親は成人形成期の子どもが結婚するまで家にいることを好み、夫婦が男性側の親と同居することも、数としては減っているものの、いまでも珍しくはない。現代の年金制度が登場する約1世紀前までは、年老いた親の世話は子ども夫婦が担うことが多く、世界最多の人口を抱えるインドや中国などでは今なお続いている。

親子ともに「同居」に相反する気持ち

ピュー研究所の報告書が発表されて以降、多くの取材に対応した。「恐ろしい事態ですよね?」彼らは訊いてくる。

コロナ禍で教育が後回しにされる、仕事を失ったことが恐ろしいというのなら、その意見には同感だ。しかし、成人形成期に親と同居することを、私は恐ろしいこととは捉えていない。家庭生活における他のことと同じように、いろんな事情が絡み合ってのことで、むしろ親子ともどもありがたいケースもあるのではないだろうか。

筆者が実施した18〜29歳を対象とした大規模調査*2では、76%の人が「思春期の頃より両親とうまくやれている」と回答したが、ほぼ同じ割合の74%の人が「金銭的に苦しくても、親から離れて暮らしたい」とも回答している。

*2 The Clark University Poll of Emerging Adults, 2012

親世代を対象に実施した別の大規模調査*3 では、18〜29歳の同居している子どもがいる親の61%がその生活環境を「おおむね肯定的」に捉えており、ほぼ同じ割合の人が「同居していると感情的な親密さが増す」と回答。その一方で、40%の人が「同居していることで心配ごとが増えた」、25%が「日常生活における言い争いや混乱が増えた」と回答。親たちも相反する感情を抱いているのだろう。

*3 The Clark University Poll of Parents of Emerging Adults, 2013

この予期せぬ同居生活を“恐ろしい”と決めつけるのではなく、我が子とあらためて向き合うチャンスとポジティブに捉えてみてはいかがだろうか。こんな生活も今だけ、長く続くものではない、コロナ禍のような非常時を生きる私たちはそう心に留めておくだけで幾分楽になれることも多いはずだ。

著者 Jeffrey Arnett
Senior Research Scholar, Department of Psychology, Clark University
※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2020年10月14日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

*ビッグイシュー・オンライン編集部補足

ビッグイシュー・オンライン編集部では、「実家を出られない若者」に対して「一時的」な「非常時」であればともかく、今後も続く可能性が高いのではないかと、上記記事の筆者より緊張感を持っている。各家庭の問題とせず、「社会問題」として向き合うべきで、引き続き、関連記事を取り上げていきたい。

参考記事

社会における「時限爆弾」:低所得ゆえに親元を出られない若者が増加している

若者の自立・家族形成の保障は住宅政策から(川田菜穂子)

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