一般社団法人「グリーンコープでんき」が画期的な裁判を起こした。グリーンコープでんきは、電力の小売自由化が制度改正されたことを受けて、「グリーンコープ生活共同組合」が脱原発を進めるために設立した小売電気事業者だ。原発フリーで二酸化炭素を発生しない電気を提供していて、供給区域は九州、中国、関西の1府14県と広い。


備えておくべきだった?! 2.4兆円の賠償負担金

しかし、電力自由化後に設立された小売電気事業者は送電線を持たないので、電気を販売する場合には関西電力送配電や東京電力パワーグリッドなど旧9電力事業者(※)が所有する送電線を借りることになる。

※  1951年に整備された独占的な電力供給体制。北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の9つの民間電力会社を指す

その費用は「託送料金」と呼ばれるが、これに今年の10月1日から余計なものが2つ上乗せされることになった。福島原発事故の賠償のための「賠償負担金」と原発の廃炉を進めるための「廃炉円滑化負担金」だ。

グリーンコープでんきは、この2つを託送料金に転嫁することは「違法」だとして、10月15日に福岡地裁に提訴した。託送料金は、経済産業省の認可事項なので、具体的には“経産省が九州送配電(株)に対して行った認可の取り消し”を求めている。

賠償金は当然、事故を起こした東京電力が負担すべきだ。ところが、経産省は「原子力事業者が賠償のために備えておくべきであった」として、事故前に原発の電気を使っていた全原子力事業者、そして全消費者にその負担を求めた。その金額は2.4兆円。この制度は2017年に導入が決定されたが、その際、「レストランで会計を済ませた後で、調味料の代金が含まれていなかったとして請求するようなもの」と多くの批判があった。考えられない理屈を経産省が捻り出してきたのだ。

全消費者で補う「廃炉費用」
なぜ原発だけが保護される

 また、廃炉費用も負担するべきは原子力事業者だ。現在、事業者は見込まれる廃炉費用を40年にわたって積み立てることになっているが、その積み立て金が不足する場合には、事業者が廃炉にしないことも考えられる。そこで廃炉を円滑に決断できるように、積み立て不足を「廃炉円滑化負担金」として消費者から回収することにしたのだ。福島原発事故の後に21基の原発が廃炉になったが、福島第一・第二原発の事故炉4基を除く17基にこの制度が適用されることになる。

 賠償負担金も廃炉円滑化負担金も、本来なら原子力事業者が負担すべきものを、全消費者に転嫁するというのだ。これらの制度は火力など他の発電システムにはなく、原発特有の保護策の一つと言える。
 だが、グリーンコープのように脱原発を目指して再生可能エネルギー100%を小売りしている事業者には余計な負担となり、大きな影響を受けることになる。それによって再エネが進展しない恐れも出てくる。

 これらの負担金は経産省が省令によって改正した「電気事業法施行規則」と「一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則」に基づく。しかし、その上位の電気事業法には省令でそのようなことを決めてよいとは書かれていない。さらに「書かれていなことを省令で決める行為は違法であり、違憲である」とグリーンコープでんきは主張している。
 憲法41条は「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定しているが、制定された電気事業法にないことを省令で決めることは、憲法にも反しているとの主張だ。裁判の行方を注視したい。
(伴 英幸)

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(2020年12月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 396号より)

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伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/

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