日本でもそうだが、アメリカでも大学生の生活苦が大きな問題になっている。大学入学後に両親からの支援が終了して貧困に陥る場合もあるが、それ以前から食や住まいに不安を抱えてきたケースもある。なんとか学費を納めても、生活で最低限必要なものを手に入れる経済的余裕がない学生もいる。さらには、そんな学生を大学側が十分に支援できていないことも多い。


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Photo by Nathan Dumlao on Unsplash

パンデミックによって状況はさらに悪化した。2020年、多くの学校がオンライン授業に切り替わると、寮住まいの学生の多くは実家に戻ったが、それができず、慌てて住まいを探さなければならない学生もいた。それまで頼りにしていた学生食堂も利用できなくなった。

2013年に設立された「大学、地域、公平のためのホープセンター*1」は、フィラデルフィアのテンプル大学内に拠点を置き、食料・住宅不安に関するさまざまな研究や支援サービスによって大学をサポートしている非営利団体だ。同センターが3万8000人の大学生を対象に行った2020年の調査によると、5人に3人の割合で「生活必需品すら買うことができない」経験をしていた。また、2年制大学で44%、4年制大学で38%の学生が、「食事の確保」に不安を感じていた。さらに、調査した4年制大学の学生の15%は、パンデミックのせいで「ホームレス状態」にあった。

*1 Hope Center for College, Community, and Justice
https://hope4college.com


親を支えながら自分の生活と学業を両立させなければならないケース

オハイオ州立大学に通う21歳の大学生マヤは、大学入学前から食費の捻出に苦労していた。高校生のときは、母親が受けていた「補助的栄養支援プログラム(SNAP)」、いわゆるフードスタンプで家族の食事の足りない分を補っていた。家族を支えるため週40時間アルバイトをしていたが、大学に入ってからはそれもできなくなった。

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beauty-box/photo-ac

「4年制大学で教育を受けること自体、贅沢なことだろうと思う人もたくさんいるかもしれませんが、本当はそうではないはず」とマヤは言う。「母と一緒に住んでいたとき、母が私を支えるどころか、むしろ私が助ける側でした。両親に頼れるとは限らないので、やはり政府の援助が必要です。私たち大学生は独り立ちしたばかりなのですから」

一学期分のやりくりができなくなったこともある。学生ローンは通らず、どうやって授業を履修しながら生活必需品のお金を捻出すればよいのか、その方法が分からなかった。「お金のあるルームメイトたちが、食事代を出してあげると提案もしてくれました。でも、そもそもルームメイトたちに私の面倒を見る責任なんてないはずです」と語ると、込み上げる思いがあるようだった。

問題山積みだったところに、パンデミックが追い打ちをかけている。幸い、マヤは政府からのコロナ支援金を受けられたが、受け取れなかった学生もいる。1回目、2回目の現金給付では、大学生ぐらいの年齢の「扶養家族」は給付対象外とされたのだ。ここで言う「扶養家族」とは、成人であっても親の税金から扶養控除がされている場合だ。大学のカフェテリアが休業し、学生寮も閉鎖になる中で大きな影響を受けたにも関わらず、この年頃の「扶養家族」たちは政府の支援から外された(注7参照)。

大学内で無料配給サービス、食のセーフティネット

学生たちが少しでもまともな生活を送れるよう取り組んでいる大学もある。ペンシルバニア州グレンサイドにあるアルカディア大学では、多くの学部が閉鎖している間も、住まいを確保できていない学生に、キャンパス内の寮で生活することを許可した。

さらには、「食料庫の騎士*2」という無料の食品支給サービスもパンデミック以前から実施している。学生は無条件で利用でき、好きな商品を持ち帰ることができる。生活支援課が管理しているが、運営はほぼ学生たちの手によるものだ。

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「食料庫の騎士」に届いた地域からの寄付物資

*2 Knight’s for Nutrition Food Pantry
https://www.arcadia.edu/university/offices-facilities/knights-nutrition-food-pantry

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タイアナ・テイラーは、週に3日、このサービスの運営を手伝っている。「多くのニーズがあります。学生たちがこの支援に頼ることを恥ずかしいと思わず、気兼ねなく、必要なものを自由に持ち帰ってほしいです。食事をする権利は誰にもあるのですから」

生理用品、洗剤、デオドラント品なども取りそろえている。必要に応じて、地域の食品配給サービスからの無料宅配オプションも選べる。

まさに「食のセーフティネット」だ。大学生だって授業についていくのに必死、フルタイムで働いているようなもの。そんな大学生が、特にパンデミックのようなときに、食べものの心配をしなくてはいけないなんておかしいですよね、とテイラーは言う。

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食料品の詰め合わせをピックアップすることも可能

「食品の配給にとどまらず、あらゆるリソースを提供する場所でもあります。例えば、フードスタンプの登録方法なども学生たちに伝えています」

ミールカードの「余り」を130校で共有する「スワイプ・ドライブ」

「スワイプ・アウト・ハンガー*3」は、カルフォルニアに拠点を置きながら、活動は全国規模で行っているNPOだ。大学や学生たちによる食料不安撲滅プログラム立ち上げをサポートする目的で、2010年に設立された。

*3 Swipe Out Hunger
https://www.swipehunger.org


広報責任者テニル・メッティ・ボーリングは、特に評判のよい活動「スワイプ・ドライブ」について説明してくれた。「これは、さまざまな大学の学生たちが、ポイントの余ったミールカードを食事に困っている仲間のために活用する取り組みです」

米国のほとんどの大学には「ミールプラン」があり、学生たちは「ミールカード」を「スワイプ(機械にさっと通す)」する仕組みになっている。カードには、プランに応じてスワイプできる数やポイント数が割り振られていて、それを消費してカフェテリアに入場したり食事したりできる。まだ「スワイプ」できる回数が余っていれば、それを食事に困っている学生たちに無料で提供できるという仕組みだ。

サービス利用資格は、「スワイプ・アウト・ハンガー」が提携している130の各大学で異なるが、この仕組みにより、大学生たちの食の不安を減らすことができると考えている。学生たち自身にこの活動の中心に立ってもらうことで、食料不安問題は恥ずべきものではないとの考えを広めている。

「どんな人でも、どんな生い立ちでも、食料不安に陥る可能性はある。それぐらい蔓延している問題です。ある大学で支援プログラムを立ち上げた学生たちは、アスリートの友人や、大学を代表するような友人たちでさえお腹を空かせている状況を目の当たりにし、活動を始めることにしたと言います。私たちのすぐ目の前に食事にありつけない人たちがいる。なのに、それになかなか気づきにくい現実。食料問題への偏見のせいです」とメッティ・ボーリングは言う。

パンデミックによって活動の変化を余儀なくされる中、フードデリバリー企業「グラブハブ」と提携し、学生たちが割引食品の配達を受けられるようにしている学校もある*4。

*4 A Week in the Life of a University of Minnesota Anti-Hunger Advocate

先述の「ホープセンター」では5年前から、大学とはどうあるべきかを再定義する「#RealCollege」活動を推進している*5。学問に取り組むには、食や安全な住まいなど基本的ニーズを満たすことが先決、学生たちは「学生である前に1人の人間である」との考えに基づいた取り組みだ。

*5 https://hope4college.com/realcollege/

ホープセンターの研究者ジェニファー・キングによると、基本的な生活必需品を手に入れられない問題は以前から存在していたが、パンデミックによってより顕在化したと語る。「高等教育に関わる人、行動力ある人たちに、ドキュメンタリー作品『Hungry to Learn(学びへの飢え、日本未公開)』を観ることをお勧めしています*6。これは『#RealCollege』に関わっている学生たちが多くの問題に向き合いながら、どのように大学で学ぼうとしているか、その実態を取り上げた作品です」

*6『Hungry to Learn』はジャーナリストのソルダッド・オブライエン率いるチームが、食料不安に悩む4人の学生の生活を追ったドキュメンタリー作品。こちらのリンクから視聴可。

「まず大事なのは調査です」とキングは言う。「大学や学生との対話をすすめ、いま何が起きているのか、どんな対策を打てるのかを把握する。その上で、州や国に働きかけていく。大学生の学位取得を実現させるには、大学組織が変わるだけでなく、構造そのものを変えていく必要がありますから」

バイデン政権下での新たな動き

2021年1月、バイデン大統領は、1兆9000億ドル(約207兆円)を投じる「アメリカン・レスキュー・プラン(米国救済計画)」を発表した。上下院で可決し、3月11日バイデン大統領による署名で成立した。3回目の現金給付に、初めて成人の扶養家族(18歳以上)も含まれ、大学生も1400ドル(約15万円)の給付を受け取れることとなった*7。

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 Photo by Darren Halstead on Unsplash


*7 1回目、2回目の給付では扶養家族の条件が16歳以下だったが、3回目は年齢制限がなくなった。3回の給付条件の比較: Every way the new $1,400 stimulus check compares to the $600, $1,200 payments

これまで大学生はフードスタンプの対象外とされていたが、条件次第では利用できるようになりそうだ*8。こうした施策変更の動きは決して迅速ではないが、実現すれば、多くの学生が恩恵を受けられるだろう。

*8 大学生のフードスタンプ条件変更について https://www.fns.usda.gov/snap/students

「大学という新しいステージに足を踏み入れたばかりなのに、困難を抱えていても何事もないかのように振る舞わなければならない。食事をし、生活費を支払い、大学の授業に出席する、すべてをこなすのは、実際のところかなり大変です」とマヤ。

高等教育を目指す者たちが最低限の生活が送れるよう、彼らの支援を考慮すべきだ。空腹では大学生活はやっていけない。

By Jill Shaughnessy
Courtesy of INSP.ngo


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