メキシコでは水問題が深刻だ。特に、ラテンアメリカ最大の都市メキシコシティの状況は深刻で、都市から水資源が枯渇する日「デイ・ゼロ」が近いと予測する団体もある*1。2030年に危機が本格化すると専門家たちが予測しているこの問題を解決してくれるのは、雨水かもしれない。これまでほとんどが排水施設へ流されるだけで、ときに洪水や土砂崩れの原因となってきた雨水ーーどう問題を解決するというのだろうか。国際通信社インター・プレス・サービスの記者エミリオ・ゴドイの報告記事を見てみよう。

※以下は2021/7/12に公開した記事を加筆・修正した記事です。
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*1 参照:Mexico City’s Water Crisis on the Eve of “Day Zero”

雨水採取システムを取り付け、“救いの雨”を待つ住人

2019年度報告書によると、メキシコシティでは8つの管轄区域(南部と東南部)に暮らすおよそ1万5千人が、水不足の状態にあるという。さらに、メキシコシティの住民のおよそ7割は、1日のうち水を使えるのは12時間未満と決められている。

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メキシコシティ南部のテウイスティトラ地区やゾチミルコの丘陵地域の住人たちにとっては、雨季に貯蔵した雨水を使い切り、タンクローリーでの水の供給が遅れると、残された方法は1つ、ロバが運搬する水のジェリー缶を購入するしかない。
CREDIT: Emilio Godoy/IPS

メキシコは、アメリカ大陸でチリに次ぎ2番目に雨が降らない国だ。2020年のメキシコの降雨量は年平均722ミリメートル、ここ数年の平均779ミリメートルを下回っている*2。2040年には、メキシコ中部から北部の一帯が水不足に陥る可能性があると言われている。

*2 日本の年平均降雨量は1718mm。国土交通省のサイトより

メキシコでは最近も干ばつが猛威をふるっており、特にメキシコシティは深刻だ。主な水源であるレルマ川とクツァマラ川のダムおよび貯水システムの貯水率は50パーセント未満にとどまっている。水不足に陥った地域では、政府が水の配給を余儀なくされている。

水不足対策として2016年よりすすめられている政府プログラムが「雨水採取システム(Rainwater Harvesting Systems : 以下、RHSシステム)」の供給だ。2020年までに5つの管轄区域で2万以上の雨水採取装置を設置した。

「雨水を一切無駄にしない」

メキシコシティ南部、ゾチミルコ管轄区域にあるテウイスティトラ地区(人口約2500人)では、雨は喜んで迎えられる。「RHSシステム」を使って、シャワーを浴びたり、食器や衣類を洗ったり、料理ができるのだから。丘の間に位置し、公共の水道が届いていなかったこの地区は、管轄区域内で最初にRHSシステムが導入された。

「雨が降り出すと、とてもうれしいです。水が汚れたり、つまったりしないよう、屋根や雨どいは普段からきれいに手入れしています」住民のガビノ・マルチネス(63歳)は言う。自宅の屋根を指差し、雨水を集める装置について説明してくれた。3人の子どもの父で、仕事は地域の“何でも屋”のマルティネス、「私たちは雨水を一切無駄にしません。すべて貯めて、使い切ります」と話す。

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自宅に取り付けた雨水採取システムを清掃するガビノ・マルチネス。
水道管が通っていないこの地域では、5〜11月の雨季に貯めた雨水を、料理・洗濯・入浴に使う。
CREDIT: Emilio Godoy/IPS


2008年におよそ270ドル(約3万円)でこの装置を設えた。雨季に雨水を集め、生活に必要な水をまかなうのだという。今は、前年の11月に貯めた雨水がまだ少し残っていると言う。次の雨まであと何週間あるか指折り計算しているところだ。あくまで例年の降雨時期が変わらなければの話だが。

設備の導入以前は、その場しのぎの仕組みで雨水を集め、木綿の布を使ってろ過していた。もしくは、配水用タンクローリー「ピパス」から水を購入し、容器に入れて家まで持ち帰っていた。

RHSシステムに使うタンクは、雨を司るアステカの神の名前にちなんで「トラロック」と呼ばれている。この容器でろ過し、不純物を取り除いた水を5千リットルのタンクに貯め、地区内の供給網へと分配する。貯蔵する水がなるべく清潔になるよう、最初の2、3回分の雨水はそのまま流すようになっている。

RHSシステムの地方エリア版が2016年に始動した。2020年までに4500人が雨水採取のメリットを受けられ、2021年はさらに1万1500人が対象となる見込みだ。2020年には、各家庭に約900ドル(約9万9千円)の補助金が支給された。

雨水採取をすすめる市民団体イスラ・ウルバナ

市民団体「イスラ・ウルバナ(都会の島)*3」は、早い段階からRHSシステム導入を推進してきた雨水採取のパイオニアだ。2009年以降、メキシコ各地で約2万1000のRHSシステムを設置し、国際的にもいくつも賞を獲得している。この10年の雨水採取システムの進歩について、創設者のエンリケ・ロムニッツは言う。「市場やプロモーションの仕組みが進化しています。雨水採取システムにより、水のニーズが満たされ、政府への支援を求める圧力も弱まりました」

メキシコシティの一部の地区では、雨水が唯一の水源であることを強調する。「この国の水の量は、季節によって大きく左右されます。なので、雨水の採取が本当に重要なのです。空からの恵みを無駄にはできません」

*3Isla Urbana https://islaurbana.org/english/

山地に位置するトラルパン管轄区域に住むシルビア・アビラのような住民にとって、RHSシステムは救いの手だ。夫を亡くし、4人の子どもを育てている彼女は言う。「以前はとにかく水が足りず、ひどい状況でした。政府は月に一度タンクローリーで水の配給をしていましたが、配給場所まで1kmも歩かなければならず......。それでも、生活に最低限必要な分は足りず、水を貯めておくタンクすら持っていない人もいました。水も援助もなく、ここはまさに砂漠でしたよ」

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テウイスティトラ地区の町中には、水のタンクが並べられている。この地域の住人は自宅の横にこのタンクを置き、タンクローリーで運ばれた水を購入し、ジェリー缶に入れて、貯めておく。 CREDIT: Emilio Godoy/IPS

アビラは装置取り付けに約230ドル(約2万5千円)を負担した。「今では雨が降ると、生活に最低限必要な水が確保できます。多くの家庭がRHSシステム入手し、自分たちで作物を作って生活できるようになりました。少しずつ、持続可能な生活を手にしています。このプログラムは、近隣エリアにも広がっています」

「RHSシステム導入プログラム」の2019年度内部評価には、システム導入の数値的目標は達成されたこと、利用者たちの満足感や高い評価を得ていると述べられている。2021年には、8つの管轄区域にまでRHSシステムの導入を拡大する見込みだ。

By Emilio Godoy
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo

メキシコの水問題について
https://water.org/our-impact/where-we-work/mexico/

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